TOMOOが音楽を生み出す原動力 活動のルーツから思考への影響まで……独自のクリエイティビティに迫る
ヒゲダンは「灯台」のような存在
ーー昨年リリースされた「Ginger」は、Official髭男dismの藤原聡さんをはじめ、数多くのアーティストから絶賛されました。そうした反応をどう受け止めていますか?
TOMOO:もちろんお名前はもっと前から知っていたのですが、曲をしっかり聴いたのがちょうど4年くらい前に「Ginger」を書き上げたタイミングだったんです。そのとき初めて「犬かキャットかで死ぬまで喧嘩しよう!」を聴いて、これまでにないほどのシンパシーを感じたというか。……いや、シンパシーなんてちょっとおこがましいですね。でもブラックミュージックをはじめとする洋楽との距離感、ブレンド具合みたいなものや、感情をメロディに落とし込んでいく感じ、楽曲全体のカラフルさとか、すごく親しみを感じたんです。「こういう音を奏でる方々がメインストリームで活躍されるなら、それってすごく素敵なことだな」って。そういう意味でヒゲダンは活動を続けていく上での「希望」というか、「灯台」のような存在だなって。
ーーなるほど。
TOMOO:そんなふうに思っていた方に、自分の楽曲を気に入っていると言っていただいたことは、なんていうか……もちろんめちゃくちゃ嬉しいんですけど、それって単に「有名な方々に認知してもらえて嬉しい」ということ以上に、自分自身が「音楽」という形で放出している「人間の心の機微」みたいなものが、ちゃんと届くべきところに届くというか、見つけてもらえるんだという喜びがあったんですよね。……うまく言えているかどうか分からないですけど。
ーー音楽をやっていてよかったと思いますよね。
TOMOO:それは本当に思いました。
ーーTOMOOさんの歌詞は、いわゆる普通のラブソングというよりはどこか哲学的な要素があるというか、頭の中でぐるぐる思考を巡らせているような、そんな感じのものが多いですよね。
TOMOO:そうですね(笑)。本はそんなにたくさん読んでいるわけではないけど、心に響いた言葉が記憶にこびりついていて、そういうものを実体験と一緒に貯蓄しておくタイプなんです。それを頭の中で反芻させているというか。「あの時の感情は、ああだった」みたいに、頭のなかで言語化していることが多くて。
大学時代に心理学を学んでいたのも影響しているのかもしれません。近年の自分の歌詞は妙に分析的になってきているな、とは思います。感覚的な部分もちょっとオーバー気味だと思うし、それと同時に分析チックになっているのは、もしかしたら大学の頃に受けていた心理学の授業で、思考を分解していくところとかに影響を受けているのかもしれないですね。
ーーでは、このたびリリースされる新曲「酔ひもせす」の歌詞はどのように出来たのでしょうか。
TOMOO:これは、普段の自分の曲と比べると少し特殊なんです。というのも、ちょっと前にジムに通っていたことがあり、そのときに書いた曲なんですよ。私、今までインドアで内向的なタイプだったし、運動とかほとんどしないような生活を送ってきたんですけど、たまたまジムへ行くようになり、そこで心拍数が上がり、体温が上昇し、汗をかき……(笑)。目や耳、鼻に入ってくる情報も、健康的な汗の匂いや熱気で「なんだこれは?」となって。しかも、ちょうど冬から春に移り変わるタイミングでそういう場所に行ったこともあり、フィジカル的に上向きになっている時に、トレーニングが終わって外に出たら夜風が気持ち良くて、「あれ? これって私が体験してこなかった飲み会の後の『涼しい夜風』ってやつか?」と思ったんです。
ーーそこと結びついたのですね(笑)。
TOMOO:学生の頃の私は全く社交的じゃなかったし、サークルにも入っていなかったので、大学時代もいわゆる「飲み会」に参加する機会も数えるくらいしかないし、バイト先で形成される人間関係や「青春」みたいなものを味わうことないまま卒業してしまったので、あんまりそういう世界のことがわからなかったんです。でも、そのジムにいる同い年くらいの若いコーチが、いろんなテンションで話しかけてくるんですよ。「ひょっとしてこの感覚は、私がこれまで体験してこなかった『サークルの先輩との会話』ってやつか?」とか思って(笑)。
ーーあははは。
TOMOO:ずっと女子校で、大学も女の子ばかり専攻している授業にいて、男女均等に同世代がわんさかいる環境を味わったことがなかったので、フィジカル的にもメンタル的にも新感覚だったんです。これまでずっと自分は愛とか恋とか、そういうことについてずっと悩む青春時代を送っていて、歌詞にもそういうものが多かったんですけど、この「酔ひもせす」は一度思いっきり落ち込んだ後に、反動で「明るい感情も切り取りたい!」となり、それで書いてみたちょっと珍しいテンションの曲ですね。
ーーなるほど(笑)。「グッドラック」はどんなふうにできた楽曲ですか?
TOMOO:これは本当に冬と春の境目の季節に、ふっと素直にできた曲ですね。渡さない短い手紙を書くようなイメージというか。すごくシンプルな曲なので、聴いてくれる人がそのまま、それぞれの景色のなかで受け取ってもらえたらいいなと思っています。まあそれはどの曲でもそうなんですけど……!