DECO*27、R Sound Design、じん……代表曲リメイクから見えるボカロシーンへの新たなアプローチ
じん「チルドレンレコード(Re:boot)」
最後に紹介するのは、じんの「チルドレンレコード(Re:boot)」だ。作曲家に留まらず、小説家や脚本家としても活動するじんは、ボカロシーンに大きな変化をもたらした。じんの手がけるマルチメディアコンテンツ『カゲロウプロジェクト』は、楽曲が連作の物語となっており、その世界観が訴えかけるメッセージは多くのリスナーの心に響いた。
同プロジェクトのテーマソングである「チルドレンレコード」をリアレンジした本楽曲は、自身の活動10周年記念の第一弾として2021年4月に公開された。再起動を意味する「Re:boot」版では、冒頭で〈少年少女前を向け〉と高らかに歌い上げる。原曲は轟音をかき鳴らすようなギターやベースが印象的であったが、疾走感を保ちつつも広がりを抑えたクリアな印象に。締まりのあるドラムサウンドが曲のメリハリを生み出し、2番のCメロでは、その変化が顕著に表れ独特なビート感を楽しませる。こうしたサウンドの違いが聴き手の感覚を刺激する一曲になっている。
どの曲も周年記念としてリメイクされていたが、その背景には若いリスナー層への働きかけも理由の一つとして考えられる。TikTokや『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』など、10代が多く利用しているプラットフォームの中では、発表された年代を問わず多くのボカロ曲が使用されている。これにより、若い世代のボーカロイドに対する土壌が豊かになる導線が生まれたと考えられる。
ここまで触れた楽曲を振り返ると、どれも現代のサウンドに合わせた工夫がなされていた。これは、当時この楽曲たちをリアルタイムで視聴していたボカロリスナーに限らず、新たな世代へのアプローチにも繋がると言える。リメイク版を通じて、若年層にアプローチしていく姿勢は、再熱しつつあるボカロシーンをより盛り上げていくのではないだろうか。何よりも、何年経っても愛されるボカロ曲の完成度の高さと変化に呼応する柔軟性は、今後もインターネット文化を支える柱となっていくはずだ。