『ミュージックステーション』がYouTube企画を始動 「Spotlight」は音楽番組の転機なるか

『Mステ』YouTube企画で転機なるか

 『Mステ』本体のシフトチェンジ、『関ジャム』への評価、そして『THE FIRST TAKE』の定着。こういった動きを踏まえると、「Spotlight」は非常に「筋の通った」企画であるということが見えてくる。

 番組のスタジオを使いながら本格的なカメラワークでライブを届ける「Spotlight」はまさに「テレビクオリティ」のコンテンツであり、「THE FIRST TAKE以降」とでも言うべき作り込まれた内容になっている。本放送がストリーミングサービスの動きに敏感になっている中で、自身もデジタルメディアにチャネルを持つというのも時代の大きな流れに沿った戦略になっていると言える。

 また、「サブスクシフト」とは言ったものの、2021年の『Mステ』においても「カバー曲特集」など過去の有名曲を起点とした特集で間を持たせる悪癖はいまだに残っている。そういったなかでも次代の才能をピックアップするためには、本放送から切り出す形でニューフェイスの紹介に特化した場を作る必要があった、という側面もこの「Spotlight」にはあると思われる。ただ、総論として、『Mステ』が自らのブランドをウェブにも拡張しつつ新しいアーティストをフックアップしようという気概を示しているのは、シーン全体に好影響を及ぼすはずである。

 一方で、コンセプトとしては理に適った取り組みになっている「Spotlight」だが、現状ではそこから大きなうねりが生まれているとは言い難い現状もある。まだ2アーティストしか登場していないタイミングでの評価は時期尚早ではあるものの、「バズ」「拡散」といった観点でいえば十分な成果を残すには至っていない。出演者でもっとパンチを効かせるのか、『THE FIRST TAKE』のようなわかりやすいテーマ性を持たせるのか、といった課題が早晩顕在化する可能性もある。『Mステ』としてYouTubeでのプレゼンスをどれだけ期待するか(=結局テレビに集中するのか)、といった大きな観点からの判断が求められるタイミングも訪れるだろう。

 マクロな潮流を捉えた取り組みとしての側面を持ちながら、その影響力はいまだ未知数な「Spotlight」。『Mステ』が、もしくは日本の音楽番組がデジタルと向き合うきっかけとなるのか、それとも一時の酔狂で終わってしまうのか、引き続きその動向に注目していきたい。

■レジー
1981年生まれ。一般企業に勤める傍ら、2012年7月に音楽ブログ「レジーのブログ」を開設。アーティスト/作品単体の批評にとどまらない「日本におけるポップミュージックの受容構造」を俯瞰した考察が音楽ファンのみならず音楽ライター・ミュージシャンの間で話題になり、2013年春から外部媒体への寄稿を開始。2017年12月に初の単著『夏フェス革命 -音楽が変わる、社会が変わる-』を上梓。Twitter(@regista13:https://twitter.com/regista13)

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