TOOBOE、「oxygen」で表現した生きる上での“息苦しさ” J-POPのフィールドで向き合った自分が歌うべきこと
自分の声だからこそできることをずっと意識している
ーー提供曲や参加曲を含めると制作のペースが早い印象がありますが、日々どれくらいの時間を曲作りに割いてますか?
TOOBOE:取り掛かったら早いんですけど、それまでの考えている時間が長くて。例えばyamaさんに提供した「麻痺」のようなアニメタイアップの曲だったら、まず資料を読み込んで、考える時間に2〜3日は掛けます。その後にデスクに向かって作り始めたら大体3〜4時間で書き終わりますね。
ーー考える時間というのは具体的に何を考えてるんですか?
TOOBOE:歌詞についてです。原作があるものはそれを読んで、こういうことを言おうとか、こういう感じならこの作品に合うかなとか、この歌い手さんにはこういうことを歌ってほしいとか。最近はご依頼いただいたものを作ることの方が多いので自分の曲を作ることが減ってますが、「向日葵」のように何のタイアップでもない曲を作る時は、何も考えずに作り始めることもあります。祈るようにパソコンを起動して、今日は何か出るかなって。運が良いと出るんですけど、もちろん何も出ないこともある。「向日葵」は運良く出たタイプですね。
ーーボイスメモにメロディを溜めておいたりは?
TOOBOE:全然しないですね。頭を空っぽにして、パソコンに向かって偶然出たものを大切にしてるんです。その方が良い曲になることが多くて。もしくはメモしなくても忘れずに覚えているものがあったら、それをそのまま使います。それぐらい強いメロだったということなので。
ーー最近だと菅原圭さんの「ミラ」の編曲が素晴らしくて何度も聴いています。この曲の制作時のエピソードがあれば教えてください。
TOOBOE:去年「ABAKU」という曲を一緒にやらせていただいたんですけど、その時に彼女がアレンジの勉強をしたいと言ってたんです。それなら試しに楽曲の種をもらって、編曲の一例を僕が作ってみるのはどうかと提案したら、歌とピアノだけの「ミラ」のワンコーラスが送られてきました。それを元に作ったら気に入っていただけて、実際にリリースまで至ったようです。
ーーギターの綺麗な音色が印象的です。
TOOBOE:自分の曲ではあまりやらないような、アコギ主体の爽やかな感じにトライしました。もし僕の声で歌っていたとしたらアレンジの方向性も変わっていたと思います。菅原さんの声だからこそ出たものでした。
ーー菅原さんにしろyamaさんにしろ、TOOBOEさんとは真逆の声質ですよね。その差は制作にどれくらい影響しますか?
TOOBOE:作る時に歌う方の声を脳内再生して、その声にはこう歌ってほしいみたいなことを想像しながら作るので、自分の曲を書く時とは全く違うものが生まれます。yamaさんならyamaさんが歌うからこそ響く言葉やメロディがあって、自分が歌う時は自分の声じゃないと合わないもの、自分の声質だからこそ歌うべきことがある。その違いはかなり意識してますね。何より声の持つ性格みたいなものが生きるようにしたい。それと提供先の人たちがすでにやってることはやりたくないなと。だから今回yamaさんが同日にシングルを出しますけど、これはyamaさんが歌うことで完成するような曲で、なおかつyamaさんが今まであまりやったことがない曲調の作品を提出しました。
ーー機械が歌うボカロと違い、ソロプロジェクトのTOOBOEでは自分自身で歌うということで、自分の声を生かすプロデューサー的な意識はありますか?
TOOBOE:あります。単純に言うと初音ミクは世界の歌姫なので、同じことをしても勝てるわけがない。初音ミクには歌えないような、自分の声だからこそできることをずっと意識してます。それを見つけるのに1年以上かかりました。ーーなるほど。では、現在のボカロシーンはどのように見てますか?
TOOBOE:今ってボカロだからダメという風潮が薄くなってると感じますね。ボカロ一筋のボカロPの方がドラマのタイアップを取って、テレビドラマのエンディングで初音ミクの声が流れたりしても全然良いと思ってます。世間的にはまだ難しい空気があるのかもしれないですけど、去年あたりからその壁は崩れ始めてますよね。なんとなくあと10年くらいすれば、当たり前にボカロが街で流れるようになるんじゃないかなと。だから今、ボカロ作品が地上波で流れたり、サブスクのチャートに上がることがめちゃくちゃ嬉しいんです。
ーーそうした時代の変化の中で、あえてJ-POPへとフィールドを移したのはなぜですか?
TOOBOE:僕の場合は元々スガ シカオさんへの憧れがあって、自分で歌ってみたいという思いがありました。だから決してボカロからJ-POPへはステップアップとして捉えてなくて、単に曲を出す手段を一つ増やしただけ。今でもボカロも歌もどっちもやりたいと思ってます。
ーーそんな中、メジャー1stシングル曲「心臓」のMV再生数が先日500万回を突破しました。この反響についての率直な思いを聞かせてください。
TOOBOE:想像以上なのは間違いないです。本当にたくさんの人が聴いてくれたんだなと。それは素直にありがたいですね。ボカロじゃないと聴かない人や、ボカロじゃないからもう聴かないって人もいると思ってたので、僕のこの活動には否定的な見方もあるんじゃないかとずっと不安がありました。ただ今回に関してはMVが良くて、それが主な要因なのかなと。今の邦楽の特異点を取ったMVだったんだなという。
ーー映像の力が大きかったと。
TOOBOE:そうですね。視覚情報はやっぱり大きいですから。とはいえ楽曲がなければ映像も生まれてないので、そこは何とも言えないところではありますけど。単純に数字という観点で一安心した感じです。ボカロでもTOOBOEでもヒット曲を生み出せて良かったと、最近やっと落ち着いてきた感じです。
ーー海外からのコメントも多いですよね。
TOOBOE:海外のインディーズアニメで有名な方が広めてくださったらしくて、その力も大きかったのかなと思ってます。
ーー今後、音楽シーンでどんな立ち位置を確立したいですか?
TOOBOE:ボカロPが自分で歌うようになると「米津玄師の再来」って言われちゃいますけど、別に米津さんになりたいわけじゃなくて、もっと違う玉座に行きたい。MVも含めて特異点がキーワードだと思っていて、売れ線じゃなくても目立つものを生み出して、それは僕からしか摂取できない状況を作れたらいいなと。
ーーすでにそんな雰囲気が漂っているように思います。ライブからもTOOBOEさんの異端児っぷりを感じました。
TOOBOE:僕はボカロをずっと聴いてボカロPになったっていうタイプじゃなくて、ロックバンドの曲を聴いて育ってボカロPになったタイプなので、佇まいや精神性がそもそも他の方と違うんだと思います。
ーー確かに。実はロックの人ですよね。
TOOBOE:見た目にしても最初は他の人の格好に倣うか悩んでたんですけど、ある時から好きなようにやればいいじゃんって思って、それから自由にやってます。髭生やすのも好きだし(笑)。これからもライブでは4〜5人のバンド編成でやっていくつもりです。
■リリース情報
TOOBOE『oxygen』
2022年6月22日(水)配信リリース
配信リンクはこちら
<収録曲>
01. oxygen
02. 向日葵
■関連リンク
公式ホームページ