『キラメイジャー』『プランダラ』『まほよめ』手掛ける音楽作家 松本淳一に聞く、特撮&異世界を音楽で表現することの面白さ

『キラメイジャー』音楽作家インタビュー

 現在放送中のスーパー戦隊シリーズ『魔進戦隊キラメイジャー』や、2020年1月から6月24日まで2クールで放送されたテレビアニメ『プランダラ』の音楽を手掛ける松本淳一。映画『そして父になる』で日本アカデミー賞音楽優秀賞を受賞し、テレビアニメ『魔法使いの嫁』の音楽でも高い評価を受けた今注目を集める音楽作家のひとりだ。

 今回のインタビューでは、『魔進戦隊キラメイジャー』と『プランダラ』のサウンドトラックを発端に、スーパー戦隊シリーズ特有のエンタメ性を引き出すための音楽作りや異世界ファンタジーの世界を音で表現する楽しさなどの制作エピソードをはじめ、実写とアニメそれぞれの音楽を考える上での共通点や差異、そして30代半に経験したアイスランド留学以降の音楽作家としてのキャリアについて話を聞いた。(編集部)

指が痺れるほど曲を作った『魔進戦隊キラメイジャー』

ーー松本さんは、アニメ『プランダラ』の音楽と特撮『魔進戦隊キラメイジャー』の音楽を手がけつつ、さらに4月から配信が始まったドラマ『ネット興亡記』の音楽も担当されています。かなりお忙しかったのではないでしょうか?

松本淳一(以下、松本)はい、忙しかったです。『プランダラ』の楽曲制作はかなり前倒しで進んでいて、録音も去年の前半第1、第2クール共に終わっていたのですが、『キラメイジャー』はスーパー戦隊シリーズとしては初めての試みだった『魔進戦隊キラメイジャー エピソードZERO』という劇場版の楽曲制作とテレビ本編の1クール、2クールの楽曲制作が実質今年の1月から始まって、劇場版のレコーディングが1月16日、テレビ本編の録音が2月20日、21日にありました。

 テレビのほうは細かいものも入れると80曲、映画は20曲前後でしょうか。100曲前後を1カ月半で書くというスケジュールだったので、1日7曲ぐらい土台を作り、その土台たちを完成に向けて同時に練っていき、最後の数週間はスタジオ録音のためのスコア書きを延々と続ける、というような進行状況でした。『ネット興亡記』は『キラメイジャー』の録音が終わった後、息つく間もなく始まった感じです。2月頃はだんだん指が痺れてきて、自分でも心配になりました(笑)。

ーーそれは本当にすさまじいスケジュールでしたね……。松本さんがスーパー戦隊シリーズの音楽を手がけるのは『キラメイジャー』が初めてのことですが、あらためてどのような経緯があったのかお教えください。

松本:『プランダラ』でご一緒した音楽プロデューサーの穴井(健太郎)さんが推薦してくださって、『キラメイジャー』の制作陣のみなさまに選んでいただいた形です。僕はスーパー戦隊シリーズの音楽を担当するのが初めてなのですが、僕の経歴を見てスーパー戦隊シリーズの音楽に結びつけるのは自分ですら難しかったので、決まったときは「えっ!」という驚きがありました。穴井さんが「スーパー戦隊シリーズに新しい風を」とよくおっしゃっていたのが印象深かったです。そこのレールに乗っけてくださったことについて、すごく感謝しています。

ーー松本さんはスーパー戦隊シリーズについて、どのような印象がありましたか?

松本:実は細かな記憶があまりなくて、「日曜日の朝にすごくテンションの高いドラマをやっているな」と子ども心に思っていました(笑)。だから、まさか自分がスーパー戦隊シリーズの音楽を作曲するとは夢にも思っていませんでしたね。

ーーでは、『キラメイジャー』の音楽制作にあたって、松本さんにどのようなオーダーがあったのでしょう?

