米津玄師「カナリヤ」、菅田将暉「虹」、Mr.Children「Documentary Film」……楽曲を多角的に昇華した短編映画風MV
Mr.Childrenが12月2日にリリースした20枚目のアルバム『SOUNDTRACKS』に収録される「Documentary Film」のMVはバンドが一切映らない作品。King Gnuの常田大希が率いるクリエイティブ集団・PERIMETRONのOSRIN監督によるものだ。
冒頭にモノローグで語られる通り、この作品は「すべての出来事を忘れられずに記憶に溺れそうになる少女」と「記憶が1日しか持たず、ノートに思い出を書き残し続ける少年」が出会うという筋書き。忘れたい、と、忘れたくない。相反する思いが交差して響き合い、互いを慈しむ眼差しが2人に生まれる。優しく切ない寓話をアニメ、フィギュア、そして実写を織り交ぜながら幻想的に、それでいて瑞々しく進行していく。
人生をドキュメンタリー映画に喩えて苦味や甘味と共に生きる日々のかけがえなさを綴った歌詞に、記憶や思い出をモチーフとしたこの映像は格別にマッチする。壮大に展開するメロディをバックに描かれるクライマックスは、人生のハイライトで掛かる至上のBGMのようにこの曲を印象付ける。
ライブ活動が全般的に制限されている今、演奏や歌唱にとらわれずに様々な見せ方で楽曲を演出する発想が生まれるのは自然なことのように思う。短編映画のようなMVが多く発表されている背景にはそんな発想の転換があるのではないだろうか。
ストーリー性のあるMVは歌詞に忠実な内容であればあるほど、楽曲の解釈の幅を狭める可能性もあるかもしれない。しかし今回紹介した3作は、想像の余地を残し、異なるアプローチでメッセージを提示するような、楽曲を多角的に昇華した作品ばかり。何度でも見返し、様々にイメージを膨らませたくなるのだ。
■月の人
福岡在住の医療関係者。1994年の早生まれ。ポップカルチャーの摂取とその感想の熱弁が生き甲斐。noteを中心にライブレポートや作品レビューを書き連ねている。
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