武田真治が明かす、自らのモチベーションを支えたサックスの存在「音楽は基準が自分の中にある」

武田真治、モチベーション支えたサックス

 ドラマ、バラエティ、そしてここ数年は『筋肉体操』で注目を集めている武田真治。タレントして幅広く活躍する一方、90年代半ばから現在に至るまで、サックス奏者としての活動も継続してきた。そんな武田真治がじつに24年ぶりとなるソロアルバム『BREATH OF LIFE』をリリース。「サックスは自分の切り札」と語る彼に、サックス奏者としての矜恃やデビュー30周年を迎えるにあたり、様々な活動を続ける上でのモチベーションの保ち方などについて話を聞いた。(森朋之)【インタビュー最後にプレゼント情報あり】

サックスは自分にとっての“切り札”

ーー24年ぶりのソロアルバム『BREATH OF LIFE』がリリースされました。本当に久々のソロアルバムですが、武田さんの手ごたえはどうですか?

武田:いやあ……かっこいい曲がいっぱい出来ちゃったな(笑)。「インストのアルバムは聴くのが難しそうだな」という方もいるかもしれないけど、そのイメージを払拭したいんですよね。プレイヤーだけが楽しいアルバムにならないように、なるべくキャッチーに仕上げたので。アドリブパートを見せ場にするような楽曲はあまり作らず、キャッチーなメロディーとノリやすいリズムのある曲が中心ですからね。

ーーなるほど。そもそも、アルバム制作のきっかけは何だったんですか?

武田:やっぱり『筋肉体操』(武田が出演するNHKの人気番組『みんなで筋肉体操』)が大きかったと思いますね。テレビで取り上げてもらったり注目してもらったことは、メジャーレーベルからソロアルバムを出すうえでは大切な要素だったのかなと。

ーーサックス奏者としてステージに上がり続けたことも、大きな要因では?

武田:そう言ってもらえると嬉しいですね。確かにずっと活動はしていたので、こういうチャンスが来たときに上手く波に乗れたのかもしれないです。

ーーやはり武田さんにとって、音楽活動は欠かせない軸だったんでしょうね。

武田:そうですね。20代後半に顎関節症を患って、サックスが吹けなくなったことがあって。自分の切り札がないと、不思議なことに役者業も思うようにやれなくなったんですよ。

ーーサックスは切り札だった、と。

武田:おそらく。そういう切り札があるからこそ、慣れない場所でも微笑んでいられるし、余裕を持った佇まいでいられると思うんですよね。僕の場合はサックスだったんですけど、それを失ったら、俳優業もうまくいかなくなってしまった。でも、すべてが崩れた時期があったからこそ、いままでやり続けられたのかもしれないです。まさに「BREATH OF LIFE」ですよね。息をするようにサックスを吹くことが、人生にとってすごく大切なことなので。

ーー忌野清志郎さんのバンド、ラフィータフィーに2000年から参加したこともターニングポイントですよね。

武田:そうですね。23年前と24年前にソロアルバムを出したときは、自分がセンターに立ってホールツアーを回らせてもらったんですけど、今振り返ってみると、必要な覚悟や行動、果たすべき責任もわからずはじめてしまったところがあって。たとえば役者の仕事も、最初は端役から始まって、3番手、2番手になって、そのたびに大変さを実感すると思うんですけど、そういう経験をしないまま、いきなりセンターに立ってしまった。サックス奏者としても未熟でしたし、機が熟してなかったんだと思います。その後、顎の調子が悪くなって……。今一度、音楽活動を始めるときに、清志郎さんのバンドに誘っていただいたのはすごく大きかったですね。本物の努力、本物の準備、本物の覚悟をそばで見られたのは、貴重な経験でした。清志郎さんの背中を見ながら演奏することで、サックス奏者として違う面を育ててもらったというか。楽器を演奏するうえで、必要なことだったと思います。

ーー清志郎さんのバンドに参加したことは、その後の音楽活動にどんな影響があったんですか?

武田:はい、もちろんあります。嬉しいなと思うのは、僕なりにセンターに立つためにやるべきことがわかっていて、それが苦じゃないということかな。たとえばドラマの撮影が重なっていても、心穏やかに準備を進められるし、そういうふうに成長できたのはありがたいなと。

ーーなるほど。その後も様々なスタイルで演奏活動を継続。音楽性の広がりは、今回のアルバムにも反映されていると思います。

武田:そうかもしれないですね。アコースティックでやったり、DJと二人でEDM的なことをやったり。そういう音楽的な幅……いや、皺といったほうがいいかもしれないけど、レコーディングでそれをエンターテインメントに昇華させることができたというか。やっぱり楽しくてポジティブなほうがいいでしょ?

ーーそうですね。特に今年はポジティブな音楽が聴きたい人が多いでしょうし。

武田:僕もそうですね。もともと好きじゃないんですよ、暗い歌が(笑)。暗い話って、生きていればどうしても入ってくるじゃないですか。そんなときに暗い音楽は要らないなって。

ーーサックスのプレイも派手ですよね。

武田:それも清志郎さんの影響かもしれないです。清志郎さんの曲はキーが高くて、カラオケで歌おうとしても全然歌えなかったりしません? ちょっと超人的というか、普通は歌えないんですよ、清志郎さんの曲は。僕のサックスもそうでありたいなと。ギリギリの高さの音、ちょっとアウトしてるくらいの音程を使って曲を作りたくて。フラジオって言うんですけど、運指表には存在しない、もっと高い音階があって。ほとんどの曲でそれを使ってるんですよね。フラジオが使えないと吹けない曲ばかりだし、自分としてはそれがカッコいいと思っているので。

ーーそれが武田さんのスタイルなのかも。音楽活動になかなかスポットが当たらない時期もあったと思いますが、それでも自分のスタイルを貫き、サックスを続けてこられたのはどうしてだと思いますか?

武田:俳優業やバラエティは、観てる人に認知してもらえないとなかなか手ごたえを感じられないですよね。でも、楽器はそうじゃなくて、自分がどれだけやれるか、もしくはやれないかわかっているから、腐らずにやってこれたんでしょうね。ちょっと偉そうなことを言うと、深夜、どこかの街角のクラブで演奏しているときも「君たちはラッキーだ。今、君たちは世界に通用するプレイを聴けてるんだぜ」と心で思えるかどうかって大きいと思うんですよ。音楽の場合は基準が外じゃなくて、自分の中にあるんでしょうね。

ーーなるほど。

武田:さっきは少し謙遜気味に言いましたけど、たぶん、このアルバムに収録されている曲を全部プレイできるサックス奏者はそんなにいないはずなんです。顎の調子を崩して、それでも吹きたい、それでも出したい音があると思って、ずっと続けてきて。僕にとってネガティブな経験も踏まえて出せるようになった音だと思うし、今はそれが自分の支えになってるんですよ。「サックスにおいては、なかなかユニークな表現者なんだ」と思えることは、お芝居やバラエティの現場に乗り込んでいく時のモチベーションにつながっています。

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