さくらしめじ、STUDIO COASTでの最初で最後のワンマン 2人の姿に見た“アコースティックデュオ”としての原点
10月の名古屋公演を皮切りに福岡~大阪と巡ってきた『さくらしめじの秋ツアー~シイノトモシビ~』が、11月28日の東京・USEN STUDIO COASTでファイナルを迎えた。さくらしめじにとって久しぶりとなるツアーの成功を予告するような澄み切った秋晴れの中、昼夜2部制となったライブの1部公演に足を運んだ。
いくつもの白いバルーンが飾られたステージ。その中央にはぼんやりと光を放つ2本のきのこが。客席はカラフルなペンライトで鮮やかに彩られている。開演時間になり、ステージ上に現れた田中雅功と髙田彪我の2人。おもむろにギターのボディを叩いて音を出すと、その音がループされてビートを刻み出す。続いてギターでリフを奏でれば、それもまたループされてその場でトラックが出来上がる。どうやらさくらしめじは新たな武器としてルーパーを導入、ライブに持ち込んできたようだ。1曲目は今年7月に配信リリースされた「わがままでいたい」。2人のアコースティックギターとルーパーによるサウンドが融合する中、“夢のためならわがままになってもいいんじゃない?”というメッセージが高らかに放たれていく。クールな表情で最新のさくらしめじの姿を提示する、印象的なオープニングとなった。
1曲目を終え、アコギを置いた2人はメインステージを下り、客席に用意されたセンターステージへと移動。「しめじ体操」を振り付きで歌い、オーディエンスを巻き込んで楽しい空間を生み出していく。至近距離で人懐っこく歌を届けていくスタイルは彼らの真骨頂と言えるもの。曲のラストで2人がポケットから出した桜吹雪を舞い降らせると、会場はあたたかな拍手に包まれた。再びアコギを抱えた2人は、そのままセンターステージで3曲目「菌カツ!」を。客席を笑顔で煽りながら、みんなでクラップし、拳を振り上げることで、最高の一体感を作り上げていった。
メインステージに戻った2人は最初のMCへ。「今日は初のUSEN STUDIO COASTライブです! 憧れの場所でもあったので、ここに立つことができてほんとによかったなと思ってます」(雅功)、「雅功はずっとここでやりたいって言ってましたからね」(彪我)と会場への思いを明かすと、雅功は「ウスッ。思惑通りの反応するのが癪だったんで(笑)」とコメント。
彪我から「反抗期か!」とツッコミを入れられ、雅功が「ずっと反抗期です!」と返すなど楽しいやり取りに続き、彪我が1曲目で使用した新機材・ルーパーについて、その場で実演しながら丁寧に説明。そこで出来上がったトラックを用いて、卵かけご飯への愛を歌った4曲目「てぃーけーじー」へとなだれ込んでいった。タマゴの黄身を連想させる黄色の光に客席が包まれる中、歌詞に合わせてみんなで腕をぐるぐると回したり、ハンドサインで“T・K・G”を作ってみたりと、お決まりのパフォーマンスでフロアは大きく盛り上がった。未発表曲の「しりとり」では、雅功と彪我が曲中でリアルしりとりに興じ、歌詞の〈ルカ・ドンチッチ それは誰?〉に繋げていくという試みも。単語が出てこず焦る彪我がひねり出した「うるし」のパスを雅功が「シール」で受け、見事〈ルカ・ドンチッチ〉に繋げて大成功。大きな拍手が巻き起こった。
福岡公演の際、ホテルで一緒にトランプをして楽しんだという微笑ましい仲良しエピソードを披露したMCの後は、さくらしめじの音楽性の幅を感じさせる3曲を連続で。2人で向き合ってアコギを奏でるイントロで幕を開けた「だるまさんがころんだ」では、どこかノスタルジックな世界観を繊細な演奏とボーカルで届ける。会場がピンクに染まる中で歌われた女性目線のラブソング「ストーリーズ」では甘くせつない歌声でオーディエンスを心地よく酔わせる。そして「別れた後に僕が思うこと」では、その場で組み上げられたループにエッジィなトラックが加わることで、深みのあるドラマチックな世界を描き出していく。そこで聴かせたブレッシーで大人っぽいボーカリゼーションは、さくらしめじの未来に繋がる大きな可能性を感じさせてくれるものだった。
ソカのリズムで感情を揺さぶる「Bun! Bun! BuuuN!」では、ギターを置いた2人がハンドマイクでステージ上を大暴れ。オーディエンスはタオルを回して応戦していく。ラウドなロックナンバー「たけのこミサイル」では、彪我がエレキギターを演奏。「コースト! ぶっぱなそうぜ!」と激しく煽ることで、フロアの熱量はクライマックスに向けてぐいぐいと上がっていく。
ペンライトのカラーを紫にすることをリクエストし、プレイされたのはこの日が初披露となる新曲「Iroto-Ridori」。80’sテイストを感じさせるシティポップなサウンドは、さくらしめじにとって斬新なトライを感じさせつつも、2人の歌声が心地よくマッチしていたように思う。こういったテイストの楽曲も今後はどんどん聴かせて欲しいところだ。その後は、爽やかな疾走系ロックナンバー「スタートダッシュ」と、思春期の苛立ちを激しいギタープレイに叩きつけた「でぃすとーしょん」を力いっぱいに届けてくれた。