いきものがかり 山下穂尊が早くから獲得していた独自の作家性 今改めて聴きたい10曲

いきものがかり『WHO?』(通常盤)
いきものがかり『WHO?』(通常盤)

 いきものがかりの山下穂尊が、今夏を以ってグループを脱退することを発表した。山下は今後も創作活動を続けるが、表舞台に立つ芸能活動から離れるとのこと。6月11日に行われる横浜アリーナ公演が3人でのラストライブとなる。

 山下はこれまでカップリング曲やアルバム曲を多く手がけ、特にアルバムのラストを飾る大作バラードをメンバーから任せられてきた。「ありがとう」や「風が吹いている」、「YELL」、「SAKURA」など、グループを(そして時代を)象徴する曲を生み出していった水野良樹の功績は計り知れないが、いきものがかりに深くハマったきっかけは山下が書いた曲だったというファンの声も少なくない。聴き手の心を惹きつけた要素として挙げられるのは、例えば、日本語の美しさを思い出させてくれるような言葉選びや(主にバラードに込められた)やわらかなメッセージなど。また、ダークな世界観に振り切った曲もあり、シングル曲ではないからこそできるアプローチはファンに驚きをもたらした。この記事では、山下作詞・作曲によるいきものがかり10の名曲を紹介したい。なお、最初の3曲はインディーズ時代から演奏されているもの。独自の作家性を早くから獲得していたことがうかがえる。

①地球

「地球」

 〈一瞬の花火のように 何度でも空に瞬けたら〉など美しい描写を挿し込みながら、一人の人間を形作るものとしての出会いと別れ、ひいては人生について歌ったバラード。難しい言葉が使われているわけではないが、テーマは深遠で、路上ライブ時代からこんな曲を歌っていたのかと思うとおそろしい。「地球」は山下が人生で2曲目に書いた曲で、当時水野は驚き焦ったのだそう(※2)。いきものがかりがヒット曲を次々と世に送り出せた一つの理由は、“一番のライバルが一番身近にいる”という関係性だったのかもしれない。タイトルは「地球」と書いて「ほし」と読む。

②夏・コイ

「夏・コイ」

 いきものがかりには3人が順にメインボーカルをとる曲が2つある。そのうちの一つが「夏・コイ」。ライブでも盛り上がる曲で、『いきものばかり~メンバーズBESTセレクション~』収録時にレゲエ調にリアレンジされた。タイトル通り、歌詞ではひと夏の恋を描かれていて、青春の1ぺージ的な初々しさが詰まっている。中でも秀逸なのが〈丸く見開いた目と決して沈まない太陽/僕の行く先を想像してみる〉という冒頭のライン。〈僕〉にとって予想外の出来事が起こって恋が走り出したことや、二人の関係性(驚かせた相手の方がきっと僕より一枚上手だ)を示唆させることで、その先への期待感を煽る。

③月とあたしと冷蔵庫(※作詞は山下穂尊・吉岡聖恵)

「月とあたしと冷蔵庫」

 隠れた名曲としてファンから愛されているバラード。ピアノのコードをバックに吉岡がぽつりと歌う最初の3行で、親密かつ神秘的な物語の世界に引き込まれる。そのあと始まるのは、悩みながらも日々を生きる少女の内省。繰り返し登場する〈月〉は、少女を近くで見守る存在として描かれている。山下自身が神奈川県出身で、上京という行為に憧れがあるからなのか、彼の書く歌詞には“上京物語”と呼べる内容のものも多い。この曲もその一つに分類できるだろう。少女にとっての月のように、アコースティック調の温かいサウンドがこの曲を聴くあなたに寄り添う。

④心の花を咲かせよう

「心の花を咲かせよう」

 第87回全国高等学校サッカー選手権大会の応援歌。しかし、確かな意志を持って物事に取り組んだ経験は人生の財産になると歌うこの曲は、応援歌というよりも人生賛歌と呼びたくなる。全体的に言葉遣いが硬質で、〈心にある花を枯らさずに咲かせよう〉→〈心に咲く花を大切に育てよう〉→〈心にある花をいつまでも咲かせよう〉と細かに表現を変え、あらん限りを伝えようとする姿勢からは聴き手に対する誠意が読み取れる。主題に軸足を置いたまま、生命の循環、輪廻にまで話題を広げる2番サビも興味深く、山下ならではという印象だ。

⑤真昼の月

「真昼の月」

 4thアルバム『ハジマリノウタ』収録曲。山下の得意分野にあたる、和のエッセンスが感じられるマイナー調のバラード。〈想い馳せて焦がる人〉、〈巡る四季の中誰を恋ふて〉と古語を用いた歌詞に、ストリングス、箏、ピアノ、アコースティックギターなどによる流麗なフレーズが絡むことで曲が一気に香ってくる。先述の“日本語の響きを思い出させてくれるような言葉選び”の究極形と言って差し支えないだろう。文字として歌詞カードに並んだ時の見栄えさえも美しい。

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