WANIMA、余分なもの全てそぎ落として手にした“逞しさ” 約10カ月ぶり有観客ライブ『Boil Down 2020』を振り返る

WANIMA『Boil Down 2020』を振り返る

 この日のライブ中盤、8曲目は鉄板曲のひとつ「Japanese Pride」だった。目の前が〈スカスカのフロア〉であっても〈このままじゃ終われない〉と誓った時代の歌で、再びライブハウスから奇跡を起こそうと、当時のKENTAは〈今は立派な君のパパも 一度は聴いてたんだHi-STANDARD〉と大先輩の名前を出している。

KENTA
KENTA

 そのバンド名は、この日のライブで〈WA・NI・MA!〉に変わっていた。突発的なアドリブではない。繰り返される2番も歌うは自分たちの名前であった。なるほど、止めたのだなと思う。ただやんちゃな若造でいること、誰かの背中を追いかける次世代ホープであることを。まずは、WANIMAの名前と楽曲は全国に知られた自負がある。そして、その音楽をまだまだ必要としてくれる人がいるのなら、今日も明日も明後日も死ぬ気で引っ張り続けていく。KENTA(Vo/Ba)の表情からは、はっきりと、そんな覚悟が見て取れた。

 コロナ禍により30公演中アリーナ16公演がストップ、2月29日のサンドーム福井での公演を中止して以来、およそ10カ月ぶりとなる有観客ライブだ。なお、この『Boil Down 2020』は一年を締めくくるスペシャルな忘年会になるよう立ち上げた新企画で、観客と共に新しいライブの楽しみ方を見つけながら、来年以降も毎年12月に開催していく予定だそうだ。

 8000人を収容できる東京ガーデンシアターでは、現状を鑑みたガイドラインに沿って前後左右の席が空けられ、ジャンプと拍手はOKだが声出しや席移動はNGだとする規制のアナウンスが響いていた。それでも暗転の瞬間は「おおぉ」と驚くような声が上がる。わかる。理性で止められないのだ。あの瞬間の興奮と、その数秒後に爆発する喜びが、画面越しにもリアルに伝わってくる。そう、『Boil Down 2020』はチケットを入手できないファンのためにリアルタイムで配信が行われていた。実際の客席と同じくらいチャットの世界も興奮の坩堝である。

KO-SHIN
KO-SHIN

 新たなSEとして初公開された新曲は「Boil down」。本日初公開されたライブのための新曲だ。ツアーやイベント用に新曲SEを用意するのはWANIMAにとって恒例で、たとえばメジャー1stフルアルバム『Everybody!!』の1曲目「JUICE UP!!のテーマ」も同じ位置づけにあった曲だ。ただ、それがハチャメチャな勢いの祭囃子だったのに比べ、今回の「Boil down」は地に足のついた戦いのテーマといった趣。一語一句がすっきりと聴こえ、サビではリズムが4ビートに切り替わる、壮大な広がりを持つロックナンバーだ。その幕開けが今のWANIMAらしい。

 SEに続いて始まったのが別れの歌「エル」であるのが象徴的だった。言葉巧みに笑わせ、満面の笑顔で楽しませ、どんな手を使ってでもアゲていく。いわゆる三枚目の手法が一切ない。目を閉じて歌に集中するKENTAは間違いなく二枚目のシンガーに見えた。かっこいい、という以上に、責任ある大人の顔なのだ。坊主に近い短髪になったKO-SHIN(Gt/Cho)も、後ろでどっしり構えるFUJI(Dr/Cho)も然り。3人はかねてから肉体を鍛えていたが、その努力が確実に実り始めている。演奏のタフさ、密度、隙のなさに驚かされた。少しチャラそうで、元気いっぱいで、でも憎めない熱いハートを持つ3人組一一まるで「少年ジャンプ」の主人公みたいなキャラ設定すら不要だと、3人は肉体と音だけで勝負をしているのだった。

FUJI
FUJI

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