[Alexandros] 川上洋平、Creepy Nuts R-指定、RADWIMPS 野田洋次郎……アーティストの“俳優需要”高まる背景とは
アーティストと俳優。その垣根がなくなって随分と経つが、ここ最近は以前にも増して裾野も広がってきたように感じる。たとえば連続テレビ小説『エール』(NHK総合)では、RADWIMPSの野田洋次郎と森山直太朗が参加。野田は、主人公・古山裕一とコロンブスレコードの同期となる作曲家・木枯正人役を、森山は古山が音楽の道に進むきっかけを与えた恩師、藤堂清晴役に扮し、それぞれに物語のキーマンを好演したのは記憶に新しい。また、前クールで話題をさらったドラマ『MIU404』は、星野源が綾野剛と共に主演を務めたが、ゲスト枠では岡崎体育やKing Gnuの井口理も登場し、ファンを沸かせた。ほかにも怒髪天の増子直純が大河ドラマ『いだてん〜東京オリムピック噺〜』に出演したり、黒猫チェルシーの渡辺大知や銀杏BOYZの峯田和伸、電気グルーヴのピエール瀧らにいたってはすでに俳優として一定以上の評価を得て、映画やドラマのオファーが絶えない人々だ。アーティストから俳優への動きが活発化した背景にあるものとはなんだろうか。
そもそも映画、ドラマ、舞台など広くエンタメ業界は、アーティストに限らず異業種からの俳優起用にはかねてより寛容な面がある。モデルやアイドルから俳優に転身するケースはもちろんのこと、お笑い芸人や落語家でありながら俳優業もこなす人材は多い。同じ俳優でも歌舞伎など伝統芸能やアニメの声優といった異ジャンルのパフォーマーがテレビや映画に抜擢されることも増えてきているし、イラストレーターや文筆家などさまざまな肩書きを持つリリー・フランキーや元アナウンサーの古舘伊知郎のように、パフォーマンスを生業にする職種ではなかった人が俳優としてキラリと光る一面を見せてくれたりもする。逆に俳優でありながらアーティストとしても優れた才能を感じさせる菅田将暉や高橋一生もいるように、“表現すること”の意味においては「俳優」「アーティスト/ミュージシャン」の線引きは重要ではなく、それぞれの領域をフラットに行き来できる選択肢があることはむしろ望ましいと言える。
とはいえ、アーティストの誰もが演技に対して積極的なわけではないし、いい演技ができるかと言えばそうでもないだろう。その上でなぜ彼らが俳優の道へ誘われていくかと言えば、キャスティングの目利きによるところが大きい。実際、本職の俳優ばかりの中に異質な存在が加わるのは見る側にとっても新鮮に映るし、そのアーティストのファンなら普段と違う顔を見たいと願うはずだ。アーティストならではの独特な存在感が作品の良いエッセンスになるのを期待する向きもあるかもしれない。が、最も重要なのは、作品への注目度が増すトピックが増えること。これまで演技のイメージのないアーティストが俳優として出演してくれたらそれだけで話題性は確実だ。今回『エール』で森山直太朗を抜擢したチーフ演出・脚本の吉田照幸氏は、「藤堂先生が音楽の先生だったので、ミュージシャンの方にやっていただけるといいなって」と起用の理由を明かしているが、途中からはミュージシャンであることを忘れてしまうほど、その演技に魅了されたとコメント。一方の森山も、44歳にして新しい景色に触れる経験ができたとしながら、「俳優業と言えるほどのものはないですが、これからも表現者として成長していければと思います」と手応えを語っている。初めは思いつきであれ、大胆な起用が知られざる才能を開花させるきっかけになるとしたら、目利きがいかに責任重大かがわかるだろう。俳優として活躍するアーティストが増える裏側には、制作陣の大きな期待があることも忘れてはならない。