Kizuna AIとクラブミュージック、ミソシタら支えた黎明期……Vミュージックシーンの発展を5つの要素から紐解く

Vミュージックシーンの発展を紐解く

グループ/ソロでの活躍を一般化させたホロライブ

 ホロライブは、ときのそらを起源として黎明期から2022年現在、第一線で活躍するVTuberグループの1つだ。それぞれが配信を中心に活動しており、音楽が必ずしもメインではないものの、活動そのものへの注目度が高いことからオリジナル曲/カバー曲にしても、常に話題性がある。音楽で言えば、ときのそらは『バーチャルカラオケ~2018・夏~』や『Count0』、そして『TUBEOUT!』など、 VTuberの音楽シーンの原点とも言えるイベントにも出演。個人でのカバー曲や富士葵とのコラボカバーで話題を集めつつも、当時はオリジナル楽曲をコンスタントにリリースするような立ち回りはしていなかった。また、2018年には音楽特化VTuberとしてデビューを飾ったAZKiの登場を皮切りに、グループメンバー個人のライブ配信、そしてホロライブ全体でのライブなど、劇的ではないもののコンスタントに音楽を提供している。

【 1/24 #とまらないホロライブ 版MV】『Shiny Smily Story』試聴動画

 特に盛り上がりを見せた初の公式曲「Shiny Smily Story」のほか、星街すいせいの「NEXT COLOR PLANET」、宝鐘マリンの「Ahoy!! 我ら宝鐘海賊団☆」、Mori Calliopeの「失礼しますが、RIP♡」などは、VTuberシーンで大きな話題になり、今もイベントで流れるほどの人気を誇る。特に星街すいせいは、楽曲をリリースするたびに大きな話題を起こすなど、ホロライブに属しながらもソロアーティストとしての注目度も高い。VTuberとして、グループの一員として活動を行いつつ、二足のわらじでアーティストとしても存在感あるVTuberがホロライブから今後も生まれる可能性は高い。

にじさんじに見る、新たなエンターテインメントの可能性

 にじさんじは、ホロライブ同様、今のシーンを牽引するVTuber/バーチャルライバーグループだ。しかし、音楽的な歴史や立ち回りはホロライブとは少し異なる。いち早く音楽活動を行った樋口楓が2018年からバーチャル音楽シーンの一線に立ち、大所帯ながらそれぞれがオリジナル曲やユニットを組んでメジャーデビューを果たしている。ホロライブや他のグループのように音楽に特化したライバーが存在しているわけではないものの、活動の一環として楽曲を発表しながら全体の音楽ライブをこなすなど、とにかくマルチに活躍している印象だ。

にじさんじ - Virtual to LIVE [Official Music Video]

 そんなにじさんじを象徴する音楽的ムーブメントとして真っ先に思い浮かぶのが1周年記念楽曲「Virtual to LIVE」だろう。サウンドプロデューサーであるkzがにじさんじというグループのルーツを汲み取り、そのまま楽曲に落とし込んだ初の全体曲は、メッセージ性もさることながらVTuberの音楽シーンに多大な影響を与えた。もとより、ライブにおけるテクニカルな部分は業界随一であり、3DやAR、バンドパフォーマンスは常に話題を集めている。Rain Dropsを皮切りに、2021年11月にデビューしたROF-MAOなど、音楽的な親和性やアイドル性、さらには化学反応がユニットごとで楽しめる。アーティストとしての側面とVTuberとしての普段の活動とのギャップにより、また新たなエンターテインメントが生まれてきそうだ。

KAMITSUBAKI STUDIOによる“多様性”の発掘

 近年、VTuber業界で徐々に浸透し始めた“多様性”のムーブメントは、KAMITSUBAKI STUDIOの影響が大きいと考える。2018年、当時音楽を主体としたVTuberがまだ少なかった時代に誕生したバーチャルシンガーの花譜は、デビュー時、弱冠14歳とは思えないほどの存在感と表現力で業界全体の空気を変えるほどの衝撃を与えた。決して悪い意味ではないが、タレント的な立ち回りの一環で消費されがちだった当時のバーチャル音楽シーンに、フィジカル的にもアーティストとしてカルチャーの垣根を超えるような存在が現れたと感じた人も多かったように思う。カンザキイオリをメインコンポーザーとして、二人三脚で楽曲をリリースしながら、クラウドファンディングで支援総額4,000万円を突破し、初のワンマンライブ『不可解』を恵比寿LIQUIDROOMにて開催するなど、VTuberとしてではなく、アーティストとしてあらゆる層にその存在を知らしめていくことになる。

【歌ってみた】猛独が襲う covered by 花譜

 そして2019年からは花譜という存在に負けない固有のポテンシャルを持つ、理芽、春猿火、ヰ世界情緒、幸祜が続々とデビューを飾り、それぞれが個人で活躍しながらバーチャルアーティストグループ・V.W.Pとして注目を集めている。KAMITSUBAKI STUDIOがもたらした“多様性”とも言えるアクションとして、VTuberカルチャーにとどまらず音楽メディアに積極的に取り上げられたことや、バーチャルアーティストに限定せず、カンザキイオリを始めとした大沼パセリやGuiano、川サキといった当時では珍しかったリアルアーティストやクリエイターが混在したクリエイティブレーベルとしての役割も大きい。表現方法は違えど、いちアーティストとして捉えた多種多様な活動が業界におけるバーチャルとリアルの境界線を曖昧にしたのは間違いない。

 今回は大きく5つの要素を紹介したが、これ以外にもシーンを形成するピースは数多く存在する。すでに引退してしまったアーティストや、一度きりしか開催されなかったライブイベントなど、そのどれもが今の活況に何かしらの影響を与えてきたと思っている。VTuber、バーチャルアーティストとしての色は守りつつも「VTuberらしい・VTuberにしかできない」といった概念やトレンドに縛られることなく、1つの表現としてより自由な音楽活動を期待したい。

【特集】Virtual&Music ~仮想と現実を繋ぐ新たな音楽~

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