カップリングベストアルバム『memorandum』インタビュー
やなぎなぎが語る、創作の原点とカップリングが映す過去の記憶「ネガティブな感情を持ったときの方が曲にしたくなる」
今年1月に初のベストアルバム『-LIBRARY-』『-MUSEUM-』をリリースし、3月からはそのアルバムに際してのツアーをバンド/アコースティック編成で回ったやなぎなぎ。彼女がカップリング曲から厳選した楽曲で構成したカップリングベストアルバム『memorandum』(=メモ/覚え書き/備忘録)を完成させた。
人気アニメ作品とのタイアップ曲として制作されることが多いシングルの表題曲に対して、ここに収められているのは、より彼女自身のルーツやプライベートな魅力が垣間見える楽曲ばかり。ベストアルバムと対になる形で、やなぎなぎのこれまでを振り返れるような作品に仕上がっている。今回の作品に込めた思いや、カップリングだからこそ生まれる楽曲の魅力、メモ書きのように当時の気持ちをスケッチした楽曲から見えるこれまでの約8年間について、本人に聞いた。(杉山仁)
かなり好き放題やらせてもらっています
ーー今回の『memorandum』はこれまでのカップリング曲をあつめたアルバムになっていますが、もともとこの作品をつくろうと思ったきっかけはどんなものだったんですか?
やなぎなぎ:今年1月にベストアルバム『-LIBRARY-』『-MUSEUM-』を出したときに、「カップリングの曲の方も好きなのにな」という意見や、「そういう曲もまとまりませんか?」という感想をもらったことがきっかけのひとつでした。これまでそのときどきで自分の中での流行りを音楽にしてきたので、自分自身では「作品をまとめる」という発想はあまりなかったんですけど、そうやって「今まで出したものを並べて聴いてみたい」という話を聞いて、聴きたい人がいるのであれば、集めてみるのも面白いのかな、と思ったんです。
ーーアニメ作品などとのタイアップになることが多いシングルの表題曲とカップリング曲とでは、やはりつくっているときの感覚も大きく違うものなのでしょうか?
やなぎなぎ:そうですね。私の場合、表題曲では与えられたテーマがあって、その中でできることを最大限に出す、という感覚が強いんですけど、それに対してカップリングはかなり好き放題やらせてもらっています(笑)。どちらかというと自分でアレンジまでやっている曲が多いので、まさに『memorandum』というタイトルのように、「日々の覚え書き」のような感覚ですね。そのときに自分が興味を持っているものをテーマにしてみたり、本当に自由にテーマを持ってきたりしているので、そのときの自分の中での流行りが、より楽曲に反映されやすい部分もあるのかな、と思います。日常の延長上で「今これが好きだから、これについてちょっと書いてみよう」とか、「こういう気持ちだから、こういう気持ちをなくすために曲にしよう」と考えて曲にしていったりとかーー。
ーー曲にすることで、自分の気持ちが昇華されていくこともあるんですね。
やなぎなぎ:ネガティブな気分になったときにも、曲を書くとそれでスッキリします。一種のストレス解消法のような感じで、「この曲を書いたから、この気持ちはおしまい!」というふうに、気持ちが整理できたりするんですよ。カップリングには、そういう曲も多いですね。
ーー今回はアルバム収録曲の中から数曲選んで、曲をつくっていた当時の思い出などを振り返っていただくことはできますか? 『memorandum』というタイトルにあわせて、この作品の収録曲ができたときのやなぎなぎさんの思い出や、当時はどんなことを考えていたのかということを、色々と教えてもらえると嬉しいと思っているんです。
やなぎなぎ:たとえば、1曲目の「キミミクリ」は『瞑目の彼方』(2016年8月)のカップリング曲でしたけど、このときは、それまで表題曲で色んな作家さんと色んなジャンルの曲をやってきて、でも自分のルーツはあまり変わっていないという中で、原点回帰というと大げさかもしれないんですけど、もう一度自分のルーツと向き合ってみたいと思っていました。そこで、小さい頃の気持ちを思い出しながら曲を書いて、音としても自分のルーツに素直になって、丸みのある音を中心にした初期の頃の雰囲気をそのまま出してみようとした曲でした。
ーー確かに、この曲はやなぎなぎさんがルーツとして挙げているアイスランドのエレクトロニカグループ・Múmの作品にも近いものを感じます。2000年代初頭の『Yesterday Was Dramatic – Today Is OK』や『Finally We Are No One』などを連想する雰囲気で。
やなぎなぎ:そうですね。表題曲の「瞑目の彼方」を(作編曲を担当した)鷺巣詩郎さんが北欧エレクトロニカ系のアレンジにしてくださったので、私の中でもそういうものが好きな気持ちが出てきていたんだと思います(笑)。
ーーそもそも、北欧のエレクトロニカに触れたきっかけはどんなものだったんですか?
