w-inds. 橘慶太×TRILL DYNASTY対談【後編】 楽曲制作からトラックメイカーへの評価まで……すべてに共通する“ハート”の大切さ

KEITA×TRILL DYNASTY対談

 w-inds.のメンバーであり、作詞・作曲・プロデュースからレコーディングにも関わるクリエイターとして活躍中の橘慶太。KEITA名義でも積極的な音楽活動を行っている彼がコンポーザー/プロデューサー/トラックメイカーらと「楽曲制作」について語り合う対談連載「composer’s session」。第8回はトラックメイカー/プロデューサーのTRILL DYNASTYとの対談を前後編にてお送りする。

 後半では、TRILL DYNASTYがトラックメイクにおいて譲れないものから、トラックメイカーが正当な評価を受けるために必要なことなど、多岐に渡るトークを展開した。(編集部)

感覚で作るトラックメイクならではの良さ

前編から続く)

橘:周りのトラックメイカーに「そのままでいいんだよ」と言われたことってありません?

TRILL DYNASTY:あります。理論を勉強しているという話をしたら「いやお前は感覚でここまできたんだったらその感覚を研ぎ澄ませろ」と言われるんですけど。感覚だけじゃできないことってあるじゃないですか。

橘:自分の話になってしまうんですけど、僕も最初感覚でやっていたんですよね。同じく理論を勉強しなきゃと思ってそこからめちゃくちゃ理論を勉強して。いろいろ勉強してミックスまでやり出したんですけど、自分の中で知らなきゃよかったかなということって結構あったりするんですよ。

TRILL DYNASTY:えー、そうなんですか。

橘:感覚でやっていた頃の方がエッジがあったと感じることもあって。理論ってまとめるものじゃないですか。お弁当箱にすごくきれいにまとめる、ミックスで言うと飾り付けや色付けをするもの。でも、きれいにまとめればいいんじゃないんだなっていうものも、理論を知ったが故にきれいになりすぎてしまうことがある。前のエッジがないという感覚を抱くことが過去にありましたね。僕は感覚だけではやっていけなかったので理論を勉強したんですけど、感覚でいけるのはすごいことだなと。みなさんがそのままいった方がいいよっていう気持ちが僕もわかりますね。

TRILL DYNASTY:ただどうしてもやっぱりもっと弾けるようになりたい。

橘:コード感がぱっと出てくるようになりたいってことなんですかね?

TRILL DYNASTY:キーボードに向かい合って、こういう曲を作りたい、ああいう曲を作りたいっていうのをそのまま表現できるようになりたいんです。もちろん自分のもともとの感覚を捨てる気はないですけど、そこにロジックがないと。仕事も辞めてこれから音楽だけでやっていくって時に何の知識もなくて、何の根拠もない中でやるのがすごく嫌で。

橘:確かに理論を勉強しておくと効率は良くなるんですよね。

TRILL DYNASTY:そうですよね。海外からの仕事もどんどん入ってきていて。日本のヒップホップもそうだし、いろんなジャンルの方からのお誘いもあるし断ったりもしてますけど。生産性が悪いともうついていけないんです。

橘:今はとにかく効率を良くしないといけない状況なんですね。

TRILL DYNASTY:そうです。1日に数十件オファーが来るような状況で。特に海外はマネージャーを通していろいろヤバいアーティストから依頼が来ています。

橘:すごい。ヒップホップ以外のトラックは作らないですか?

TRILL DYNASTY:作らないというか作れないですね。まあ作ろうともしてないんですけど。繰り返しになりますが、僕の場合は始めたのが遅かったのでいろんなジャンルに手を出していたら多分ここまでこれていないんですよ。僕がやっているのもヒップホップの中で100のサブジャンルがあるとしたら、本当に1だけを毎日やっているので。

橘:たしかにすごく1点に集中されている感じですもんね。

TRILL DYNASTY:そうです。例えば僕が10人のアーティストのために10パターン作って送るのと、好きな人にだけ10パターン作って送るのは同じ労力でも使われる確率は高くなる。一番効率が良くてなおかつ自分が満足できる音楽を作れるのは1点だけを極める方法なんです。幅は狭いし融通も効かないし、そんなこと言っていたら仕事になるのかと言われる時もあるんですけど、そのスタンスは崩したくないんですよね。それを崩したらTRILL DYNASTYではなくなってしまうので。

「自分の信念を曲げない」というこだわり

橘:オファーもすごくある状況の中でちょっと違うジャンルを作ってほしいという話は来ないんですか?

