いきものがかり 山下穂尊が早くから獲得していた独自の作家性 今改めて聴きたい10曲

⑥いつだって僕らは

「いつだって僕らは」

 過去3回ユーキャンのCMソングを担当しているいきものがかり。「いつだって僕らは」は2012年年始に放映されていたCMに使用されていた曲で、新しいことにチャレンジする人の背中を押すアッパーチューンだ。ユーキャンにかけて〈勇敢〉という単語が使われているが、登場するのは2番(=CMでは流れない)に入ってからというさりげなさがポイント。遊び心を忍ばせつつもしたり顔で押し出すことはしない、その奥ゆかしさも山下らしさなのかもしれない。

⑦あしたのそら

「あしたのそら」

 シングル『1 2 3~恋がはじまる~』のカップリング曲で、後に6thアルバム『I』にも収録。カントリー/アイリッシュ調のサウンドはいきものがかりでは珍しく、カップリング曲ならではの冒険心が読み取れる。句読点がついていたり、「~ます」と「~だね」が入り混じったりしている歌詞は、親しい人への手紙のよう。〈泣いて笑って繋いだ手ってのは温かいんだね。〉のラインは「茜色の約束」の歌詞や、いきものがかりの初期のキャッチコピー“泣き笑いせつなポップ三人組”を彷彿とさせる。

⑧マイサンシャインストーリー

「マイサンシャインストーリー」

 「いつだって僕らは」もそうであるように、山下の書くアッパーチューンは歌詞の言葉数が多い。「マイサンシャインストーリー」はサビにその傾向が出ていて、ボーカルは8分刻みで忙しなく移動している。特に1番サビの16小節目1~2拍目はフレーズの切れ目にも関わらず休符がなく、1オクターブの高低差があるからえげつない。この譜割りでも、聴き手に“難易度の高いことをやっている”という印象を与えることなく、全ての音符を均等に鳴らせてしまうのが吉岡聖恵というボーカリストのすごさだ。歌詞で印象的なのはやはり〈できないもん〉のかわいさだろうか。かわいすぎるがあまり、女性のソングライターであれば避けそうな表現であり、“男性が書いた歌詞を女性が歌う”というグループの構造が上手く作用した例と言える。

⑨マイステージ

「マイステージ」

 7thアルバム『FUN! FUN! FANFARE!』収録曲。山下が友人の死に改めて向き合って書いた曲(※3)で、“遺された者がどう生きていくか”という部分に言及している。水野には“ポップソングは死をテーマにすることから逃れられない”という考えがある(※4)ため、いきものがかり的には珍しくないテーマだが、山下作のバラードの中では異色の存在。言うなれば“山下が書いた水野的テーマの曲”。〈僕らはまだ生きてく 愛の欠片をまた探して行く〉とサビに広い言葉を配置する勇気はどことなく水野っぽいが、〈「必ずまた逢える?」と君は僕に尋ねるけど/孤独な愛を知ったひとはどこか切なくする〉という歌い出しのロマンティックさは確かに山下らしさを感じる。

⑩わたしが蜉蝣

「わたしが蜉蝣」

 今年3月にリリースされた9thアルバム『WHO?』に収録。1番Aメロの中間に登場する〈ルルル〉とその後の伏線回収、笛や打ち込みを取り入れたサウンドなど新しい要素を取り入れつつ、「真昼の月」にも通ずる和情緒溢れる世界を展開。“これぞ山下曲!”的な作風を今のいきものがかり流にアップデートした1曲だ。だからこそ「いきものがかり、前はよく聴いていたけど最近の曲は知らないなあ」という人に届いてほしい。蜉蝣とは昆虫の一種で、成虫になってから数時間で死ぬ短命の生物。それを踏まえて聴くと、刹那的な歌詞・メロディと進み続ける時の流れの象徴としてのリズム(狂いのない打ち込み、行進のマーチングドラム)との対比が切なく感じられる。

 以上10曲はこれまで山下が残した曲のほんの一部だ。この10曲を入り口に他の曲も聴いてもらえたら嬉しい。また、「いや、この曲も入れるべきでしょ」的な異論は大歓迎。あなたなりの10曲をぜひ考えてみてほしい。

参考:
(※1、2、4)水野良樹『いきものがたり』(小学館文庫)
(※3)https://www.oricon.co.jp/special/47522/

■蜂須賀ちなみ
1992年生まれ。横浜市出身。学生時代に「音楽と人」へ寄稿したことをきっかけに、フリーランスのライターとして活動を開始。「リアルサウンド」「ROCKIN’ON JAPAN」「Skream!」「SPICE」などで執筆中。

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