鹿野淳に聞く、『ビバラ!オンライン2020』開催の決断まで コロナ禍におけるオンラインライブの意義と課題も

鹿野淳『ビバラ!オンライン』開催決断まで

“生ライブの代替え”として楽しむだけではしんどい

ーーなるほど。先ほどお話があったように『ビバラ』はフェスが飽和してきた時代にスタートしましたが、配信ライブが乱立してきている今、そうした時代をどのように切り抜けるかということにも意識的なのでしょうか。

鹿野:そこまで賢いフェスではないと思います(笑)。正直、昨今ここまでオンラインライブが増えるとも思ってもいませんでしたし。それは今からやろうとしている人たちも同じだと思います。それぞれとても時間をかけて準備しているでしょうし、ビジネスとして考えると危ういものではありますので、慎重に。しかしアーティストや音楽として何らかの発信はするべき時ですし、それが求められている時でもあります。なので、このコロナ禍の時代やオンラインと向かい合えば向かい合うほど、今までどれだけ幸福な活動ができていたのかということを痛切に感じます。無観客もしくはオンラインでエンターテインメント、ライブ、音楽を届けることが、引き算になっていると思わざるを得ない人たちも多い。だからこそ、アーティストサイドも今はそれをやれない、イベントやフェスにも出演できないという選択は、仕方ないことだと思います。なので初期とは違う、オンラインならではのライブの楽しみ方がもっともっと発明されていけば、生のライブとは別次元でオンラインライブが増えていくかもしれませんが、そういうものが出てこない限りは、つまりは生ライブの代替えとしてオンラインライブを楽しむということだけではしんどいと思います。

 僕は、オンラインでの画期的なライブとして、よくラッパーのトラヴィス・スコットがマルチゲームの『フォートナイト』内でバーチャルライブを行い、アバターとして参加した人たちは宇宙にまで吹っ飛ばされるという奇想天外なファンタジーを創造したバーチャルライブをあげます。あの壮絶なショーはまさに世界中の指針になっていて、あれをどうアレンジするか、どう超えるか、様々なクリエイターがポジティブに模索しています。我々も日本でそれをやれそうな、やり始めているクリエイティブカンパニーと話し合いました。ただ全く制作から実現までの時間が足りませんでしたが(苦笑)。そういったことを含めて、フェスなどで今から僕らがやろうとしているようなことが乱立するとは全く思っていないです。楽曲やレーベルの権利関係含めて色々なことがとても難しいからです。

ーーオンラインライブがこれからしばらく続いていくであろう中で、音楽性の革命や転換は起こり得るでしょうか。

鹿野:オンラインが音楽を変えるかどうかはあまり重要なことだと思っていません。ただ、コロナは音楽を変えます。例えば、東日本大震災は音楽のあり方と歌詞を含めた音楽のメッセージ性をダイレクトなものに変えました。救済と、人に寄り添うことが新たなテーマになっていった。今回に関しては、身体に訴えかけるのではなくて、心によりダイレクトに訴えかけるものへとエモーショナルの感じ方が変わっていくと思います。

 震災の時は音楽自体は災害にのまれなかったから、津波にのまれた全てを救済するために力を発揮したんですけど、今回の場合、ライブや音楽はコロナ禍に真っ先にのまれているわけですよね。そうなった時に、音楽自体が手を差し伸べるのではなく、まず自分たちを助けてあげなくちゃいけない。そのリアリティを考えると、当事者の音の出し方も、リズムや速度も変わってくるだろうし、歌詞も“誰かのため”というよりは、より切実な自己表現が歌われていくようになるんじゃないかなと。ここまで全てが弱ってしまった後で、アーティストがどういう音楽を作るのか。おそらく秋以降のリリース楽曲、作品からは、それがもっと色濃く出てくる形になると思いますね。その音楽が人を助けようとするのか、もしくは自分たちの弱さを主張して強さに変えていくのか。予測しても仕方ないことですが、明確な表現の方向性が見えると良いなと願っています。

ーーでは、『ビバラ』としてこれから挑戦していきたいことはありますか。

鹿野:これからに対して多くを望んでも仕方がない時期なんですよね。だから、まずは来年の春、ゴールデンウィークに埼玉県のさいたまスーパーアリーナで『VIVA LA ROCK 2021』というロックフェスティバルを開催したいです。……これはインタビューのオチのためにかっこよく言うのではなくて、先のことが本当にわからないんですよね。個人的な予想では、ワンマンライブにせよ、イベントにせよ、フェスにせよ、年内は今までと同じような形で開催できることはあり得ないんじゃないかなと思っています。その中で、今年の秋ぐらいに願わくばこれまでの状態に近い形でライブ活動が再開された時に、経済的に相当な十字架を背負いながらみんながやっていくことが予想されるんですよ。でも、それでもやるんだという気持ちで、きっと皆さんが尋常ではない覚悟を持って頑張ると思います。その状況が年をまたいで来年の春まで続いていくのかどうかでいうと、『ビバラ』が1日に2万5000人が入れるフェスとして、あの熱狂的な一体感を屋内フェスとして醸し出しながら来年再開できる見込みを、今は正直1%も立てられていません。そこには根拠のない願望しかないんです。

 今年、『ビバラ』も僕の会社もめちゃくちゃ弱って、ここからどれだけV字回復を狙っていくのかを考えなくちゃいけない未来が待っています。今やっていることが間違いじゃなければ次で挽回できるんだっていう気持ちでスタッフ全員頑張っています。自分は30年間ずっと雑誌のメディア活動をやり続けているんですけど、うまく行かないことがあった翌年はちゃんとV字回復をさせてくることができたので今があると思っているんですね。でもその見込みが立たないまま、来年に視野を向けるというのが本当に辛く、不安なことで…………。だからあまり威勢のいいことが言えないんですけど、結果的にそれよりも目の前でやれることがあった時にやる決断をすることが、今一番威勢がいい行動につながるんじゃないかなと信じて動いています。

ーー社会全体で見ても、来年どころか1カ月先もどうなっているかわからないような状況が続いています。

鹿野:それは音楽だけじゃなく、医療関係を筆頭に地球レベルで同じ不安、絶望、闇を抱えていますから。僕たちも直近の不安や恐怖としては、関東に第2波がきたらオンラインでフェスをできるのかというまな板の上にいるわけじゃないですか。

 これを読んでくださっている方々は、「この時点で第2波がきたらできないに決まっている、その波、来そう」と思うかもしれませんが、今ってやれないと思ったら本当に何にもやれないんですよ。そして何もやれなくても、誰も責めない。でも、色々な決断の中でできることは絶えずあるはずなんです。衣食住以外に、“人間”である理由の中にはエンターテインメントも含まれているし、この状況下でも音楽、ライブ、フェスが存在していく意義があるはずなんです。誰かがそれを証明しようと、諦めないでやっていくことが大事で、『ビバラ』だけがその大志を持ってやっているとは全く思っていないし、他にも頑張っている方々がいらっしゃいますから、その人たちだけに任せておくわけにもいかないなという気持ちもあって。頑張れる人たち、諦めない人たちで、何とか山を越える気持ちでやるしかないと思います。そしてそれをみんなにキャッチして、参加して欲しいんです。そうすれば、きっと山は動きます。

『ビバラ!オンライン2020』公式サイト

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