TRILL DYNASTY:来ます。全部お断りしてます。かなりの金額のオファーでも今の段階でやるのは違うなと。人間なので10年後同じ考え方をしているのかと言ったらそれはわからないですけど。

橘:今の考えで言うと将来もその感覚はないかもしれない。

TRILL DYNASTY:もちろん。ないに等しいと思います。僕は自分で気持ちよくなるのが好きなので嫌なんですよ。例えば他の人からこういった音楽を作ってくださいと言われた時点でその人のエゴが僕の作曲に1%でも入ってくるわけじゃないですか。それだとエクスタシーに達することができない。自分のエゴを100%昇華できるから気持ちいいわけで。

橘:例えばトラックが完成して、歌手やラッパーがリリックを書いてラップする時にトラックがちょっと気に入らないと言われることはあるんですか?

TRILL DYNASTY:そういう時は言います。「俺はそういうのを歌うために作曲してない」って。

橘:すごい……。

TRILL DYNASTY:よくないのもわかっているんです。でも僕がやっている音楽は本当の痛みとその経験を歌う以外は絶対に合わないので。痛みを歌うから出る哀愁、そういう音楽が好きだから。

橘:トラックを渡す時にもそういう世界観を相手にもお伝えして?

TRILL DYNASTY:だいたいは伝えなくてもみんなわかっていますね。こういう歌を歌わないとダメなんだって。だから僕はアルバム10曲のうち10曲は作れないんですよ。アルバム10曲のうちの1曲だけでいい。本来なら全部プロデュースした方がお金になるし、知名度も上がるけど、僕はその一部分でいいんです。そのエッセンスだけで満足できるんですよ。

橘:その1曲に自分の100%が出さえすればっていうことですよね。そのタイプは初めて会いました。でもそれってメンタル面でも健全ですよね。曲を作っていて嫌な気持ちにならないですし。

TRILL DYNASTY:そうですね。でもそれこそ音楽業界の方から言わせてみたら僕みたいな人間って絶対甘いんです。本来だったら仕事にする以上、嫌なこともやらなくちゃいけないから。わかっているけど、それを曲げたらヒップホップをやらなくていいんですよ。ポップスの作曲家だったらそれでいいんだと思うんです。だけどヒップホップってそうじゃないから。ちょっと失礼に当たってしまうかもしれないから言葉をすごく選んで話そうと思ってるんですけど……。

橘:大丈夫ですよ。

TRILL DYNASTY:信念を曲げたら終わりなので。僕たちがやっている音楽ってもともと音楽の教養がないヤツらが地元のために始めたもので。自分のエゴを100%昇華したものを商売にしているのがヒップホップだと思うし、海外は絶対にそうだから。自分が今売れているアーティストがあまり好きじゃないのもそこで。彼らからはそういった匂いがしないんです。ただ、それこそリル・ダークは売れているけど信念がすごくしっかりしている人。言っていることもやっていることもしっかりしている。そういう精神を曲げたら僕はTRILL DYNASTYではなくなってしまうんです。本物の王朝を作りたいからTRILL DYNASTYという名前にしたんです。自分のエゴを本物にしないと名前負けしてしまう。そういった意味でも曲げられないんですよね。

橘:本当にこのまま突き進んでいっていただきたい。今までいなかったタイプの、日本中に語られるようなトラックメイカーになっていかれれるのではとすごく期待しちゃっています。ご自宅の壁にビルボードの盾がこれから何個も並ぶのかと思うとわくわくしますね。

TRILL DYNASTY:多分今仕事しているものが世に出たらあと50枚ぐらいはもらえると思いますよ。

橘:マジですか。

TRILL DYNASTY:はい。

橘:すげー! かっこいい。僕今度茨城行きます! すごく失礼な質問なんですけど、そもそも1回1位を獲ったらそんなにあっという間にいくつも1位を獲れるようになるものなんですか?

TRILL DYNASTY:いや本当にその通りで。フロリダに僕のビートを僕の好きなアーティストに紹介してくれているマネージャーがいるのですが、その方も「お前のやりたいことで一発決まればお前のやりたいことで仕事ができるよ」と言っていました。リル・ダークの「The Voice」は厳密に言えばシングルで1位を獲っていないけど、アルバムとして1位を獲って、そのタイトル曲だった。そこに僕のボイスタグが入っていたからそのボイスタグを他のビートでも聴けば「こいつ『The Voice』を作ってるヤツじゃん、俺も一緒にやろう」ということになるんですよ。



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