Matt Cabが作り出す“人と繋がる音楽” Spotify『Works』プレイリストとともに紐解くクリエイターとしての信念

Matt Cabが作り出す“人と繋がる音楽”

 オーディオストリーミングサービス Spotifyが提供しているプレイリストシリーズ『Works』。2019年秋にスタートした同シリーズでは、作詞家や作曲家、プロデューサーにスポットライトを当て、彼らが手がけた作品の魅力を体系的に紹介している。第1弾では阿久悠、筒美京平、TK 小室哲哉、松任谷由実、松本隆をはじめとする50名、第2弾ではUTA、Kan Sano、Jeff Miyahara、tofubeats、ヒャダイン、Matt Cab、mabanuaら16名のプレイリストを公開。この取り組みを通じ、日本の音楽クリエイターと彼らが生み出した作品の数々を世界のリスナーに向けて積極的に発信していく。

 今回リアルサウンドでは、『Works』シリーズに参加しているMatt Cabにインタビュー。プレイリストに収録されている楽曲の話題はもちろん、プロデューサー/ソングライターとしての心がけや、Spotifyとのその他の取り組みについてなど幅広い話を聞いた。(編集部)

楽曲提供者としても大切にする“遊び心”と”コミュニケーション”

Matt Cab(写真=西村満)

ーーR&Bシンガーとして活躍されていたマットさんが、楽曲提供を始めるようになった経緯は?  またそのきっかけとなった曲を教えてください。

Matt Cab:もともとクリエイティブなことが好きで、自分で曲を作って歌っていました。曲作りを本格的に始めたのは、大学でバンド活動をしていた時ですね。その頃はヒップホップバンドをやっていて、そこでピアノを弾きながら歌ったり、地元の友達と曲を作っていました。その流れでソロでも音楽を作りだしたことで、シンガーになりました。

 ただ、シンガーとして自分で作った曲を歌うことは僕にとって生き甲斐のひとつでしたが、それだけだと限界があるというか。クリエイターとしては、自分にマッチしている曲だけでなく、もっと自由に曲作りをしてみたいとも思っていたんです。そんな時に以前、コラボしたプロデューサー・Chikara“Ricky”Hazamaさんとの共作で、w-inds.さんに「Listen to the Rain」という曲を提供することになったのですが、そのことがきっかけになって自分のアーティスト活動と並行して、他のアーティストに楽曲提供するようになりました。

ーーこれまで多くの楽曲を提供してきましたが、客観的に見て“Matt Cab”というプロデューサー/ソングライターの強みはどんなところにあると思いますか?

Matt Cab:もともとフィーリングを重視しながら楽曲制作していることもあって、楽曲提供する時もアーティストと遊びの延長線上のような感覚でセッションしながら作ることが多いんです。そうすることでそこでしか生まれないものを作ることができるのですが、そういった遊び心があるところにまずひとつ僕の楽曲提供者としての強みがあると思っています。

 それと人種的にも文化的にも多様な街として知られるサンフランシスコで育ったことやアメリカから1人で日本にやって来たこともあって、僕はコミュニケーションの中で相手が求めていることを読み解いていくことの大切さをよく理解しています。だから、楽曲を提供する時はアーティストとやりとりを重ねながら最終的に曲を完成させることが多いですね。

 機械的ではなく、人間らしいアプローチにすることで、そのアーティストに合ったユニークな楽曲を作ることができる。そこにアートの本質があるはずだし、そのバランス感覚に長けていることも僕の強みです。

ーーアーティストとして音楽を作る時と楽曲提供者として音楽を作る時とでは、音楽制作に関する考え方の違いはあるのでしょうか?

Matt Cab:アーティストとして音楽を作る場合だと、主人公は自分なんですけど、プロデューサーとしての場合だと当然主人公は曲を提供するアーティストになります。その時のプロデューサーは楽曲提供するアーティストが世の中に向けて発信したいメッセージを探って形にすることに責任を持つ必要があると思っています。

 特にアーティストにはファンがいるので、そのファンが求めるアーティストのオリジナリティの部分と合致した曲をいかにして作っていくかが重要になってきます。それを踏まえて、楽曲を提供する時はいつもそのアーティストの魅力を形にしたものを世の中に見せていくというアプローチで楽曲制作しています。

Matt Cabの『Works』プレイリストに収められた“人と繋がる音楽”の数々

Matt Cab(写真=西村満)

ーーSpotifyの『Works』プレイリストでは、バイラルヒットした「Famima Rap」をはじめ、BTSから和田アキ子さんまで多彩なアーティストへの提供楽曲が並んでいますが、その中で特に印象深い楽曲とその制作の思い出に残るエピソードを教えてください。

Matt Cab:やっぱり「Famima Rap」には特に注目してもらいたいですね。この曲は、自分のセンスでみんなが知っているものを新しい形にアレンジしたものだし、さっき話した遊び心から生まれた曲の良い見本になっていると思います。

 実はこの曲はコラボレーターのMIYACHIと一緒にインタビューを受けた時の空き時間に2人でファミマに買い物に行ったことで生まれた曲なんです。その時に2人で「ファミマのジングルってヤバくない?」という話をしたことがきっかけになって、なんとなく自分たちが買ったおやつのことをネタにラップしてみたり、ジングルをソウルフルなピアノにアレンジしたりしながら遊んでいると30分くらいで曲が完成するという奇跡が起きました。それでこれはリリースするしかないなということでリリースしましたが、その後バイラルヒットしたことで多くの人に聴いてもらうことができました。

 その時に僕が気が付いたのは「音楽は自分だけでなく、みんなの反応も大事」だということです。仮にもし、モンスター級にヤバい曲を作ることができたとしても、誰にも聴いてもらえないとしたらそれは自己満足でしかないんです。でも、僕自身は音楽で人と繋がることをすごく大事にしているし、アートを通じてそれをやりたいと思っています。そういう感覚は、人間ならではのものだと思いますし、自分の音楽にとっても大きなポイントです。そのことをこの曲を通じて改めて実感することができました。

 BTSに提供した「Good Day」と「Wishing on a star」も印象に残っています。K-POPのアーティストがアメリカ人のプロデューサーを起用して日本語で歌っている曲ということで、今考えてみれば今の時代らしいボーダーレスな曲なんですよね。

 あとは信号機のメロディをサンプリングして作ったBLOOM VASEとの「SCRAMBLE」という曲。信号機の音自体はみんなどこかで聞いたことがあると思うんですけど、この曲も「Famima Rap」同様にそのイメージとは全く違うものにアレンジしてみました。それとBLOOM VASEの音楽はすごくポジティブでピースフルなこともあって、「人と繋がる音楽」という印象があります。だから、僕とは年齢も全く違うんですけど、音楽で繋がることができた。そこがすごく嬉しかったです。

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