羊文学、ホーム・下北沢BASEMENTBARから届けたライブハウスへの愛 躍動するバンドの姿を捉えたオンラインツアー最終日レポ

羊文学、オンラインツアー最終日レポ

 MCを挟んで始まった後半の「サイレン」は、最新EP『ざわめき』収録曲とはいえ、かなり以前からやっている曲であるらしい。泣き出しそうな雲がぐんぐん迫ってくるような中盤の展開、どこか捨て鉢な印象を残す終わり方は、なるほど今の羊文学とは若干トーンが違う。続く「夕凪」や「祈り」がシンプルな歌ものなので、余計にコントラストは明確になる。平たくいえば近年の曲はすっきりとポップになっているし、ごちゃごちゃした痛みや悲哀や絡め取られる自己憐憫もない。ただ、リバーブがたっぷりかかった轟音ギターや、よく聴けばギクリとすることを言い当てている歌詞に、棘というか、オルタナティブと呼ぶべき血がほんのり残っている。ファルセットは儚い天使のようなのに、地声の芯の部分に我の強さを感じさせる塩塚のボーカルも然り。古びた表現を使うなら、綺麗な花には棘がある、の状態である。

河西ゆりか(Ba)

 そしてそれが狙って作られたものではない、10代から手探りで始まり自然に辿り着いたポジションであると伝わってくるのが、とても好ましかった。初日のレポートでも書いたが、彼女たちがロックサウンドに乗せているのは非日常の興奮ではなく、ごく普通の日々の思考、ほとんど日記のような回想や願い事である。作為がないし幻想がない。女性を売りにする媚もなく、あえて隠そうとする防衛心もない。ただ10代をこう生き、20歳になってこう変わり、23歳の今がこうです、というだけ。ストレートな表現なのにサウンドは少し歪んでいる。そんなところが今は最も魅力的なのだろう。もちろん、今後どう変わっていくかがわからない、まだ安定しきっていないところも、大きな魅力になっている。

羊文学「砂漠のきみへ」Official Music Video

 『ざわめき』の全曲が終わって終了かと思いきや、最後に登場したのは新曲「砂漠のきみへ」。以前にワンマンで披露した新曲「Girls」と共に、8月19日に配信されるシングルである。淡々としているようで確かなぬくもりを感じさせるポップナンバー。ふわふわと心地がいいけれど、アウトロで一気にギターがうなりを上げるところも、今の羊文学らしいバランス感覚だ。この曲を携えて、F.C.L.S.(ソニー・ミュージックレーベルズ)よりメジャーデビューすることが発表された現在。オンラインツアーのその先には、想像よりも明るい光が待っていたようだ。

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■石井恵梨子
1977年石川県生まれ。投稿をきっかけに、97年より音楽雑誌に執筆活動を開始。パンク/ラウドロックを好む傍ら、ヒットチャート観察も趣味。現在「音楽と人」「SPA!」などに寄稿。

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