松本:すごく要約すると「スーパー戦隊シリーズの音楽をしっかり作ってくれ」ということでした。長調ではなく短調の、闘魂が熱く含まれている音楽を我々は求めているという趣旨のオーダーです。『キラメイジャー』というタイトルや、巨大な宝石と共鳴しながらヒーローが戦うという設定の特殊性は、音楽を作る側としてキャッチしやすいものなので、当初は僕もかなりそちら側の音楽を作っていました。長調で元気いっぱいの「俺たち勝って当たり前」という音楽ですね。ただ、そういう音楽もあっていいのですが、最も重要なのは短調の燃える音楽でした。それが全体を支える土台になる。そこがオーダーの肝でした。

ーー戦う気持ちを視聴者の子どもたちに伝えて、高揚させる音楽が最も重要だったということですね。

松本:そうですね。今回の劇伴のテーマになる「キラメこうぜ!!」(Tr.17)、「選ばれし戦士たち」(Tr.6)、「いざ、戦闘開始!」(Tr.7)、「何度でも立ち上がれ!」(Tr.30)あたりは、みんなを闘志で高揚させるような趣旨で作られた曲です。

ーーどの曲も壮大なオーケストレーションが印象的でした。松本さんは、使用する楽器や音色などのイメージをどのように固めていったのでしょう?

松本:スーパー戦隊シリーズは映画やドラマと比べて音響効果が強力だという話を聞いていたんです。爆発をはじめとする並みいる音響に拮抗してガーッと押していくには、やっぱりフルオケがいいだろうと。あとはスーパー戦隊シリーズといえばどうしたってやっぱりエレキ、ドラム、ブラスなので、それを上手く自分の中でフルオケとミックスさせて、スーパー戦隊シリーズに寄せていくイメージでした。

ーースーパー戦隊シリーズは低年齢層から大人まで、幅広く、熱い視聴者が多いイメージです。曲作りではどのようなことを意識されましたか?

松本:特撮ってエンタメの要素が強いと思うんです。場面描写や心理描写はもちろん大切なのですが、それよりもまず演者と視聴者が一丸となって作り上げていく空気感が重要だと考えました。具体的なことを言えば、そのまま歌ものとしても成立するような、メロディのしっかりしたものでわかりやすく伝えながら、全体のボルテージを上げていく。観ている人たちが掴めて、乗れて、熱い空気を一緒に感じながら盛り上げていく音楽です。

 実は、人間が何かを乗り越えようとする葛藤や、踏ん張っているときの辛さや苦しみ、何かを凌駕するときの心の動きを短調のメロディなどで表現してしまうことを、無意識のうちに避けようとしている部分がありました。どこか「ベタで恥ずかしい」と感じる部分があって、もっと新しい表現ができないかという目論見があったんですが、そこで「いや、ちょっと待て」と。メロディの強さと短調の良さと真っ向から向き合って、自分がいいと思えるものをひねり出していく。そういう作業が多かったです。

ーーご自身の中で「これはハマった!」と思われる曲を教えてください。

松本:先ほど挙げた曲がそうですね。特に当日スタジオで作った「いざ、戦闘開始!」(Tr.7)が印象に残っています。自分の中ではすごくラフに出来上がった曲ですが、いい感じになったと思います。自分的には『エピソードZERO』のエンドロールでも流れている「奇跡を起こせ!キラメイジャー」(Tr.40)も気に入っていますね。

ーーあらためて『キラメイジャー』という作品の魅力はどのようなところに感じられますか?

松本 実はすごく重めの世界設定で、究極の二元論的な戦いですよね。ものすごくダークで気持ち悪いヨドンヘイムという世界と、普通の人間であるキラメイジャーたちが、みんなの為に戦う。でも、キャラ設定もキャストも脚本も演出も絶妙で、すごく軽妙でさわやかな気がします。元気も出るし、スカッとするし、今の時代のニーズにも合っている気がします。僕の役目としては、音楽で重めのテーマを時々忘れないよう強調していくという側面もあると思っています。そのあたりの不思議な違和感も音楽を通して出ているといいな、と思っています。

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