羊文学、ホーム・下北沢BASEMENTBARから届けたライブハウスへの愛 躍動するバンドの姿を捉えたオンラインツアー最終日レポ

羊文学、ホーム・下北沢BASEMENTBARから届けたライブハウスへの愛 躍動するバンドの姿を捉えたオンラインツアー最終日レポ

 6曲が終わったタイミングで初のMCが挟まれる。「最終日、3日目、始まりました」と塩塚モエカ(Vo / Gt)。「下北沢BASEMENTBARでやっております」と河西ゆりか(Ba)が続ける。ここは羊文学にとってホームであり、過去に企画もたくさんやってきたと、塩塚はいつになく饒舌な様子。もともと彼女たちのMCはゆるいおしゃべりで終わることが多いのだけど、普段口を開かないフクダヒロア(Dr)まで「僕がバンドを初めて見に来たのがBASEMENTBARだった」と話に加わってきたのには驚いた。「今日、久しぶりに立って“ここだわ”と思った」という塩塚の一言に、強烈なものを感じた。愛である。ライブハウスという場所への愛。観客はもちろんいない。ただ、画面に映る3人はとても幸せそうに見えた。

フクダヒロア(Dr)

 3週連続で行われた羊文学のオンラインツアー『優しさについて』。これまでリリースしてきた作品を曲順どおり時系列で演奏する成長のドキュメントであること。またホームBASEMENTBAR/THREEにゆかりのある人々が在籍するライブハウス(初日は調布Cross、2日目は下北沢LIVE HAUS)を巡り、仲間たちへの感謝と応援の意を伝える内容であること。さらには毎回そのハコにゆかりのある監督を迎え、カラーの異なる映像作品を届けること。語るべきポイントは多々あるが、最終日の映像を担当するのはこの数カ月を配信で乗り切ってきたBASEMENTBARスタッフチームだ。現場をこよなく愛する彼らが映し出すのは、ステージに立つバンドそのもの。塩塚のアップが印象的だった初日と比べて、躍動するバンドをダイナミックに切り取るシーンのなんと多かったことか。

 まばゆいライトに照らされたステージ。金髪ショートボブの塩塚は前髪をセンターで分けピンで固定している。額がすっきり見えるだけで子供の匂いが消えるのだから、人の印象は面白いものだ。そして、今回プレイされるEP『きらめき』『ざわめき』の曲たちは、10代のトンネルを抜け、晴れて大人になったばかりのフレッシュな匂いがよく似合う。なんといっても1曲目のタイトルは「あたらしいわたし」。初日のそれが「雨」で、仄暗いブルーのライトから始まったことを思えば、ほんの数年でよくここまで変われたものだと感心する。19歳、20歳、21歳、22歳……。そんな年齢がかくも多感であったことを、彼女たちは楽曲でまっすぐに語り続けてきたわけだ。

塩塚モエカ(Vo / Gt)

 明るいトーンが続く。2曲目「ロマンス」は古典的なロックンロール調で、コードやリズムもごくシンプル。その他大勢とは違う自分を探すのではなく、ただ音楽で楽しくなろう、踊ろうよ、と笑っているようでもある。3人がアイコンタクトを交わし、塩塚と河西が至近距離で向き合って体を揺らすなど、3週間のツアー中でも最もフィジカルなシーンがあった。

 もっとも、ただ迷える10代が終わりました、というほど話は単純ではない。どこまでも淡い水彩画のような「ソーダ水」には〈傷つかないようにさ 笑ってみせるから〉という歌詞があるが、一途に傷つき全力でネガティブに逃げ込めた10代を越えて、なんとか自力で立っていなくちゃ、自分でバランスを取らなくちゃいけない。そんなふうにグラグラしている危うさは残っているのだ。この曲の中盤にはチキチキと刻まれるハイハットの上にまったりと轟音ギターソロが被さってくるが、この珍しい組み合わせにこそ、羊文学が描きたいものが象徴されている気がした。それぞれはシンプルなのに組み合わさると妙にイビツな何か。静けさ/激しさだとか、明るい/暗いでは分類できない違和感。そういうものを丁寧に掬い取って音にしているのが今の彼女たちだ。

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