米津玄師「カナリヤ」、菅田将暉「虹」、Mr.Children「Documentary Film」……楽曲を多角的に昇華した短編映画風MV

 今や音楽を届ける手段として欠かせないミュージックビデオ。ここ最近、作り込まれた短編映画のような作品が立て続けに公開された。本稿では演奏や歌唱シーンだけでなく、俳優の演技や物語で展開していく3作品を紹介したい。

STRAY SHEEP
『STRAY SHEEP』

 今年大ヒットを記録した米津玄師の5thアルバム『STRAY SHEEP』。そのラストを飾る「カナリヤ」のMVがリリースから約3カ月後に公開された。監督を務めたのは『誰も知らない』や『万引き家族』などで国際的にも知られる是枝裕和だ。蒔田彩珠、田中泯ら6名のキャストが演じる三世代の男女の姿と米津玄師の歌唱シーンが交差する構成だ。

米津玄師 MV「カナリヤ」

 2020年、コロナ禍を連想させるビニールカーテンよって隔たれた繋がりと、平穏な在りし日の密な繋がり。そして在りし日における見えない隔たり。様々な人々の関係性を捉えたシーンの数々はバラバラに描かれているようで、時間や空間を超えた強い結びつきを感じる。家族と名の付いた結びつきを見つめ、時に疑いながら様々な角度から描いてきた是枝裕和ならではの解釈で楽曲のイメージを拡張させている。

 「カナリヤ」が過酷な時代に対峙した中で〈あなたとならいいよ〉と思える人に出会う喜びを刻んだ1曲である一方、映像では苦しい別れやぶつかり合いも描く。そうすることで楽曲と映像双方のイメージが膨らみ、MVとして理想的な仕上がりとなった。

米津玄師 × 是枝裕和 / カナリヤ対談

 米津玄師は是枝裕和との対談の中で、このMVを観て「曲を肯定してもらえたような感じ」と語った。一方是枝も「この曲の肯定感のおかげで僕自身も前に身を乗り出せた」と語っており、それぞれの創作に特別な相互作用をもたらしたことがわかる。まさに人との繋がりが希薄になりかけそうな時期に生まれた新しい繋がりと言えるだろう。2人の邂逅は作品自体のメッセージにも強く反映されているのだ。

 菅田将暉の「虹」は『STAND BY ME ドラえもん2』の主題歌として石崎ひゅーいが書き下ろした1曲。MVは『そこのみにて光輝く』や『きみはいい子』で知られる呉美保監督が担当した。シリアスな作風でも知られる監督だが、このMVは温かい質感が溢れる。

 『STAND BY ME ドラえもん2』が、のび太としずかの結婚式を描いた作品ということもあり、愛する人と長く共に歩んでいきたいと誓う楽曲だ。MVは菅田将暉と女優の古川琴音が演じる夫婦と、生まれたばかりの子供の姿が柔らかなタッチで描かれている。それぞれの目線がそのまま映し出され、ホームビデオの中に入り込んだような気分になってしまう。優しく語りかけるような言葉たちがシーンと呼応し、楽曲のドラマを豊かなものにしている。

 演技が中心の作品だが、サビで菅田と古川が踊りながら戯れ合う姿を映し出すことで、音楽のための映像としての躍動感も刻まれている。また、菅田自ら楽曲の世界を広げるような物語を演じることで、楽曲と映像の双方に確かな記名性が宿った。若手屈指の名俳優でもある菅田だからこそ作り得たプロダクトと言えるだろう。

菅田将暉 『虹』

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