WANIMA、余分なもの全てそぎ落として手にした“逞しさ” 約10カ月ぶり有観客ライブ『Boil Down 2020』を振り返る
むろん、それってWANIMAっぽくないという声もあるだろう。KENTAの笑顔に象徴される無敵の明るさ、ボケとツッコミの成立する3人のMCなど、親しみやすいキャラありきでWANIMAに惹かれた人は多いと思う。チャラさの奥に強烈な痛みや悲しみが見えている。そんなギャップがデビュー当時の3人を魅力的に見せていたのも事実である。一瞬にしてパンクシーンからポップフィールドへと飛躍していけたのも、超ポップで実はシリアスな二つの顔があったから。どちらかだけで破格のスターは務まらない。
ただし、勢いのある新人の季節はすでに終わったようだ。肉体と音を鍛え抜くことで終わらせた。ポップ&シリアスなままでもWANIMAは十分続いたはずだが、それよりは、ぐっと詰めていく時期だとの判断があったようだ。恒例のリクエストタイムでは消毒液と飛沫防止シールドを持って客席に降りていったり、実際のリクエスト曲「1CHANCE」も最初は全然思い出せなかったりと、愛嬌のあるシーンはたくさんあった。それでも無駄な遊びが何もなかった。トークにも演奏にも表情にも。しいて言うならイントロや曲間でKENTAが何度も〈Boil Down~Boil Down~〉とイベント名を歌にしていたくらいだろうか。Boil Downとはすなわち、煮詰めていく、の意味だ。
必要なものだけでいい。その絞り込みがビシッと音に反映されていた。固定の笑顔を貼り付けていない3人の表情は、目の前にいてくれる全員を引っ張っていく気概に満ちている。パンク出身だからミスも味だとか、そういう言い訳を許さないタイトなアンサンブル。ぴたりと揃う鉄壁のハーモニー。とにかく逞しいし、ひたすら頼もしい。日々対面のライブツアーを繰り返していてはこのタフネスは手に入らなかった。良かったとは決して思わないが、コロナ禍がWANIMAをさらに変え、さらに強くしているのは事実なのだろう。
アンコールは最新作『Cheddar Flavor』から「春を待って」。北日本が雪に埋まった寒波の日だったので、この一曲はことさら染みた。春は明るさや暖かさの象徴で、もっといえば会いたい人にすぐ会えるコロナ収束後の世界を指している。いつかの来年、必ず来る未来に向けて、確実に一語一句を届けようとするKENTAの表情がたまらなかった。
最後に発表されたのは、『Cheddar Flavor』のツアーが来年4月から始まるというニュースだ。まだ出口の見えない日々、状況がどうなるかは五里霧中だが、こんなに強くなったWANIMAに会えるならいくらでも春を待てる気がした。今までのイメージを突き破る、どこにも隙のないロックバンドとしてのWANIMA。驚くほど新しかった。あとは生で確かめられる日を待とう。
■石井恵梨子
1977年石川県生まれ。投稿をきっかけに、97年より音楽雑誌に執筆活動を開始。パンク/ラウドロックを好む傍ら、ヒットチャート観察も趣味。現在「音楽と人」「SPA!」などに寄稿。