Matt Cabが作り出す“人と繋がる音楽” Spotify『Works』プレイリストとともに紐解くクリエイターとしての信念

Matt Cabが作り出す“人と繋がる音楽”

サンプリングが作り出す会話のタッチポイント

Matt Cab(写真=西村満)

ーーSpotifyコードを活用し、日本各地の“そこにしかない景色”の魅力やそれにまつわるストーリーを音と共に味わってもらうことで、より深い体験を創出する実験的な試みの『SOUND TOUR』プロジェクトでは、マットさんは石川県に溢れる様々な音を素材としてサンプリングした「CHOUCHIN (SOUND TOUR) 」「SAKURA (SOUND TOUR)」「IKA (SOUND TOUR) 」の3曲を発表していますが、楽曲にはどんなメッセージが込められているのでしょうか?

Matt Cab:これは日常的に動画や画像が公開されているSNSの影響もあると思いますが、最近は音楽を聴いていても音だけでは物足りないと感じる人も少なくないと思うんです。それに今はコロナ禍で移動が制限されていることもあって、実際に石川県に行きたくても行けない人も多いはずです。だから、ビジュアルと音楽を通じて、現地を旅行しているような気分を味わえるこのプロジェクトは、リスナーの体験になるという意味で非常に面白いですね。

 それと僕は普段から音だけでなく、ビジュアルもイメージしながら音楽を作るタイプなので、その感覚をこのプロジェクトを通して、リスナーにも味わってもらいたいと思っています。

ーーマットさんはどんなところにサンプリングの魅力を感じていますか?

Matt Cab:今回のプロジェクトは琴や三味線、和太鼓といった伝統的な楽器を使った演奏や民謡をサンプリングして、古い音楽と現代の音楽であるトラップを組み合わせた音楽を作りました。昔の音楽をサンプリングすることで、若い世代は新しい音楽を生み出すことができますが、サンプリングにはそういった昔と現代の音楽を繋げていくことができたり、上の世代と若い世代のコミュニケーションを生み出す力があります。

 それと人間同士が繋がることが目的だとしたら、やっぱりみんなが共感できるポイントがある方が会話が始まりやすいと思うんです。そのためのタッチポイントを作り出せるところもサンプリングの魅力のひとつですね。

ーーマットさん自身がアーティスト/ユーザーとして、Spotifyを使用して感じることは?

Matt Cab:僕が10代の頃はまだSpotifyがなく、その頃はあまりお金を持っていなかったのでアルバムを買う時はどのCDを買うかすごく悩んだ記憶があります。でも、今はSpotifyのおかげでそういうこともなくなり、みんなが自由に色々な音楽を吸収できるようになったことは大きいと思いますね。

 その影響もあって、最近だと10代~20代の若いアーティストがセッション時に20年前の曲を参考曲として提出してくることも少なくありません。そういった昔の曲から若い世代が音楽のことをしっかりと学べる環境が整っているのはすごく良いことだと思っています。また、近年は海外でも日本のシティポップが人気になっていますが、ストリーミングがなかったらそういう音楽にすぐにアクセスできないので、今のような状況にはなっていないと思いますね。

 それと機能面では自分が好きな曲やプレイリストをすぐにSNSでシェアできるところが気に入っています。特にプレイリストは、そこで聴いた自分の知らない曲が気に入ったらそのアーティストを調べたりもしますし、それをシェアすることで音楽を通じて会話ができる感じがあるというか、音楽の好みが広がっていくところが良いですね。

海外と日本とのブリッジをもっと作っていきたい

Matt Cab(写真=西村満)

ーーこれまではプロデューサーやソングライターは、アーティストに比べて注目される機会が少なかったと思います。最近では『Works』のようなプレイリストが公開されるなど全体の雰囲気は以前よりも改善されてきましたが、このような状況をどう捉えていますか?

Matt Cab:昔はアルバムのライナーノーツを見て、どんなプロデューサーが参加しているかなどを調べていましたが、『Works』のようなプレイリストの登場やストリーミングサービス上での楽曲クレジット表示などのおかげでより簡単に情報にアクセスできるようになったと思います。それと曲を提供する側としては、アーティストのファンに「このプロデューサーやソングライターが参加していたからこういうサウンドになった」ということが伝わりやすくなったのもありがたいです。

 また最近のアメリカでは、プロデューサーやソングライターにも注目が集まる機会が増えましたが、そういった環境をもっと日本に広げていきたいと思って、今年始めたのが「UBER BEATS」というプロジェクトです。このプロジェクトでは、僕が用意したサンプルとアカペラをいろいろなプロデューサーたちに送って、新たにビートを作ってもらうのですが、これを通じて参加してくれたプロデューサーたちにも注目が集まるようになれば嬉しいです。

4人の音楽プロデューサーが同じネタで料理する「UBER BEATS」EPISODE 1

ーー最後にマットさんの今後の展望を教えてもらえますか?

Matt Cab:イノベーションというか、音楽でこれまでなかった新しいアイデアを生み出してみたいです。そのために音楽をツールとして使いながら、他のコラボレーターとたくさんセッションする。そうすればオリジナルなものが生まれる気がします。

 あとは今はコロナ禍が落ち着き出している気がするので、今後は海外と日本とのブリッジをもっと作っていきたいです。それで音楽を通じていろいろな人と会話ができるようになればみんなが成長できると思うし、僕はそのためのコミュニケーションを繋ぐハブになりたいです。

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