鹿野淳に聞く、『ビバラ!オンライン2020』開催の決断まで コロナ禍におけるオンラインライブの意義と課題も

鹿野淳『ビバラ!オンライン』開催決断まで

 新型コロナウイルス感染拡大を受け、多くの大規模イベントが中止や延期を迫られる中、毎年ゴールデンウィークにさいたまスーパーアリーナで開催されている『VIVA LA ROCK』は、最終的にオンラインフェス『ビバラ!オンライン2020』として行なう決断をした。リアルサウンドではその発表を受け、プロデューサー・鹿野淳を直撃。延期から開催断念、オンライン開催までの裏側、現状とどう向き合っているのかについて赤裸々に語ってもらった。(編集部)

(オンラインフェスは)今のエンターテインメントとしてあるべき挑戦

ーー改めて『VIVA LA ROCK』(以下、ビバラ)のオンライン版である『ビバラ!オンライン2020』開催までを振り返ると、まず4月にゴールデンウィークに埼玉での開催断念の発表がありました。

鹿野淳(以下、鹿野):春フェスの中では相対的に見ると、断念の決断と発表が遅かったですよね。これは1日も早く予定を立てたい参加者、音楽ファンに対しては申し訳なかったと思っています。ゴールデンウィークに開催できないことはもう少し早くわかっていたのですが、できないまま終わるのか、それとも夏までの期間での延期に踏み切るのかどうかをギリギリまで考えていました。東京五輪の延期が決まって、7月23日からの4連休とその翌週あたりに『ビバラ』を延期できるタイミングが生まれたんですよ。五輪がある前提の時は関東近郊でその時期に何万人規模の音楽イベントをやろうとすると、移動の混乱が生まれるので開催できない/しない方がいいということなどを含め、フェスがなかった時期なんです。なのでその時期だったら夏フェスや他のフェス、フェスユーザーにも迷惑をかけないかなと思い、開催時期をずらすことに決めました。正直、延期に傾いた3月中旬〜4月初旬の時点では夏にまでフェスができないとは思っていませんでした。これもまた今になって思うと甘かったのかもしれません。

ーー『ビバラ』の他のスタッフからは、夏の開催に対して反対意見などはありましたか。

鹿野:もちろんありましたよ。すでに春の断念の時点で経済的にも大打撃を喰らいましたし、後ろ向きに考えれば夏開催自体、本当に大丈夫なのか? という意見もありました。現実的に2倍のリスクを背負い込むことになるわけですから。コロナなどのウイルス、テロ行為、原発関係による中止は、大きな興行が加入する中止保険で免責事項の中に入っていて保険が下りない。だからそれがまず開催できない時の脅威でもあったのですが、それを2回背負うわけです。ただでさえ負債を負うのに、もう1回、しかもできるかも分からないのに、その負債を負うかもしれないリスクに賭けるのはいかがなものか、という話も当たり前に出ました。

ーーそんな中で、延期はどのように決断されたのでしょう?

鹿野:まず申し上げておくと、延期するということをヒロイックに考えたわけじゃないし、そんなことは微塵も思っていないんです。とても現実的な意味合いが延期に向けさせたと言っても差し支えないと思います。そこには色々な理由がありますが、まず1年間開催しない、延期しないで断念することによって、金銭的なリスク以上に失う対価があるんじゃないかと思ったんです。具体的に言えば、今年の『ビバラ』を完全に中止にすることによって、今年のブッキングのまま来年開催するという案が一つ生まれるわけです。例えば『ARABAKI ROCK FEST. 』は、来年4日間開催に踏み切ることで、今年は中止することを発表した。今年のブッキングで2日間、来年のブッキングで2日間的な部分もあるかと思います。『京都大作戦』でも過去にそのようなことがありました。おそらく、このやり方が中止に対しての一番正しいやり方なんですよ。というか、「今年は残念だったな。来年に一緒に借りを返そうぜ」と出演アーティストに言ってもらうことができれば、それはフェスとして最高のサポートなのは言うまでもないです。しかし、『ビバラ』がその論法でいくと、通常で4日間開催のフェスなので、単純計算として来年は8日間フェスをやることになるわけです。さすがにそれはないですよね(笑)。多くの皆様の呆れた顔しか浮かびませんから。そういう何個かの要因があり、今年は今年でやり切ることができるんだったら、『VIVA LA ROCK 2020』として何らかの形でやる。それによって来年の新しい『ビバラ』の道も開けるという気持ちがありました。往生際の悪さはこのフェスの自慢できる部分なので、何が何でもやることにこだわって頑張る方が我々らしいと思いましたし、スタッフともそういう話し合いをしてきました。

ーー5月には『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』はじめ、『FUJI ROCK FESTIVAL』など夏フェスが次々に中止になっていきました。その時点では夏開催について、どう考えていましたか。

