『MID LINE』インタビュー
Mellow Youth 石森龍乃介&伊佐奨に聞く、音楽への目覚め 対照的なツインボーカルによるバンド結成に至るまで
男性ツインボーカルが特徴の5人組バンド、Mellow Youthによるニューシングル『MID LINE』が6月23日にリリースされる。
成熟した「大人(mellow)」の部分と「若さ(youth)」の部分、その両面を持ちあわせたバンドという意味が込められた名を持つ彼らは、ソウルフルでどこか昭和の香りを漂わせる歌声の石森龍乃介(Vo)と、のびやかで甘い歌声を持つ伊佐奨(Vo / Gt)が織りなす唯一無二のハーモニーがとにかく印象に残る。また、「梅雨」をテーマにした表題曲を含む今作は、そのバンド名を象徴するようなメロウで湿度の高いサウンドプロダクションと、シティポップ直系の洗練されたバンドアンサンブル、そしてその奥に宿るロックの初期衝動が絶妙なコントラストを生み出している。
そのアダルトな歌声とは裏腹の、やんちゃで天真爛漫な魅力を放つ石森と、ほぼ全ての楽曲を手がける柔和でしっかり者の伊佐。歌声だけでなくキャラクターまで対照的な2人と共に新作を紐解きながら、バンド結成の経緯やそれぞれの音楽的バックグラウンドなどをじっくりと聞いた。(黒田隆憲)
とにかく「歌うこと」が好きだった(石森)
ーーお二人は、どのようなきっかけで音楽に目覚めたのですか?
石森龍乃介(以下、石森):僕はもう、本当に普通でして……幼少期は特にこだわりがあったわけでもなく、家で流れていた音楽を聴いていました。ただ、中学生の頃に仲が良かった友達がものすごい音楽好きで、その彼と一緒にいろいろな音楽を掘ったり、ちょっと楽器を触ってみたりするようになって。そのうちに「ドラムやってみたいなあ」と。それだけの理由で吹奏楽部に入ってドラムを叩き始めました(笑)。
高校に入ってONE OK ROCKに出会ったのも大きいですね。(地元の山梨から)横浜までライブを観に行ったんですけど、でかいステージに立っている姿がとにかくカッコ良くて。「こんなふうに人前に立てる人間になれたらいいな」と思ったのがきっかけで上京しました。おばあちゃんが東京に住んでいたので結構自然な流れで東京の音楽の専門学校に入って、そこで今のバンドメンバーに出会った。なので、割と流れに任せてここまできた感じでしたね。
伊佐奨(以下、伊佐):僕は、8歳離れた兄がバンドをやっていて、家にギターがあってそれを触り出したんです。ちゃんと音楽をやろうと思ったのは高二の時。廃部になっていた軽音楽部を復活させるために、顧問の先生を探したりしていました。
ーーへえ! 青春ドラマみたいじゃないですか。
石森:確かに。楽しそうだな。
伊佐:(笑)。そこでスリーピースバンドを組み、学校以外でもライブをやろうと思って、おじさんたちに混じって地元・石垣島のライブハウスに出演したりしていました。そのバンドではMONGOL800のコピーをやったり、時々オリジナル曲を作ったりしていました。周りにコピーバンドしかいなかったので、「自分で曲作った方がいいじゃん、お金払って観に来てもらってるわけだし」と思ったんですよね。
ーー上京して、音楽の専門学校に入学した時には二人ともプロを目指していたのですか?
石森:プロになれるとは、俺は全く思っていなかったです。6年以上ずっとドラムを触ってきていたので、最初はドラマーになりたかったんですよ。でも、その学校の「体験入学」に行ってドラムのコースレッスンを受けたとき、一緒に受けていたドラマーが「ドラム歴13年」とかで。そいつのプレイを目の当たりにしたら、ドラムなんてやってられなくなるくらい上手かったんです(笑)。それで「どうしよう」と思って……そういえば歌うことは高校の頃から大好きだったし「ボーカルで勝負するしかないな」と。ちなみにそのドラマーとは、Mellow Youthをやる前に一緒にバンドを組んだんですけど。
伊佐:僕はプロを目指していたというか、「有名になりたい」と思っていました(笑)。ただ、バンドメンバーと一緒に上京してきたわけではなかったので、ゼロからまたメンバーを探して組んで、ちょっとノスタルジックなロックというか、ユニコーンみたいなオリジナル曲を作って歌っていました。ちょうどTHE BAWDIESやgo!go!vanillasなどが出てきた頃で、そういう系統の音楽をやっていた記憶があります。一回、対バンしたよね?
石森:そうだね。全くジャンルの違うバンドが何組か集まって、早稲田のZONE-Bや高田馬場CLUB PHASEなどのライブハウスに出る企画で伊佐たちのバンドと一緒になって。そのときから伊佐の作る楽曲のセンスは抜群でしたね。「売れそうな曲作るよなあ」と思っていました(笑)。
伊佐:当時はやっている音楽のジャンルが全く違っていたので、一緒にやることはないだろうなと思っていたよね。今、Mellow Youthでやっているような楽曲を石森が歌えるとも思わなかったし。もっとシャウトするような、激しめの楽曲を石森はやってたんですよ。ちなみに僕は(木立)伎人(Gt)と仲が良くて、2人で夜中に集まって「いつか一緒にバンドやれたらいいよね」なんて言い合ってました。
ーーでは、Mellow Youth結成の経緯は?