やなぎなぎ:正確には覚えていないんですけど、きっとラジオでビョークを知って、そこから同じ系統の音楽を掘り下げたのが最初だったと思います。ちょうどその頃、インターネットも普及してきて、「海外のCDも買えるんだ」と思ったりもして。その中で出会ったのがエレクトロニカでした。北欧に限らずエレクトロニカはすごく好きで、たとえばよく好きで聴いていたI Am Robot And Proudのように、他にも好きなアーティストがたくさんいます。どういう環境や状況で聴いていても、同じ気持ちでその曲に浸れる雰囲気に惹かれているので、私自身がつくる音楽も、そういう魅力に引っ張られている感覚があるように思います。
ーー自身が音楽をつくるときも、そういう部分は大切にしているんじゃないか、と。
やなぎなぎ:そうですね。14曲目の「replica」(2013年1月。『Zoetrope』収録)は、さっきお話したように、自分の心情を曲にしてすっきりさせた曲です。この曲の仮タイトルは「0331」で、3月31日に書いたことをずっと覚えています(笑)。世の中にはすでに音楽がたくさん出ていて、本当にオリジナリティを出すことってすごく難しいことですよね。当時の私は「自分では自分のオリジナリティを出しているつもりでも、こういうことをどこかで誰かがやってるんじゃないかな?」という不安をふつふつと感じていて。でも「そんなふうに悩んでも仕方ないか」と思って、その気持ちを書いてすっきりさせたのがこの曲でした。ネガティブな感情を曲にするときは、すっきりとシンプルな音になることが多いので、歌とピアノだけの曲になりました。
ーー自分の心情から曲ができるときは、どんなふうに音を膨らませていくのでしょう?
やなぎなぎ:イメージした音を思い浮かべながらピアノを弾いてつくっていくときもありますし、パソコン上で音を鳴らして、「こんな音かな」と探すときもあります。場合によって色々です。「replica」はピアノを弾きながら、歌いながら言葉とメロディを一緒につくっていきました。だいたいは自分の中で「こういう気持ちを音にしたいな」と考えながら、指の赴くままにつくる感覚ですね。一方で、5曲目の「in flight」(2016年2月/『カザキリ』収録)は、よく飛行機に乗っていた頃につくった曲。この頃は海外のイベントに呼んでいただくことが多くて、何時間も飛行機に乗っていたんですよ。それで、飛行機の中でガーっと歌詞を書いて、日本に帰ってから曲にしました。フランジャーをつかって音をシュワシュワさせたり、右から左に駆け抜けていくような音を入れたりして、音でも飛行機をイメージしました。
ーーその頃、他に覚えていることはありますか? たとえば、当時ハマっていたものや思い出などもあれば教えてもらえると嬉しいです。
やなぎなぎ:自分の中では、ワインブームが来ていたような気がしますね。ちょうどこの頃引っ越しをして、近所にワインが充実したスーパーを見つけたんですよ。それで「ちょっと飲んでみるか」と買ったらハマってしまって、お酒の蒸留所にも見学に行くようになってーー。工場見学ブームですね(笑)。やっぱり、ものをつくる過程ってすごく面白いと思うんです。ものをつくる過程を知っていくと、それまではあまり興味がなかったものでも、「こんなふうにできているんだ」と興味が出てきたり、そのもの自体に愛着が湧いたりしますよね。もともとそういうことは好きでしたし、グッズをつくるときにも、色んな紙のサンプルや色見本を見るのがすごく好きなので、そういう自分の性格が、お酒にガチっとはまったのかもしれないです。
ーーやなぎなぎさん自身もつくる側の方なので、より共感できるのかもしれないですね。
やなぎなぎ:そもそも、ゼロから100にするというか、「何もないところから何かを形にする」ってすごいことだな、と思っていて。私も自分が何か形にしたものに対して、いい言葉をかけてもらったり、褒められたりした印象がすごく残っています。小さい頃に、図工で褒められたりしたときから「モノをつくって、褒めてもらう」ということが、楽しかったんですよ。私の曲は自分が好きだからつくったものではあるんですけど、それを聴いた誰かが共感してくれたり、好きになってくれたりしたら、もっと嬉しいなという気持ちは常にあります。