「赫い夜」リリースインタビュー
yamaへの楽曲提供も話題 クリエイター john=TOOBOEに聞く、ソロプロジェクト始動の背景と創作活動の原点
2020年、ネット発アーティストの躍進が目覚ましい。そんななか下半期、要注目のニューカマー・TOOBOE(トオボエ)を紹介したい。TOOBOEとは、2019年4月からボーカロイドプロデューサーとして活躍するjohn(ジョン)によるソロプロジェクト。これまで、johnとしてリリースした「春嵐」はYouTubeで180万再生を突破。編曲からイラスト、動画まですべて一人で手掛けるマルチクリエイターであり、TOOBOE名義としては、10月21日にリリースされた気鋭のシンガー・yamaのメジャーデビュー曲「真っ白」の楽曲提供者としても話題のクリエイターだ。
そんな、未だ謎めいた存在感を持つTOOBOEが、初のオリジナル楽曲「赫い夜」(アカイヨル)を10月28日にデジタルシングルとしてリリースした。
今の時代感に寄り添ったR&Bテイストによる、歌が力強く突き刺さるナンバー。TOOBOEは若いながらも歌謡曲やJ-POPアーカイブに詳しく、曲作りに大きなこだわりを持つ。本作で印象的なDJスクラッチには、DOTAMA氏のバックDJでもあるDJ YU-TA氏、ベーシストにはarko lemmingやドレスコーズなどで活躍する有島コレスケ氏、MVには気鋭の映像作家Rai Hashimoto氏を起用するセンスも興味深い。ミステリアスな風味をまとい、歌心を大事にしたポップセンスを今の時代にアップデートするTOOBOEに話を聞いてみた。(ふくりゅう)
最初、曲を作る衝動は怒りが強かった
ーーボカロPとして活躍されたjohnから、今回、本人歌唱&作家活動を展開するTOOBOEというソロプロジェクトを立ち上げた理由を教えてください。
TOOBOE:ボーカロイドの楽曲では初音ミクを使っているんですけど、彼女に楽曲を書いているという意識でやっていました。これが自分で歌ったり、他のシンガーの方へ楽曲提供するとなると、全く曲の作り方が変わるんですね。それで、意識分けの意味を込めてTOOBOEという名義を作りました。
ーーjohnのアイコンやイメージが犬だから、そこから転じてTOOBOE=遠吠えというネーミングに?
TOOBOE:johnの楽曲のテーマが“負け犬”というか、負の要素が大きかったんです。そこから、“犬の遠吠え”という言葉が好きで拾った感じですね。johnをはじめた当時、私生活的に辛い部分があって、感情の思うままに作ったらこうなったというか。きっと、ダークヒーローに惹かれるんだと思います。最初、曲を作る衝動は怒りが強かったんですよ。でも、聴いてくれる人が増えたことで、だんだんと自分と同じような人に勇気を与えられたらと思うようになりました。聴いている間は楽になれるというか、救済になるような。そういうダークヒーロー的な存在に憧れています。
ーーなるほど。今回、TOOBOEとして自らの歌唱曲「赫い夜」をリリースされました。印象的なスクラッチ音をはじめ、様々なギミックがサウンドに取り入れられたユニークなR&Bに仕上がりました。
TOOBOE:ボーカロイド曲の作り方は一旦取り払って、一般的な邦楽をイメージしました。僕の好きな昭和〜90年代の流行歌的なキャッチーさを入れて、そこに最近の横乗りのビートを強めつつ、DJ YU-TAさんにスクラッチで参加していただくなど、ボカロの時にはしなかったチャレンジをしています。
ーーもともとどんなきっかけで音楽を好きになったんですか?
TOOBOE:もともと、音楽を嗜んでいて。小さい頃からピアノを習っていました。中学生の頃にギターを手に取った時に改めていいなと思ったんです。そんなタイミングでDTMといいますか、パソコンを中学卒業時に買ってもらいました。それで、 「GarageBand」で曲を作るようになって。好きな曲を耳コピしたり、譜面に起こしたりして遊んでいました。そんな流れから自分で作ろうと思ったんです。
ーーそこからボーカロイドとの出会いというのは?
