『Acoustic for you.』インタビュー
南條愛乃が語る、今だからこそ歌を介して伝えたいメッセージ「“みんなに”というよりは“あなたに”届けたい」
歌いながら「考えている音」にならないことと葛藤
ーーでは、ボーカルのレコーディングではどのようなアプローチを考えていましたか?
南條:ツアーと同じ感覚で歌うつもりでいたんですけど、最初につまづいたのが「スキップトラベル」だったんです。あの曲は去年、皆勤賞っていうくらい一番歌っている曲で、ツアーでもファンクラブイベントでもずっと歌っていたので「楽勝だぜ」ぐらいの気持ちでレコーディングに臨んだんですけど、どう頑張ってもいつものように歌えなくて。
ーーどうしてだったんでしょうね?
南條:ライブやツアーで歌うときは明るく軽快に、「旅に出たら楽しいよね」っていう気持ちのほうが前面に出ている歌い方だったんです。でも、今回はどう明るく歌おうとしてもしっくりこない。むしろどんどん焦るし、悲しい気持ちになってしまったんです(苦笑)。でも、その悲しい気持ちや切なさのまま歌ってみたらどうかなと思って試しにやってみたら、すごくしっくりきて。もともと「スキップトラベル」は「ひとり身軽に旅に出られたらいいな」って憧れていたり、「日常生活は一旦置いておいて、財布だけで旅に出てしまいたい」という願望を持っている人の曲なので、むしろ曲の主人公の気持ちにより近くなっていたというか。「今の『スキップトラベル』ってこういうテンションなんだ」って、すごく不思議な気持ちでした。
ーー初回盤には昨年のバースデーライブで披露した「スキップトラベル」の映像も収録されているので、ちょっとしたニュアンスの違いも含めて楽しめるのは、ある意味面白いですよね。
南條:そうですね。私もこんなふうに完成していくとは想像もしていなかったので、お客さんにどんなふうに聴いてもらえるか、感想が楽しみですね。
ーーアコースティック編成なので、普段のオリジナルアルバムと比べて鳴っている音数も限られますし、そのぶん歌にフォーカスが当たると思います。そこに対して、南條さんはどう向き合いましたか?
南條:自分の理想の歌声とか歌い方というものに、今の自分では全然届いていなくて。歌いながら「考えている音」にならないことと葛藤して、自分の中で戦いながらレコーディングしていました。毎回アルバムでご一緒しているディレクターさんは「いい! 素敵だよ!」と言ってくれるんですけど、自分では「いやあ、これじゃないんだよなあ……」と思ってしまって。でも、「ディレクターさんを信じます!」と(笑)。だけど、レコーディングが進んで曲数がどんどん増えていくたびに、やっぱり「今日はどんなレコーディングになってしまうのか?」と不安でした。バンドさんもこのアルバムを一緒に作れることを喜んでくれていたので、ライブとはまた違うやる気が伝わってきて、それをヘッドフォンで聴きながら歌にしてみると、うまく噛み合わないみたいなこともあって。そことどう折り合いをつけていくか、やってみないとわからないことが多くて、いつも歌っている曲とはいえ神経も頭も使った収録でした。
ーー歌い慣れている曲だからこそ、余計に強く感じたんでしょうかね。
南條:ああ、確かにそうですね。「いつもと違う」みたいな。
渦中というよりは過去の経験を歌うみたいな目線に変わって
ーー「理想の歌い方」という話が出ましたが、ここ1年くらいの南條さんが歌う作品を聴かせていただくと、南條さんの歌い方や発声が少しずつ変化してきているなと感じていて。
南條:まさに、去年のツアー終わりぐらいから歌い方を変えていて。より負担の少ない歌い方、声の出し方みたいなものをまだ模索している途中なので、まだ自分のものになっていないし理想には届いていないんですけど、ちょっとずつ自分の中で変化をつけている最中です。20代の頃はがむしゃらに歌うことが多くて、その歌い方をずっと続けてもいいんですけど、やっぱり歌を長く続けるなら喉も大事にしたいですし。20代って本当に若いし、そこにがむしゃらさも合わさってグッとくるものがあると思うんですけど、それだけじゃない歌い方というのも身に付けておきたいので、自分の中でレコーディングは毎回、今までと違った方向性でチャレンジしているところです。
ーーそのせいもあってか、馴染みのある曲だけどアレンジも新しいし、歌い方もオリジナルバージョンから変わってきているのもあって、完全に新曲という感覚で楽しめました。
南條:ありがとうございます。曲に対しても、例えば「believe in myself」のオリジナルバージョンのときは、自分の実体験から歌詞を書いているアルバム(※2015年7月発売の1stフルアルバム『東京 1/3650』)でもあったので、曲の主人公になっているみたいな歌い方だったんですけど、あれから月日も経って自分の年齢も上がって「believe in myself」を改めてレコーディングしてみたら、渦中というよりは過去の経験を歌うみたいな目線に変わって。それはそれですごくいい向き合い方だと思うし、聴いてくれるファンの人たちにも面白いのかなと思います。
ーー確かに表現する側としては、そこは大きな違いですよね。
南條:「いつでもあの曲を歌えば、あの曲の主人公に戻れる」という気持ちだったんですけど、アコースティックというアレンジも相乗効果なのか、こんなに立ち位置が変わるのと自分自身面白かったです。
ーーその一方で、「サヨナラの惑星」や「and I」など、ここ1年くらいの楽曲をリアレンジして収録するのは、初期の楽曲を歌い直すのとは違った感覚ではないでしょうか?
南條:まさにそうですね。「and I」のオリジナルバージョンはちょうど歌い方を変え始めた時期に録ったので、今回はより「こういうふうに歌いたかったんだよな」っていうことができたなと。また、「サヨナラの惑星」はピアノの(佐々木)聡作さんが気合いを入れてくれて、ライブのときよりさらに手数が増えていたんです。でも、ライブのときは私も歌でグイグイ引っ張っていく「サヨナラの惑星」って感じなんですけど、レコーディングでそれをやったらどうしてもピアノと歌が喧嘩してしまって。聡作さんがそうやって弾いてくれたんだったら、逆に私が一歩二歩引いてみたらどうかという歌い方をしてみたら見事にハマッたので、直近のリリース曲ですけどライブのときとは違う「サヨナラの惑星」がまた新たにできたなと感じています。