アツキタケトモの音楽を相対的に考察 軸にある“歌謡”が醸し出す歌詞とサウンドのオリジナリティ

アツキタケトモの音楽を相対的に考察

 アツキタケトモが新曲「Family」を発表した。スタイリッシュなデジタルトラックと、現代社会を鋭く見つめながら丁寧に言葉を紡ぐ歌詞が印象的な楽曲である。アツキタケトモらしい洗練されたトラックメイクと、弾き語りでも存在感を放つ求心力のあるメロディの組み合わせが、楽曲の魅力のひとつになっている。

 と、簡単に楽曲のポイントを並べてみたが、正直なところ、これではなかなか魅力が伝わりづらい。そこで、本稿では彼と同様に、デジタルトラックに軸足を置きながら近い距離のジャンルにいるアーティストたちと比較しながら、改めてアツキタケトモの魅力を考えてみたい。

[Teaser] アツキタケトモ - Family 2021.12.01 Digital Release #Shorts
アツキタケトモ - Family

SIRUP、向井太一との魅力の違いを考察

 こういったテイストの音楽で、大きな存在感を示しているアーティストといえば、SIRUPを頭に浮かべる人も多いのではないだろうか。いわゆるJ-POPの枠組みではなく、国外のサウンドを積極的に取り入れ、ミニマルながらも重厚な楽曲世界を作り上げるアーティストの代表格だ。この音楽アプローチはアツキタケトモと通ずるところがある。ただし、SIRUPは楽曲の中でも「リズム」を強く押し出し、ボーカルにおいてもビート的な快楽を強めたパフォーマンスをすることが印象深い。それに対し、アツキタケトモは歌謡曲的なテイストが強いため、より「歌」の要素が強い印象を受けるのだ。アツキタケトモの過去のインタビュー(※1)を参照すると、サウンドのみで聴かせるのではなく、あくまで弾き語りでもぐっとくるような楽曲を生み出すことを意識していることがうかがえる。「Family」含め、アツキタケトモの楽曲は口ずさめるようなメロディの素朴さを持ち合わせているように感じる。

 続いて、シンガーソングライターの向井太一と比較すると、どうだろうか。両者ともサウンドアプローチにおける大きな枠組みでは似ているとも言える。また両者とも、オルタナティブ、アンビエント、エレクトロなど複合的な音楽ジャンルを横断している。ただし、向井太一の楽曲は全体に整頓性が感じられるが、アツキタケトモの場合、サウンドの中に不意に予想のできない音が出現することが多いように思う。この流れの中にこんな音を放り込むのか! というスパイスを楽曲の中に忍ばせている。つまり、楽曲の中に複合的にジャンルが折り重なっている点は共通するが、その折り重ね方に違いがあるのだ。向井太一の場合、秩序立てた組み合わせ方をするため、鮮やかなコントラストの中でジャンルが溶け合っていく。そのため、全体の装いとしては美しさが際立つ。しかし、アツキタケトモの場合、時にその溶け合い方にムラがあるというか、穏やかな川の流れに唐突に石を放り込んで波紋を起こすような面白さがあるのだ。「Family」の場合は、冒頭のイントロ10秒でサウンドの表情が目まぐるしく変わるし、トラックの中でも「これは何の音だ?」というような音を、SEのようにワンポイントで差し込んでくる。そんな複雑な構成をしても歪にならないのは、アツキタケトモの音楽に歌謡的メロディラインという一本の軸が通っているからであるようにも感じる。

アツキタケトモ (Atsuki Taketomo) - カモフラージュ (Camouflage) [Official Music Video]

アツキタケトモ - おとなげ (Official Lyric Video)

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