『芽ぐみの雨』インタビュー
やなぎなぎに聞く、『俺ガイル』登場人物の“未来”を願う「芽ぐみの雨」制作秘話「完結してもキャラクターの物語は続いていく」
恩恵を受けている側の人たちは気付かない部分がある
ーーそれだけ『俺ガイル』の世界やキャラクターに対する愛着が深いんでしょうね。ちなみに、その中でも特にお気に入りのキャラクターはいたりしますか?
やなぎ:個人的には、「あーしさん」と呼ばれている、三浦優美子ちゃんというキャラクターが好きでして。その子はクラスの中心的なグループにいて、最初は主人公とぶつかったりするんですけど、話が進むにつれて、根はすごくピュアということが見えてくるんです。最初の印象のときだと、自分がもし高校生の時代にそばにいたら、あまり友達にはなれそうにないなと思っていたんですけど、そのギャップに気付いたら、すごく仲良くなりたいと思えるキャラクターになって。そういう部分って、自分が中心にいるとあまり見えないですけど、俯瞰して見るとすごく見えてくるんだなと思いました。
ーー『俺ガイル』の登場人物は、みんなクセはあっても根はいい人ですよね。他人のことを考えすぎて悩みを抱えることが多かったり。
やなぎ:そうなんですよね。基本、みんな突き詰めるといい子っていう。考えすぎて、ねじ曲がったみたいな子が多いですよね。
ーーそういう部分は「芽ぐみの雨」の歌詞にも反映されているように感じました。1番のサビの歌詞で言うと〈ずぶ濡れでも きっと誰かには芽ぐみの雨だった〉という部分からは、自分が悲しみに濡れていたとしても、他人のことを思いやるような心を感じられて。
やなぎ:そうですね。八幡くんも、自己犠牲というか、自分のことをいちばん下に考えて周りをどうにかするようなところがあって。ただ、それって恩恵を受けている側の人たちは気付かない部分があると思うんです。でも、私たちはその物語を俯瞰で覗き込んでいて、全部が見えているので、そういう部分は歌詞にしたいなと思いましたね。
ーーなおかつ、この曲の歌詞は物語的な構成になっていて、歌詞の中で〈完全なハッピーエンドなんてない〉と言及しつつ、最後にはちゃんと幸せな結末が描かれているところが、素敵だなと思いました。なぎさんとしては、やはりこの曲を幸せなものとして完結させたい思いがあったのでしょうか?
やなぎ:それはあったと思います。自分が『俺ガイル』の物語で見られる部分というのは決まってしまっていて、その続きはどうしても見られないですけど、それでキャラクターたちがいなくなってしまうわけではなくて、自分の中で「もし続きがあるのならこうかもしれない」と考えてしまうところがあって。今回で物語として完結はするけど、このキャラクターたちの物語はずっと続いていくんだろうな、っていうのが最後に描きたかったところですね。
ーー歌詞の話で言うと、Dメロのコーラス部分に〈フェアリーテイル〉という一節があったり、「ユキトキ」「春擬き」の歌詞に出てきた言葉の引用も散りばめられていますよね。
やなぎ:はい。今回は歌詞を書くときにまず、「ユキトキ」と「春擬き」の歌詞を横に並べるところから始めたので。そこから言葉を抜き出したり、(「ユキトキ」の歌詞に登場する)〈アザレア〉を〈ツツジ色の花〉という形に置き換えて書いていたりしています。思いがけず3部作という形になったので、これまでのことも、今思っていることも全部詰め込みたくて。タイトルの「芽ぐみの雨」も、「芽ぐみ」のところは、本来の「恵み」という言葉と、春を予感させるワードのダブルミーニングになっていて、「ユキトキ」からの流れが浮かべばいいなあと思ってリンクさせました。
ーーこの曲のタイトルはすごく象徴的で、「恵み」でもあり「雨」でもあるということ、喜びも悲しみも表裏一体で隣り合わせであるという、その塩梅が歌詞にも表れていて、『俺ガイル』の物語と相まってグッとくるんですよね。
やなぎ:たぶんみんなが、全員がどうにかハッピーエンドになれる道を探しているんだけど、どうやらそれはないっていうことに気づいたときに、だったら「どうすればいいのか?」というところですよね。自分はもちろん、他の誰かもきっと痛みを受けているんだろうし、でもそれは必要なもので、永遠に続いてほしいと思った時間が違う形になってしまったけど、それも自分の長い人生の時間でみたらほんの一部で、その先にもしかしたら自分のハッピーエンドがあるのかもしれないっていう。どうなるのかわからないも含めて、そういう全部がキャラクターたちを作る要素になっているということが、歌詞の中で表現できていればいいなと思います。
自分の中でも「芽ぐみの雨」で出し切った感はあります
ーー今回も作曲・編曲は北川勝利さんですが、どのようにお伝えして曲を作ってもらったのですか?
