Nulbarichの5年間が結実した見事なツアーファイナル 圧巻の演奏で示したつながりと希望

Nulbarich、5年間が結実したツアーファイナル

 誤解を恐れず言うならば、Nulbarichは一貫して「自由」について歌ってきたバンドだ。せっかくの人生、退屈な日々でも自由なペースで楽しみを見つけながら、少しずつ歩みを進めていけたらそれでいい。そんなスタンスをデビュー時から貫きつつ、2019年には見事にさいたまスーパーアリーナでのワンマンライブを成功させ、音楽的にもバンドの在り方としても、自然体のまま進化し続けているのがNulbarichである。だが、新型コロナ禍に見舞われて以降、世界中の人々と同様、Nulbarichから奪われたのも自由そのものだったと言えるだろう。2020年、JQは拠点をLAに移し、バンドとしてちょうど第2ステージへ歩みを進めた矢先の災厄であった。制約の中での生活を余儀なくされ、生業としているライブは中止と延期が相次ぐ中で、Nulbarichが歌ってきた自然体で自由に生きるということは、夢物語と化してしまったかに思えた。

 しかし、そんな苦難の時代だからこそ、Nulbarichの音楽は希望であり生きる糧なのだということが、11月15日に開催された『Nulbarich The Fifth Dimension TOUR 2021』ファイナル公演で証明された。最新作『NEW GRAVITY』をひっさげながらも、デビュー5周年ということで、これまでのオールタイムベストのようなセットリストで楽しませた本ツアー。例えば、中盤で披露された「Sweet and Sour」が象徴するように、酸いも甘いもあるからこそ人生であり、いい日はしっかり満喫して、悪い日は噛み締めながら耐えて、ゆっくりだとしても、どれだけ自分らしく生きる楽しみを見つけていけるか、そこに本質がある。確かにコロナ禍は未曾有の脅威を生み出したが、すべての出来事が1つの円のように繋がっていると思えば、見える光景の捉え方も変わってくるし、そうやって丸ごと楽しんでしまえばいい。〈思い通りの方がboring〉〈行き先は未定でもthat’s fine〉(「It's Who We Are」)と歌うNulbarichの音楽は、今も我々の日常と地続きなところで鳴っているのだ。

 この日のステージを観てまず感じたのは、ライブアレンジが圧倒的な完成度を誇っていること。Nulbarichのライブの醍醐味は、音源とはまた違うダイナミックで聴き応えたっぷりなアレンジにあるが、今回のサウンドは過去と比べても随一のヘヴィネスに満ちていた。ディストーションがかかったギターの応酬や、空間を舞うように流麗に跳ねるキーボード、どっしり聴かせる迫力満点のドラム、シンセベースも駆使した地を這うような低音グルーヴなど、各パートが織り成すアンサンブルのエネルギーが凄まじく、大所帯の“ロックバンド”と呼んでも差し支えないほど。「Spread Butter On My Bread」「Supernova」「In Your Pocket」という冒頭3曲を聴いただけでも音圧に驚かされたし、初期の代表曲「NEW ERA」も激しい転調によって全く新しい表情を見せ、『NEW GRAVITY』収録の「Lonely」も重厚感たっぷりに生まれ変わった。「Almost There」や「Silent Wonderland」など、メロディの壮大さで聴かせる楽曲でもギターがガンガンに火を吹き、興奮の渦を巻き起こした。

 Nulbarichの場合、それらは単なる過去曲の解体・再構築にとどまらず、“その時の気分で音を選んで鳴らす”ということを意味しており、ライブごとに曲の印象が変わるのも、その曲をどう見せたいかがまるで天気のように変化していくから。その最たるものが後半のハイライトとも言えるロングタームのセッションパートであり、オーディエンスの空気次第で誰がソロを弾くかも瞬時に変えていく。Nulbarichのエンターテインメントは、そういうラフで気ままな好奇心と、技術に裏打ちされた演奏力とのバランスで成り立っているのだ。

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