TOOBOE:ニコニコ動画やYouTubeでバルーンさんの「シャルル」やナユタン星人さんとかを知って。面白い世界があるなと、それから興味を持ちました。その頃は曲を作るのが趣味だったので、すぐに初音ミクのソフトを買って作品を投稿するようになりましたね。
ーーTOOBOEさんは、2019年にjohnとしてボカロPデビューをされました。この1年、濃密な1年だったんじゃないですか?
TOOBOE:この1年は人との出会いが大きくて。ボーカロイドというのは、みんなが共通したボーカルのツールを使って、いかに個性を出すかが大事だったんです。いわゆる編曲の世界というか。そんな編曲の知識を持った方々と出会えて話せたのは刺激を受けましたね。
ーー仲の良いボカロPの方はいらっしゃいますか?
TOOBOE:特に仲良くさせてもらっているのは、煮ル果実さんですね。
ーーTOOBOEさんのオフィシャルサイトで対談もされていましたね。
TOOBOE:彼は、僕よりもボカロ文化に詳しいので、今の界隈に発信するカードが洗練されていますよね。MVにアニメーションを取り入れていたり、そういう部分を見習いながら活動してきました。
yamaへの提供曲は「ボーカルの美味しいところを活かせる曲を」
ーーでは、TOOBOEらしさ、について教えてください。
TOOBOE:やっぱり負の感情が大きいですね。悔しいというか、今世間的にも鬱屈した話題が続くなかで、僕みたいなメッセージを発信する人間は“辛くても頑張れるよ”ってことを書きたいなと思っています。それが僕の表現へのエネルギーになります。
ーー創作の根源ですね。今回リリースされた「赫い夜」はサウンドの質感としてはR&Bというか、洋楽テイストを取り入れられていますよね。
TOOBOE:90年代に、洋楽の流れを取り入れてJ-POPのフィルターを通して発信していた音楽ってあるじゃないですか。小沢健二さんの「今夜はブギー・バック」とか。今もなお聴かれている曲で。あれぐらい強度の高い曲を目指しました。当時、ヒットしていたんだろうなっていう残り香があって。言語化できないんですけど、基本的にそんな曲を作れればと思っています。。なので、「赫い夜」もトラックにこだわりました。ビートはとても大事にしていて、一回聴くだけじゃすべて拾えないぐらい面白い音が入っています。
ーー今回、「赫い夜」を生み出すにおいて影響を与えてくれた曲はありますか?
TOOBOE:スガ シカオさんの「黄金の月」という曲にかなり影響受けていますね。。いいメロディは歌詞との合致性というか。他にはサザンオールスターズさんの「真夏の果実」なんかも、サビのメロディと歌詞が持つイントネーションのハマり具合が素晴らしいんですよ。僕もそこは、作るときにこだわっています。
ーー作詞という視点で、影響を受けた方は?
TOOBOE:やっぱりスガ シカオさんですね。他にも作家の奥田英朗さん。彼らのように歌詞を考える時は難しい言葉を使わないように気をつけていて。でも、説明的で幼稚な感じにはしたくないので、風景の描写をしっかり表現したいと思っています。作詞というよりも、映像的なものが頭にあって、それを言葉にしていくというのが多いですね。
ーーTOOBOEさんって、子供時代はどんな夢を持っていた子なんですか?
TOOBOE:漫画家を目指していました。
ーーああ、その物語を作るセンスが言葉の情景描写などに反映されているのですね。ちなみに、yamaさんのメジャーデビュー曲「真っ白」では楽曲提供をされましたが、作家活動も夢としては大きかったのですか?
TOOBOE:作家活動の方が好きかもしれないです。テーマや資料をいただいて、それに応える創作活動というものが肌に合いますね。yamaさんへ作った曲は、僕がこれまで作ってきた曲とはだいぶ違います。ボーカルの美味しいところを活かせる曲をと思って。yamaさんは歌詞に力を持たせられる方なので、まっすぐな歌い方に合うような曲にしました。