やなぎ:あまり多くは言っていないですけど、北川さんも今回で『俺ガイル』が完結になることはご存知だったので、疾走感だとか、完結による切ない部分を相談しながら作っていきました。
ーー前の2曲もそうでしたが、今回はそれ以上にギターの主張が強いアレンジになっていますね。
やなぎ:そうですね、今回はさらに激しく、「えらいことになったな」っていうギターソロが入ってます(笑)。デモの段階で北川さんの仮ソロが入っていたんですけど、それも結構熱い感じになっていて。本番のレコーディングで松江(潤)さんに弾いていただいたときは、そのフレーズに導かれて「俺も熱く弾いたよ」とおっしゃっていました(笑)。
ーー歌入れの際に特別意識したことはありますか? 前の2曲を踏まえた部分もあったかと思うのですが。
やなぎ:もちろん前の2曲も意識していましたけど、今回はとにかく「終わってしまう」というのが自分の中で大きくて。でも、悲しい気持ちを前面に出すわけにはいかないので、その気持ちを伝えたい部分では、思い切り切なく息を抜いてみたり、(歌い方の)使い分けで歌のバランスをうまく表現できればと考えていました。
ーー例えば、キャラクターたちを俯瞰で見守るようなイメージもありましたか?
やなぎ:どうでしょう? そういう気持ちもあるし、でも、あまりにも長く付き合いがあるので、中に入ってしまうような気持ちも混ざっていたと思います。半々ぐらいの気持ちですかね。
ーーなぎさんも一緒に青春を送った作品ですものね。
やなぎ:そうですね。出会ってから7〜8年は経ちますので。自分の中でもこの曲で出し切った感はありますね。もうこれ以上は難しいかもしれないです(笑)。
ーーMVは、「ユキトキ」と「春擬き」のMVの要素も織り交ぜつつ、アート感のある映像に仕上がりました。
やなぎ:今回は切り絵の世界がたびたび登場するんですけど、切り絵って一枚だけだとぺったりとしてますけど、それを何層にも重ねてもらって、それをカメラで追いながら撮っていただいていて。それは、物語というものは一つの要素だけではなく、無限にある要素が多重に重なって構成されているイメージが自分にはあったので、物語の始まりから終わりを(切り絵の)多重構造の世界で表現したかったんです。
ーー映像の構成的にも物語のような流れになっていて、最初は切り絵の女性がテレビのエンドロールを眺めているところから始まりますが、最後はテレビをはさんで切り絵の男女が向かい合うシーンで「めでたし」と締めくくられます。これは野暮な質問になるのですが、なぎさんは昨年ご結婚されたので、このハッピーエンド感はもしかして、ご自身の心境も反映されているのかなと……。
やなぎ:それはないですね(笑)。今回はとにかく『俺ガイル』のキャラクターたちのために用意した未来というところなので、そこに自分の幸せというのは上乗せしていないです。私はそういうのはあまり音楽に還元できないので(笑)。