石森:さっきも言ったようにみんな同じ専門学校なんですが、バラバラでバンドをやっていたんです。僕と伊佐以外の3人はそもそも一緒にバンドを組んでいて、そこのボーカルが脱退した時に、俺は阿部(優樹/Dr)から、伊佐は木立から「ボーカルやらない?」ってオファーが来た(笑)。阿部とは特に仲良かったわけでもなくて、授業が一緒だとしゃべるくらいだったからびっくりしたんですけど、とにかくボーカルが2人になってしまったわけです。
ーーそもそもツインボーカルのバンドを組む予定ではなかったと。
石森:そうなんですよね。伊佐がいるのを知って、「どんなふうにやっていくんだろうなあ」と思いました。なので最初は大変でしたね。もともとが友達だったらそんなに気を使わずに済んだのだろうけど、すごく変な気の使い方をずっとしながらやっていたよね(笑)。
伊佐:しかも、それが2年くらい続いた(笑)。
ーー2年はさすがに長いですね(笑)。楽曲は、最初から伊佐さんが作ることになっていたんですか?
伊佐:メンバーを見たときに「ああ、俺が作るんだろうな」と察したというか(笑)。作ってくれと言われたわけでもなければ、俺が作ると公言したわけでもないですけど。
ーー形になるまでは結構ふわふわしてたんですね(笑)。
石森:そうなんですよね、ふわふわしていました。
伊佐:バンドを組んで、リーダー格になっていたのは伎人なんですよ。なので、音楽性も伎人が好きな感じから始まったというか(笑)。彼が「ちょっとおしゃれなことがしたい」と言っていて、「じゃあ、そういう曲を作ろうかな」と。僕自身いろんなジャンルの音楽を聴いていたので、そういう要望にも応えられたというのもあるけど。
石森:「こういう音楽はやりたくない」というのが明確にあるのが伎人なので(笑)、そこを避けていった結果、今のような音楽性になったのかもしれないですね。今気づきました。ただ、今となっては伎人が好きかどうかも関係なくなってきたけど。
伊佐:まずは4曲くらい作ってみて、そこでなんとなくバンドの輪郭が決まった感じもします。
ーー5人全員が共通して好きなアーティストは東京事変だとか。
伊佐:僕は椎名林檎さんと浮雲(長岡亮介)さんがもともと好きで、伎人も浮雲さんのギターが好きで。ベースの肥田野(剛士)は亀田誠治さんが好きだから、バンドの共通項になっているというか。
石森:このバンドに入る前はBring Me The Horizonやジャスティン・ビーバー、ダン・クロール、HONNE、FKJなどの洋楽ばかり聴いていたので、東京事変も存在を知っているくらいだったんですよ。で、みんなが好きだと言っているものは出来る限り聴くように心がけていたら「いいな」と思うものがどんどん見つかっていって。それが、今まで聴いていた洋楽ともリンクするようになった感じです。
ーーお二人のボーカルスタイルの違いがバンドのカラーになっていると思うのですが、それぞれ影響を受けている人はいますか?
伊佐:僕は昔からAqua Timezが好きで、カラオケとかでもよく歌っていたから、歌い方など太志さんからの影響は大きいと思います。
石森:僕はASIAN KUNG-FU GENERATIONやBUMP OF CHICKEN、Galileo Galileiだと思います。歌詞の部分でも影響されていますね。描写の仕方とか面白くて大好きです。あと、このバンドをやるようになってYogee New Wavesや田島貴男さんなども聴くようになったり。大人っぽくて渋い声に近づけるよう、今も頑張っています。
ーーやりたい方向性が定まってきたわけですね。
石森:正直このバンドを組むまでは、自分はどういうボーカリストになりたいかとか、こんな音楽をやりたいとか、そんなに考えたことがなくて。なんとなく有名どころの音楽を聴いて、歌を歌うことだけで満足してたんですよね。でもMellow Youthを組んで、色々ライブをやったり感想をもらったりしていくうちに、少しずつ自分がなりたいボーカリストの像が決まってきているのかなと思います。うまく言えないんですけど。
歌を歌っている人たちって、届けたいメッセージのようなものを明確に持っている人が多いじゃないですか。でも、僕はとにかく「歌うこと」が好きだったので、そこを共感してくれる人たちが増えると嬉しいですし、共感の方向を掴めるような歌詞が作れたらいいなと思っていますね。
ーー確かに歌詞を読むと、メッセージ性を強く打ち出すというよりは、情景描写に重きを置いている感じはしますよね。
石森:その辺は伊佐とも話しています。バンドを組んだ最初の頃に、話が噛み合ったのはそのくらいだったかも(笑)。自分たちが好きなシンガーはみんなメッセージ性の強い曲を歌っているのに、いざ発信する側になってみると「歌詞そのものに深い意味がなくてもいいのかな」みたいな。受け取った人たちが自由に感じるものだと思っているんですよね。
伊佐:たぶん僕らは歌いたいメッセージが先にあるわけではなくて、誰かの曲を聴いて「こういうのやりたいな」と心を動かされてきたタイプなんですよね。それを自分たちでも咀嚼してアウトプットしたいという。
ーーメッセージを伝える手段として音楽があるわけじゃないと。
石森:伝えてくれている人たちってすでにたくさんいるじゃないですか。俺らが主張することでもないのかなって。伝えたいことが特にないのに、無理に伝えようとしなくてもいいのかなと思っています。