鹿野:これだけフェスやライブが軒並み中止になると、みんな同じムード、同じレールに乗って中止という選択をしている、共倒れしていっていると思われるかもしれませんが、現実的には違うんですよ、きっと。もっとそれぞれのフェスなりの忸怩たる思いと、その無念さよりも大事にしたいことがあって中止に向かったと思います。行政から要請があって中止になった場合もあるでしょうし、そうでない場合もあるでしょう。中には、東京、関東近郊という陽性者がたくさん出た場所から、たくさんの人がフェスを開催する地域、県にやって来ることへの恐怖を避けたいという理由もあると聞いています。我々も開催延期前から埼玉県庁の方ともミーティングをしたりヒアリングもしまして「ゴールデンウィークの開催に関しては現状、自粛を願うしかないと思います」という意向も受けました。ただ、夏のさいたまスーパーアリーナでの延期開催に関しては、街、行政、会場などから具体的な意向があったわけではなく、『ビバラ』自体を守るため、『ビバラ』を大事に思ってくださるユーザーを守るため、我々自身が自主撤退をした形です。だからそれぞれのフェスにそれぞれの理由があって、みんな苦渋の決断をしていったんだと思います。

ーーそして6月に『ビバラ!オンライン2020』の開催が発表されました。“さいたまスーパーアリーナでフェスをやる”ということが『ビバラ』にとっての一種のアイデンティティでもあったかと思いますが、決断に至った経緯は。

『ビバラ!オンライン2020』ロゴ

鹿野:延期のまた延期、3度目の正直としてオンラインライブに向かっていることが論理的に正解だとはあまり思っていません。その理由として、まずさいたまスーパーアリーナで開催できなかったこと。僕のフェス哲学のようなものとして、フェスのオリジナリティはスケジュールとロケーションで80%が決まり、残りの20%がブッキングなどだと思っているんんです。これは意地を張っている部分もあるかもしれませんが、ブッキングにこれ以上毎年毎年委ねると、フェス自身が弱気になっていくというか、もっと言えばアーティストが出演したい特定のフェスになれないと思うんですよね。だから今年に関しては、まずスケジュールをずらしている点でアウトです。ロケーションとしての最低限も、“for the埼玉なフェス”であることすら、現実的にできそうもない。そうなると、このオンラインライブがそもそも『ビバラ』であるのかどうかを自分たちでまず考えなければならず、それは本当に本当に難しいことでした。

 さいたまスーパーアリーナも世間の注目を浴びた3月22日の『K-1』開催以降、未だに何カ月間もイベントができず、エンターテインメントを開催したい気持ちは会場として強く持っています。しかし、ガイドラインとして色々なことを考えていくと、どうしても音楽フェスティバルにふさわしい祝祭空間が生まれるとは思えないし、その欠片すら自分には見えませんでした。まず、椅子席にしないで開催することは100%不可能。じゃあ椅子席で、何マス開けて、そこでどういう風にお客さんがライブを楽しむか、立っていいのか、声を出していいのか、両手両足を振っていいのか……。基本的には声を出さないで、体を動かさないで、飛沫させないでライブを楽しんで、と僕らに発信されながら、席に着くまでにどれだけのガードを張られながら、ライブを観る態勢になるのかを考えた時に、観ている方もかなりの緊張感、もっと言えば悲壮感を持ってライブに相対してしまうかもしれない。アーティストも観客の顔、表情、身体から出るテンションを本当に敏感に捉えながらライブをやっていますから、その状況下で彼らがどんなライブをやるのかを考えると、なかなかフェスティバルとして難しいなと思ったんです。

 それでさいたまスーパーアリーナでの開催を断念したんですけど、理屈ではない話をすると、それでも“フェス”をやりたいんですよ。生でライブをやって、それを生で、タイムラグがない中で楽しんでもらうことをやりたくてしょうがないわけです。そこの先に明確な今後への道があるんじゃないかという思いもありますしね。で、例えばアーティスト自身がそういうことをやって矢面に立つのは非常に不本意だと思うんですが、フェスティバル自身がフェスをやりたいという大義を持って安全にライブを完遂できた時に、それはいい前例になるのではないかなと思っているんですよね、今も。

 細心の注意を払った上でフェスを開催し、エンターテインメントを復興させるんだという気持ちの中で、オンラインによる開催が最高の形だとは思っていませんし、最高のライブエンターテインメントのあり方だとは全く思っていないです。でも、今やれる範囲の中で最高なことをやろうとすると、こうなるんじゃないかという確信を持ってオンラインフェスに踏み切りました。逆に言えば、オンラインでも最高の生身のフェスを楽しんでもらうためにどうすればいいのか? という挑戦をするということ自体が、今のエンターテインメントとしてあるべき挑戦だとも思ったんです。

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