アイドルと恋愛、長きにわたって続く議論 誰もが幸せになれるラインはあるのか

 2月12日、アイドルグループ・Juice=Juiceのメンバーである高木紗友希の脱退が事務所から発表され、ハロー!プロジェクト(以下、ハロプロ)での活動も終了することになった。大きな要因となったのは、2月11日に報じられた交際相手との半同棲。高木と所属事務所の話し合いがあったのち、報道翌日に活動終了が告げられるというスピード決定だった。

Juice=Juice『ポップミュージック/好きって言ってよ』(通常盤A)
Juice=Juice『ポップミュージック/好きって言ってよ』(通常盤A)

 高木は「グループの一員として、自覚が足りない軽率な行動でした。沢山の方の気持ちを裏切ってしまいました」と公式でコメント。さらに「許してもらうことは出来ないと思います。私はどのような形で責任を取るべきか、そしてどのような形で恩返しをするべきかと考えた結果、このような形でご報告させていただきました」と、自分の判断で脱退・退所したことを述べた。

 アイドルに恋愛が発覚した際、公式発表のコメントでよく使われる「自覚に欠けていた」という一文。これはどういう意味なのだろうか。アイドルの立場でありながら恋愛をしたこと? 恋人の存在を隠し通せなかったこと? 自覚という言葉を見るたび、日本の女性アイドルが果たすべきは、歌やダンスだけではなく、恋愛について律することもそのひとつなのだと思い知る。

アイドルの恋愛否定派の気持ちは痛いほどよく分かる

 アイドルの恋愛はアリか、ナシか。長きにわたって答えがずっと見つからないまま、アイドル、ファンのあいだではなんとなく「恋愛禁止」が業界ルールとして見なされてきた。時には活動前の恋愛経験が流出して処分が下されることもあるが、素人時代にまで口を出して自覚を問うのはさすがに無理がある。でも、それくらいアイドルにとって恋愛は敏感な話なのだ。

 「否定派」の気持ちはよく分かる。特に理解できるのは、アイドルのことを本気で推すファンたちの感情面だ。Twitterなどでアイドルファンの投稿をたくさん目にするが、これは決して悪い意味ではなく、ヲタクはみんな本当に飽きもせず毎日推しのことばかりつぶやいている(繰り返すがこれは褒め言葉!)。

 土日のライブはデフォルトで、平日もできるだけ通う。決して安くないチケット料を支払い、毎回必ずチェキを購入し、ドリンクも飲めば、1度のライブでの出費はバカにならなくなる。グッズもできるだけ買い揃える。コロナ禍でグループの経営が苦しいと察すると、仕事の合間にオンライン特典会へ参加。ライブ遠征があれば、自分たちも数泊して応援に行く。食事時には推しメンのチェキを添える。現場を一層盛り上げるため、有志でLINEグループを作って作戦会議をすることも。

 多くのお金、時間、体力を費やす理由は、推しに長く活動を続けて欲しいからであり、グループにステップアップしてもらいたいからだ。ひたすらアイドルを想うヲタクたちの姿を見ていると、なんだか愛おしさを感じる。

 「推す」は、恋愛の「好き」とは異なるとは言え、ファンは心を込めてアイドルを本気で愛している。だからこそ、推しのアイドルに恋人がいると分かれば、一気に冷めたり、複雑な思いに駆られたりするのは人間として自然な感情だろう。「アイドルを推す」という気持ちは、あくまで表面上において「恋人はいない」という前提から生まれるものではないだろうか。

 アイドルとファンはリアルな恋愛に発展することがない(とされている)。とは言え、そうやってファンの好意を揺さぶることでお金や人気を生み、さまざまな仕事へつなげていく特性が絶対的にある以上、「恋人がいたらビジネスにならない」という運営や事務所の判断も納得できる。運営・事務所の目線で考えると、アイドルビジネスという上で恋愛は戦力外項目のひとつになる。

 アイドル自身にも恋愛に対する考え方に違いはある。実際に接した女性アイドルのなかには、「私は恋人持ちのアイドルを、アイドルとして認めたくない」と断固否定の姿勢の者もいた。理由は「応援してくれるファンに申し訳ない」というもの。やがて「自分はこんなに恋愛を我慢しているのに、どうしてあのコは…」と不信感に発展。筆者が目撃したその事例は最終的に、恋愛をOKと考えるメンバーと拒むメンバーの意見が食い違い、グループ自体が崩れてしまった。グループで活動する以上、恋愛を含めて意思を統一させることがいかに大事か考えさせられた。

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