SIRUP、新作が盛り立てる日本の音楽シーン 藤井風、Vaundy、millennium paradeらと共鳴するポイントは?
邦楽とか洋楽とか、ポップとかポップじゃないとか、そういった区分けがよりボーダーレスになってきた昨今の音楽シーン。R&Bという分野においても、そういう動きが起こっている。
3月17日にリリースされるSIRUPのニューアルバム『cure』は、まさしくそういう変化の最前線のようなアルバムだと思う。アルバムの冒頭、「R&W」は洒脱かつ洗練されたリズムメイクが印象的なナンバーだ。この一作を持ってして、今作のクリエイティブの拘りを強く感じさせる。以降の楽曲も魅力溢れるものが連続していく。「Overnight」は、浮遊感と綺羅びやかさが際立つダンストラックの上を、SIRUPのクールで鋭さのあるリズミカルなラップが軽やかに泳いでいく。ボーカルの加工の仕方も軽やかで的確。音の構築に過不足がないため、全体的な印象としてスマートなかっこよさが残る一曲となっている。「HOPELESS ROMANTIC」はリズムを刻むサウンドの音色が絶妙で、余白があるサウンドの中、メロディアスなラインを歌うSIRUPの歌声に聴き惚れてしまう。
先日、YouTubeにて公開された「LOOP」のTHE FIRST TAKEの動画でも十全に感じることができるSIRUPのボーカルの素晴らしさ。少ない音数と起伏の少ないビートの中でも、楽曲にダイナミズムを生み出していくのは、SIRUPのボーカルに宿るリズム感が冴え渡るからこそ。かつ、艷やかな甘さとピリっとした緊張感を漲らせた不思議な歌声によって、聴き手を単純に“ノラせる”だけでなく“聴かせ”てしまい、楽曲世界に恍惚を与えていくこともできる。この2つが両立するからこそ、SIRUPのボーカルは素晴らしいのである。
このように、元々ボーカリストとしてSIRUPは優れているわけだが、『cure』が単純に“ボーカルが素晴らしいだけの楽曲群”に留まらないのは、楽曲ごとにスリリングなリズムやサウンドアプローチがなされているから。この点を考えるうえで重要なのは、今作に参加しているクリエイターの布陣。例えば、「Overnight」はイギリス出身のプロデューサーであるROMderfulのアレンジセンスが重要なポイントとなっている。また「Online」もROMderfulとのコラボ曲であるが、この楽曲もサウンドの構築にグッと来る。チルったビートの中で緩やかに楽曲の空気を変えていくからこそ、表情豊かに歌声を変化させるSIRUPのボーカルを堪能することができるわけだ。そのほか、今作は韓国の大衆音楽賞でベストR&Bトラック賞・最優秀ソウル/R&Bアルバム賞を受賞したSUMINをはじめ、Slom、Full Crate、Yaffleなど国内外問わず、優れたアーティストとのタッグを堪能することができる。