ラジオDJ宮治淳一氏に聞く、欧米圏の特殊なクリスマスソングのヒット事情
US、UK共に定番クリスマスソングが複数チャートインするクリスマス時期(ホリデーシーズン)。今年もBillboard The Hot 100や主要ストリーミングサービスのグローバルチャートでは、マライア・キャリーやWham!等、往年のヒットソングが多くトップ10に入っている。ストリーミング普及以降、この旧作が再燃する現象は恒例ではあるが、今年はエド・シーラン&エルトン・ジョンなど新曲の動きも堅調だ。12月16日発表のSpotify「トップ50(グローバル)」では、マライア・キャリーら往年のクリスマスソングからアリアナ・グランデ「Santa Tell Me」まで、TOP20に7曲ランクイン。なお、Billboard The Hot 100ではマライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」が1位にランクアップしている。(※1)
欧米圏にとって、年間通して一番の”お祭り”を彩るクリスマスソングーーゆえに、そこに参画するアーティスト、楽曲は実に豪華。この時ばかりはと、ビッグアーティスト同士のコラボレーションも実現する。そんなクリスマスソングならではのユニークな歴史と昨今の情勢について、元、レコード会社洋楽部門本部長であり、現在音楽評論家・ラジオDJを務める宮治淳一氏に聞いた。
往年のクリスマスソングは、ラジオから火がつきストリーミングで再燃の流れも
「往年のクリスマスソングがここまで聴かれるようになったのは、ラジオの役割も影響していると思います。欧米ではホリデーシーズンになると、各局、70年代〜90年代まで定番のクリスマスソングをオンエアしますから、毎年続く流れの中で、必然的に旧作を一定数耳にすることになります。そうしてふと耳にした時に、今の時代はストリーミングがありますから、気軽に色々な時代のクリスマスソングを聴くことができますね。ちなみに、クリスマスソングには、リリース当時はチャートの実績や評価があまりふるわなかったタイトルが、後から再燃するというケースも比較的多いんです。例えば、クリス・レアの「Driving Home for Christmas」(1986年)や、ジョン・レノン「Happy Xmas (War Is Over)」(1971年)などがそうですね。アーティストにとっても”企画性”の方が重要であって、売れ線の曲を作ろうと思っていない傾向にあることも影響していると思います」
そういった意味ではエド・シーラン&エルトン・ジョンのコラボも、”クリスマスを祝いたい”という気持ちが先行した、ある意味実験的な取り組みであるようにも感じられる。
「エド・シーラン&エルトン・ジョン「Merry Christmas」を聴いて真っ先に浮かんだのは、ビング・クロスビーとデビッド・ボウイがデュエットした「Little Drummer Boy (Peace On Earth)」(1977年)です。こういったコラボが実現するのも、クリスマスならではで感慨深いですね。しかしながら、時代を超えてロングヒットする曲には耐えうる内容が伴っていると思います。今、チャートにランクインしてきている楽曲は、クリスマスという一年で一番の激戦区を勝ち抜き、数少ない指定席に座っている名曲ばかりです。定番になるということは本当にすごいことですから。Wham!「Last Christmas」やマライア・キャリー「All I Want For Christmas Is You」などはリリース当初からヒットしていたということもポイントですね」
では、欧米諸国でのクリスマスソングとの向き合いは、ストリーミング普及以前の聴き方を含めて、どのような歴史があったのだろうか。
「90年代後半はコンピレーションが全盛期で、各社からクリスマスの企画盤が多くリリースされていました。私は外資系のレコード会社に勤務していましたので、”クリスマスコンピ”はよく売れた記憶があります。今のストリーミングにおけるプレイリストの代わりと言えるでしょう。また、欧米圏にとってはクリスマス限定ではなく、12月〜1月のホリデーシーズン全体的に言えることなのですが、家族と過ごすことが多い期間なので、家庭で音楽を共有する風習もあると思います。そういった中で、親世代から子世代に、往年のクリスマスソングが受け継がれる、といったこともあると思います」
コンピレーションCDからストリーミングへリスニングスタイルが変化したことで、人気のクリスマスソングが何か、より目立ってきているのかもしれない。そんなクリスマスソングを取り巻く周辺情報を理解したところで、現役のラジオDJである宮治氏に、ここ数年、盛り上がりを見せているクリスマスソングについて聞いた。
「ここ10年の中でよみがえっている印象があるのは、ダニー・ハサウェイ「This Christmas」(1970年)です。アレサ・フランクリン、メアリー・ J. ・ブライジなど多数のアーティストにカバーされており、人気コンピレーションシリーズ『Free Soul』のクリスマス版、『Free Soul Christmas』(2014年)(※2)にも収録されています。オリジナル曲の良さ、カバーの多さ、オンエアの実績など、総括的に見ると単純なチャートアクション以上の力を感じています」