和楽器バンド、個性の“尊重”から生まれる柔軟な制作スタイル 円満な活動の秘訣やJ-POPシーンへ向けた作品作りを聞く
和楽器バンドがフォーカスした“J-POPとしての強度”
ーーそして6月9日には新作『Starlight』E.P.がリリースされます。前作のアルバム『TOKYO SINGING』は、和楽器バンド本来の特徴が押し出された、ロックバンド然とした作品だった印象がありますが、今回のEPは、エレクトロを取り入れたリード曲「Starlight」をはじめ、新たな和楽器バンド像を打ち出しているのかなと。
町屋:まず「Starlight」という楽曲に関しては、こちらがやりたいことというより、ドラマ(フジテレビ系月9ドラマ『イチケイのカラス』)サイドと話をするなかで、どういう曲がドラマに合うかをすり合わせたんです。「サウンドはエレクトロで」という要求があったので、我々のメンバー構成でも出来るエレクトロを表現してみようと。あと、今回のEP全般に言えるのは、「ロックバンドがJ-POPにフォーカスした」というところが大きくて。前回の『TOKYO SINGING』は確かに和楽器バンド然としていたと思いますが、次はどうするか考えたとき、どこに留まるのもいいし、新しい変化を取り入れるのも在り方の一つで。色々な選択肢があるなか、J-POPに焦点を絞ったところはありますね。
ーーそれも月9ドラマの主題歌を担当したことがきっかけだった?
町屋:このバンドがJ-POPのチャートのなかに存在している以上、ある程度は音楽の流行り廃りを意識する必要があると思っていて。たとえば大先輩のBUCK-TICKさんは、すごく上手にサウンドを変化させ続けていると思うんですけど、ポップスのチャートを狙うのだったら、それは当たり前のことじゃないかなと。ただ、サウンドの雰囲気やアプローチが変わったとしても、それぞれが放っている音がしっかりしていれば、ブレることはないとも思っていて。
ーーなるほど。確かに「Starlight」は、エレクトロの要素を取り入れつつ、最終的には和楽器バンドらしいポップチューンに仕上がってますね。
鈴華:まっちー(町屋)が言ったように、「Starlight」は月9だから出来た曲なんですよね。主題歌には(ドラマの)世界観を広げたり、背景を飾る重要な役割があるし、それを壊すようなことは絶対にしてはいけない。主題歌が「和楽器バンド」というだけで名前にインパクトがあるし、そのイメージが先行してしまうと思ったので、最初はバンド名を「WGB」にしていたんですよ。ファンの皆さんは以前から「WGB」という言葉を当たり前に使っていたんですけどね(笑)。サウンドや歌詞に関しても、ドラマに寄り添いながら、自分たちができる自然な表現をしたという感じです。
ーー鈴華さんのストレートな歌唱も、ドラマの世界観に寄り添うための選択だった?
鈴華:そうですね。「Starlight」では詩吟の節調と言われる歌唱では、楽曲の世界に合わないと思ったので。
神永:打ち込みがメインになっていても、バンドの個性は滲み出ていて。これまでとは違ったテイストの楽曲のなかで“和”を出すことで、新しいバンドの表現ができたのかなと。
亜沙:普段通り、楽曲に相応しいベースラインを考えて、納得いくフレーズに落とし込んだという感じですね。ちゃんと自分の仕事をしたというか(笑)。ドラマやアニメの主題歌もそうですが、こういう話をいただけること自体がありがたいし、ラッキーですよね。贅沢な環境にいるなと思います。
黒流:和楽器奏者としてこういう楽曲に参加できることは、すごく刺激的でしたね。最初はアプローチの仕方に悩みましたけど、まっちー(町屋)と話し合いながら、いろいろと試してみて。ジャンルとしてはポップな側面を押し出しつつ、8人の音がしっかり鳴っているのもいいなと思います。「Starlight」を和楽器バンドの曲として成立させられたのは自信になったし、また新しい表現ができたなと。
ーー「生命のアリア」はTVアニメ『MARS RED』のオープニングテーマ曲。冒頭から和楽器の音が響いてますし、和楽器バンドらしい楽曲だなと。
町屋:「生命のアリア」は、特にアニメサイドからの要望はなくて。台本を読ませてもらって、自分の頭の中で鳴っている音を形にしたという感じです。頭サビにして、冒頭からガツンと我々らしさを出そうというのも、最初から決めてました。実際、演奏にも歌唱にも従来の和楽器バンドらしさが素直に出ていると思うし、スタンダードな曲になりましたね。1番と2番で曲の表情がかなり違うんですが、それも我々の強みだと思います。
鈴華:今回のEPに収録されている4曲は、全部歌い方を変えているつもりなんですけど、唯一、節調を使っているのが「生命のアリア」なんです。それが和楽器バンドらしさだと思っているし、この曲がなかったら、私は納得いかなかったかもしれないですね(笑)。だからこそ(EP全体で)バリエーションが見せられると思うし、こういう曲がないと始まらないなって。新しいサウンドにも挑戦したいですけど、ファンをおいてけぼりにもしたくない。そういう意味では、バランスが取れた4曲だと思います。
神永:和洋折衷ですよね。尺八に関しては、日本的な音階を意識してるところもあるし、ギターの西洋音楽的なメロディともハモっていて。どれくらい折衷させるかは演奏者に委ねられてるところがあるんですけど、そこも含めて、和楽器バンドらしい曲なのかなと。
亜沙:ロックと和楽器の融合ということでは、“らしい”ですよね。まあ、何をもって和楽器バンドらしいのかは、難しいんですけど。
鈴華:いくつかパターンがあるからね。
亜沙:うん。曲調やアレンジもそうだけど、最終的には、このメンバーで演奏すれば和楽器バンドらしくなるのかなと思ってます。
黒流:8つの音がしっかり聴こえるし、ゴチャゴチャした感じもなくて。曲の後半、激しく展開することも含めて、和楽器バンドらしさがしっかり感じられる曲だと思います。僕自身も演奏してて楽しかったですね。自由にやれるところもかなりあったし、「よー!」という掛け声も久々で。