小泉今日子『唄うコイズミさん 筒美京平リスペクト編』から感じた、音楽を通じた感謝と歌う意味

小泉今日子、配信ライブから感じたこと

 小泉今日子が、2020年の夏にはじめた配信ライブ『唄うコイズミさん』。アコースティックな編成で、気張らずさりげなく今歌いたい気持ちに忠実に歌う。無観客とはいえ、彼女がこうして“単独ライブ”を行うのは2012年に行った『Koizumi 30th Anniversary Tour 2012』以来で、実は8年ぶりのことだった。

「『歌いたくなってきた』というよりは、それまでしばらくは歌う意味を自分のなかでなくしてたんです。だけど、コロナ禍になって、また小さな意味が見つかったというか、思い出したような気がして」

 ライブを前にしてリアルサウンドで行ったインタビュー(小泉今日子、筒美京平楽曲から教わったこと)で彼女はそう語っていた。「何のために歌うのかという理由」、それが自分の中にあれば歌える、と。

 2021年3月21日に配信された第2回『唄うコイズミさん』の「筒美京平リスペクト編」は、あらためて彼女が語ったその言葉の深みを反芻させてくれるものだった。

 昨年10月7日に亡くなった作曲家・筒美京平は、小泉今日子にシングル曲、アルバム曲合わせて30曲以上を提供してきた。その最初の曲が、1983年5月5日にリリースされた5枚目のシングル「まっ赤な女の子」で、彼女のイメージを古典的でおとなしい美少女から、現代的でおてんばな女の子へと一新させた。それ以降も「ヤマトナデシコ七変化」「なんてったってアイドル」「夜明けのMEW」などなど、彼女にとって画期的なチャレンジとなる曲の多くを筒美が手がけている。そんな恩人への「音楽を通じての感謝」を表明するのは、まず第一の理由だろう。

 ライブの1曲目は、ファンに人気が高く、彼女も大好きな曲だという「今をいじめて泣かないで」だった。全曲を筒美京平の書き下ろし楽曲で統一した5thアルバム『Betty』(1984年7月)の収録曲。作詞は銀色夏生、アレンジは船山基紀。落ち込む出来事があってうわの空の彼に向けて彼女が問いかける歌詞とミディアムテンポで揺れるメロディラインの相性が絶妙なこの曲のサビで彼女が歌う〈今をいじめて泣かないで〉と、コーラスの〈Don't you cry, never mind〉のフレーズが、このコロナ禍で気持ちが落ち込んでいる、あるいは歌に助けを必要としているすべての人たちにすっとさりげなく届いていくように思えた。

 筒美京平をはじめ、自分にたくさんの宝物をくれた音楽にまた息を吹き込みたいという理由。自分の歌を待っていてくれた人たちへのありがとうを言いたいという理由。大好きな曲をこうして歌う楽しさを実感したいという理由。そのすべてが歌っている彼女から自然に伝わってくる。「歌ってこんなに楽しい」ということをかつて音楽を通じて教えてくれたのも筒美京平の楽曲だった。

「私は歌があんまりうまくなかったから、その分『おもしろい』とか『楽しい』と思えるところを作ってくれたんだと思います。メロディでキャッチーなところを作ってくれて(中略)そこをおもしろく感じて演じるように歌ったことで、どんどん『小泉今日子』というキャラクターがはっきりしていったところは今思えばあるかもしれません」

 「小泉今日子」というキャラクター、と彼女は言ったが、じつはそれは架空のアイドルを作り出すのではなく、等身大の自分自身であることとアイドルであることが決して矛盾しないというあり方の発明でもあった。だからこそ、彼女は筒美京平が亡くなった際にさまざまなメディアからコメントを求められた際に「なんかイヤだな」と感じたのだと思う。

 音楽を通じて受け取った数々の宝物に対して、反射的に出た言葉だけで感情的に弔意を語るのはきっと違う。そして、それが「筒美さんが描いてくださった曲を歌うことでしか語れないと思ったし、今回のライブでそれができたらいいのかなという感じです」という大きな表現へとつながっていった。その「なんかイヤだな」という直感に忠実に、自分らしい行動を選択して、こうして大きなものを新しく生む。そんな生き方こそが、彼女が教わってきたものだし、きっとこれからも伝えていくものだ。

■配信情報
『唄うコイズミさん 筒美京平リスペクト編』
見逃し配信 3月28日(日)23:59まで
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