Amazon Music『PRODUCERS』インタビュー
Seihoが制作を通して考えたプロデューサー論 KID FRESINO、ceroら参加した『CAMP』での“気づき”
数珠つなぎが起こっていく場所に作曲家やプロデューサーはいる
ーーでは、「STAY feat. ACO」はどうでしょう? ACOさんも、Seihoさんがずっと好きだったアーティストですよね。
Seiho:ACOさんの過去のアルバムには電子音楽のミュージシャンがたくさん参加していて、それこそ砂原良徳さんやAOKI takamasaさんから入った部分もあるし、そういう人たちがACOさんの声と一緒に冒険していくような感じがあって。あの雰囲気というか、エレクトロニカ前夜のポップスみたいなものって、僕も学生時代にすごく影響を受けたんです。それを回収するためにも、「ACOさんと何か作れたらいいな」と思って相談しました。
この曲も、最初に僕がトラックを作って送ったんですけど、そのあと「何か違うかも」と思いはじめたんです。『CAMP』の他の曲に引っ張られ過ぎて、ACOさんとの曲にできていないんじゃないか、と。そこから、もっとストレートに「ACOさんとどんな曲が作りたいか」を考えながら、過去の自分の曲のフォルダを漁っていたとき、この完成版にそのまま使われている4年くらい前のトラックを見つけました。ACOさんにそれを送ったら、ACOさんも「この曲いいね!」と言ってくれた感じでしたね。
次の「SHANTI feat. cero」だと、僕はceroの歌って、日本人がR&Bやヒップホップを取り入れるときの理想的な形なんじゃないかと思っていて。さきほどのオリジナリティの話じゃないですけど、ディアンジェロっぽい言い回しをしたり、今のラッパーにも通じる三連符の言い回しを取り入れたりとか、影響を引っ張ってくるところがすごく上手いと思うんです。髙城(晶平)さんは色々と考えている方だと思うんで、「今こことここを繋げると、面白いものができるんじゃないか」という感じで、DJで言うところの選曲術がめちゃくちゃある人、という感じですよね。だからこそ、今回は僕から見て「こういうものをやってくれたら面白くなるんじゃないか?」という提案をしてみました。
ーートラック的には、Daft Punkがデジタルファンクをやるときに近い雰囲気ですね。
Seiho:いいですね(笑)。この曲では繰り返されるフレーズの中でどういう物語が紡がれていくかを意識していて、「(曲の展開を)ループにしたい」と最初に相談しました。それと同時に、ループの中でも、たとえばハウスみたいにずっと同じ場所で踊り続けるようなタイプのビートではなく、繰り返されるうちに転がっていくような、進み続けていくものがいい」と思っていました。そのうえで、起承転結の「起」からはじまって「結」で終わるような物語ではなく、「どこからはじまっても、必ずどこかで終わる」、でも「大きな物語があって、細かく見てもそこには色々な物語がある」という構造にしたいと思っていました。
前に國分功一郎さんの『中動態の世界』を読んで、Twitterで感想を呟いたとき、高城さんが「読んだよ」と連絡をくれたことがあったんです。國分さんの言う「中動態」って、ざっくり言うと「能動態」と「受動態」の間にあるもの、という話で、あらゆる物事は「している」であると同時に「されている」でもあるし、責任の所在が曖昧であることをどう捉えるかという話でもある。これは、自分が思うプロデューサー論みたいな話になるんですけど、「親の教育は、親が子供に教えるだけでなく、親が子供から教わることでもある」という話と一緒で、誰かをプロデュースすることについても、自分がどうプロデュースされるか、ということと同等に扱われるものだと思うんですよ。
ーーなるほど、今日話してくれたことの大部分と繋がるエピソードですね。では、最後の「IF YOU feat. KID FRESINO」についても教えてください。
Seiho:FRESINOとはお互いに信頼関係もできてるんで、何も考えずに作っていきました。もちろん、最初は色々と考えたんですよ。僕としては、普段からFRESINOにこういうチャレンジをしてほしいな、と思うことがあって、彼は彼で「いや、Seihoさんはそういう感じだろうけど、自分はもっとこういう方がいい」というラリーが結構あるんです。なので、最初はまだ見れていない彼の面をもっと引き出そうと思ったんですけど、結局出来上がったものはお互いのいいところが合わさったものになりました。自分たちが思ういい曲を作るために、一筆書きみたいな雰囲気で曲ができたのがよかったです。
ーー作品を制作していく中で、「この人にこんな面があったんだな」「自分にこんな面もあったんだな」と、何か新しく感じたことや気づいたことはありますか?
