小泉今日子の1985年 アーティストとしてのターニングポイントをプレイリストとともに振り返る

小泉今日子『常夏娘』
小泉今日子『常夏娘』

 現在オンエア中の大塚製薬『ポカリスエット』新CMで、CMに出演している吉田羊、鈴木梨央が小泉今日子の「常夏娘」をカバーし、大きな話題を集めている。

 「常夏娘」は1985年にリリースされた小泉今日子の14thシングル曲。王道アイドル歌謡の系譜を継ぐ爽やかで切ないメロディ、サーフィンホットロッド風のアレンジ、そして、男性目線から〈常夏のお嬢さん 気分はいかが〉と語り掛ける歌詞が一つになった夏のポップチューンだ。

 吉田、鈴木がCMで披露している「常夏娘2021」の振り付けは、八反田リコ(映画『TOO YOUNG TO DIE!若くして死ぬ』『謝罪の王様』、舞台『愛が世界を救います(ただし屁が出ます)』などの振り付けを手がけるコレオグラファー)が担当。親しみやすく、爽やかなダンスは「マネしやすい」「かわいい」と評判になっている。昨年冬には同CMで「木枯らしに抱かれて」もカバーされるなど、このCMを通し、小泉今日子の80年代の名曲に注目が集まっているようだ。

 「常夏娘」が発売された1985年は“アイドル・小泉今日子”の絶頂期であり、彼女がアーティスト志向へと踏み出したターニングポイント。ここでは、“1985年の小泉今日子”を改めて紐解いてみたい。

 1984年3月リリースの9thシングル『渚のはいから人魚/風のマジカル』で初のオリコン週間ランキング1位を獲得。さらに『迷宮アンドローラ/DUNK』『ヤマトナデシコ七変化』『The Stardust Memory』も1位、さらに主演映画『生徒諸君!』のヒットも伴い、小泉今日子は瞬く間にトップアイドルの座を手にした。

 「常夏娘」は、1985年の最初のシングル曲。男性言葉の歌詞を爽やかに歌い上げるパフォーマンスは(刈り上げのショートカット、へそ出しデニムや水着をモチーフにした衣装とともに)、既存のアイドルは一線を画すインパクトを与えた。6月にはKYON²名義による限定盤12インチ・シングル『ハートブレイカー』、7月には作詞:松本隆、作曲:筒美京平によるアンニュイな雰囲気のミディアムチューン「魔女」を発表。楽曲ごとに大きくイメージを変えながら、アイドルの概念を更新していく姿勢は、当時のカルチャーシーンにも大きな影響を与えていた。

 クリエイティブなスタンスは、アルバムにも表れていた。1985年2月リリースの6thアルバム『Today’s Girl』は、収録曲10曲のすべてが異なる作詞家、作曲家によって制作された作品。フュージョン、ダブのテイストを取り入れた「ユメ科ウツツ科」(作詞:岩里祐穂/作曲:浜田金吾/編曲:佐藤博)、オールディーズ風のメロディを(80年代半ばにおける)現代的なポップスへと昇華させた「青い夜の今ここで」(作詞:銀色夏生/作曲:大沢誉志幸/編曲:伊藤銀次)といった個性的な楽曲が、小泉の多彩な魅力を際立たせている。

 1985年7月に発売された7thアルバム『Flapper』でも、“全曲、作曲者が異なる”というスタイルを継続。80年代のフュージョンブームの中心的存在だったT-SQUAREのヒット曲「OMENS OF LOVE」に松本隆が歌詞を付けた「ウィンク・キラー」、作詞:佐伯健三(サエキけんぞう)、作曲:矢野顕子、編曲:佐久間正英によるニューウェイブ〜テクノポップ感満載のポップチューン「マッスル・ピーチ」など、自らの音楽性をさらに奔放に押し広げている。ロックバラードとアイドルポップを融合させた「Someday」では“美夏夜”名義で自ら作詞を担当。〈どこにあるか わからない何かを/きっとみつけるわ〉というフレーズからは、新しい表現に果敢に挑もうとする姿勢が伝わってくるようだ。

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