Seiho:本当に気づきだらけだったんですけど、アーティストだけでなく、関わってくれたスタッフの人たち全員に気づきがあったと思っています。今回はそれが一番大きかったなぁ、と。僕の場合、自分をセルフプロデュースしている感覚が強いし、普段の制作作業は自己完結できる部分もあるんで。今回みたいに人と作業をするとき、普通は完全な役割分担になるじゃないですか。これは僕だけではなくて、色々な人が仕事でも何でも経験することだと思うんです。そして、そのメンバーで別のプロジェクトを立ち上げたとき、元々あった役割が曖昧になる瞬間ってありますよね? たとえば、会社のメンバーでキャンプに行ってみたら、「この人、実はめちゃくちゃ動けるんや!」と分かる、みたいな。
ーー「この人、めっちゃ肉焼いてくれるやん……!」というような。
Seiho:そうそう(笑)。それがずっとある感じでした。関わってくれた人たちの意外な面を色々と見られた制作だったと思います。
――アーティストの普段とは違う一面を見られるのはかなり楽しいことですよね。
Seiho:僕はプロデューサーの面白さって、そこだと思うんです。100人いたら100人がそういう音楽の聴き方をするわけではないけど、曲を聴いて「この曲ってこの人がプロデュースしているんだな。なら他の曲も聴いてみよう」と、数珠つなぎが起こっていく場所に、作曲家やプロデューサーはいると思っていて。たとえば、FRESINOを好きな人が今回の曲を聴いて、「Seihoって人が作ってるんだな」と僕の他のリミックスやプロデュース曲を聴いてくれたら、そこから別のアーティストにバトンが繋がっていくはずです。色々なジャンルの音楽が交わるところでは、そのバトンが繋がっていくのかな、と思います。
ーー今回「守破離(過去を模倣して、新しいものを作るという趣旨の、日本の芸事の修練にまつわる思想)の精神で新しい音楽を作ろうとチャレンジしました」というSeihoさんのコメントが載っていましたが、それにも繋がってきそうな話ですね。
Seiho:そうですね。ここ数年、音楽にしても守りの時期だったのかな、と思うんです。アメリカではアメリカっぽいものが流行っていたし、ヨーロッパではヨーロッパっぽいものが流行っていたし、自分たちの文化や自分たちのアイデンティティを捕まえておかないと不安な時期だった、というか。でも、そうやって自分たちのアイデンティティをある程度担保できて、「ああ、私の核はこれとこれなんだな」と分かったら、次はそこから出る話になっていくはず。音楽で言うなら、新しいジャンルや表現にチャレンジして、元々いたところから距離を取る段階になるはずなんです。そのときに、さっきのキャンプの話と同じで「ああ、こういう面もあるんだな」「こんなこともできるんだな」とか、自分の新しい面が色々と見えてくると思っています。それでまたアイデンティティが固まってきたら、また新しいアイデンティティを模索していくという、ずっとこの繰り返しなのかな、と思うんですよ。
ーーそもそもSeihoさんは、昔から生け花をやってみたり、ライブで牛乳を飲んでみたり……音楽以外の要素も含めて、自分なりの表現活動をしてきた人だと思うんですが、小さい頃からそういうタイプの性格だったんですか?
Seiho:自分でも分からないですし、教えてほしいくらいです(笑)。でも、小さい頃から集中力はかなり極端で、たとえば美術の時間に何かを作りはじめたら、完成するまで次の授業にも出たくない、という感じでした。でも、散漫と言えば散漫で、すぐどこかに行ってしまったりするんです。食べ物にしても、何かハマったものがあったら、その時期はもうそれしか食べない。でも、それが終わったら何でも食べる、といった感じ(笑)。何か、いつも極端なんですよね。でも、最近は衝動的に何かをやるよりも、いくつかの要素がはまって、はじめてスイッチが入るようになっている気がします。
ーー「いいものを作りたい」という気持ちゆえの変化なのかもしれないですね。
Seiho:そうかもしれないです。そういう歳ではなくなったのかな、と。
ーーおでん屋や和菓子屋をはじめたことも、いい刺激になっていますか?
Seiho:『そのとおり』と『かんたんなゆめ』をはじめたことは僕の中でも大きい出来事でした。ただ、一般的に言われる素晴らしい経営者って、どんな人が働いても成功できる店を作れると思うんですけど、僕の場合は全然そうではなくて、おでん屋の場合も店主として一緒に働いてくれているSugar's Campaignの“あきお”ができることを考えて「おでん屋が合うんじゃないか」と決めました。「かんたんなゆめ」の場合も、元々洋菓子のパティシエをしていた店主の寿里ちゃんに「お店をやりたい」と相談されて、寿里ちゃんの状況だったら和菓子がいいんじゃないか、と。このように、その人と僕との関係で店をはじめているんです。「この人と今何かをするなら、自分は何ができるか」を考えていくことでしか、自分がここにいることを証明できないと思うし、その人が自分にとって必要であることを証明できないというか。なので、誰かに「あなたは私にとって必要な人です」と言うためには、こういうコミュニケーションの取り方しかないのかな、と思っています。
僕がアーティストであるからこそできることも試しつつ、そのうえで、これまで和菓子を作ってきた人たちの伝統や文化もリスペクトしないといけない。当然「全部合理的に変えてしまえばいい」という話でもないので、傲慢にはなりすぎず、でも自分ができることは何かを探していく、という感じでやっていくつもりです。
ーーSeihoさんって、奇抜なことをたくさんしているのに、話を聞かせてもらっていると、いつも歴史を大事にしますよね。
Seiho:だって、歴史を知らないと普通に死ぬじゃないですか。知識ってすごく大事で、それがないと大きな失敗や怪我であっという間に人は死んでしまう(笑)。 新しいことをするときにも、命綱が必要だと思うんです。僕は音楽史の中でまだ触れられていない未知の領域に、一ミリでも何ミクロンでもいいから踏み出していきたい。でも、それをやろうとすると、死んでしまうことだってあると思うんです。めちゃくちゃお金をかけて勝負して、大量に借金を背負う、みたいなことになる可能性もある(笑)。だから、そうはならずに、でも新しい領域に踏み出すために、過去を生きた人たちがどんな挑戦をして、その結果どうなったかを学ぶ必要があると思うんです。それで死なないようにしよう、っていう。
ーーそういう人が、『CAMP』というタイトルのミニアルバムを作っているのは面白いですね。これはいわゆる、「キャンプ趣味」というように使われたりする言葉だと思うんですが、最後にタイトルの由来を教えてもらえると嬉しいです。
Seiho:これは、スーザン・ソンタグの『キャンプについてのノート』から来ている言葉で、いわゆる人工的なものへの美しさとか、違和感への興味や美しさを言い表したものなんです。でも同時に、さっき話した面識のある誰かとキャンプに行くような意味を表わすものでもあるし、ベースキャンプ(=拠点)的な意味も込めていて……。色んな要素がかみ合った結果、このタイトルになりました。でも結局のところ、一番表現したかったのは、「ひとりじゃ行けない場所に、どうやっていくか」ということだったんだと思います。そのとき、その人が元々持っている能力が活かせることもあれば、その人が自分と一緒に作業したことで生まれた新しい能力もあるはずです。それらすべてが、この作品の中に出ていたらいいな、と思ってます。自分自身も、本当は苦手だったのに、このメンバーでならこんなこともできるんだ、という発見がたくさんあった制作期間でした。
■リリース情報
Seiho
『CAMP (Amazon Original)』
5月12日(水)よりAmazon Musicにて独占配信
配信はこちら
01. iLL feat. 鎮座DOPENESS MV
02. SHAKE feat. ASOBOiSM, BTB特効, LUVRAW MV
03. STAY feat. ACO MV
04. SHANTI feat. cero MV
05. IF YOU feat. KID FRESINO MV