『キラメイジャー』『プランダラ』『まほよめ』手掛ける音楽作家 松本淳一に聞く、特撮&異世界を音楽で表現することの面白さ
異世界の世界観を補完した『プランダラ』
ーー『プランダラ』は松本さんが音楽を手がけたテレビアニメ作品としては『魔法使いの嫁』に続いて2作目となります。アニメの音楽を制作するときは、どのようなことをお考えになるのでしょうか?
松本:まず、アニメの音楽制作って、とても面白いと思っています。単純に楽しいですし、もっとやってみたいです。特に『魔法使いの嫁』は原作やテーマも良かったですよね。音で魔法を表現するのって、とてもワクワクしますし、作曲しながらのめりこみました。『プランダラ』に関しても、世界設定がとても巧妙で入り組んでいるので、それをどうやって音で表現しようか、その面白みを感じながら音楽制作させていただきました。特殊な世界を描いた作品の音楽を作ることは、その世界観を音で補完する役割も負っている訳なので、作曲家としてやりがいのある仕事だと思います。
ーー『プランダラ』はアルシアという異世界で物語が展開する第1クールと、「過去編」と呼ばれる第2クールでは、ガラッと音楽のテイストが変わっています。どのようにして今の形になったのか、あらためてお教えください。
松本:はい、実は楽器の編成などがかなり細かくオーダー表に書かれていたので、それに従って作曲していきました。第1クールなら打ち込みやバンドサウンドを使わずにオーケストラを使っていますし、第2クールなら逆にデジタルサウンド、シンセサウンドを使っています。
アルシアは今のこの世界を踏襲した近未来なんですが、時代感が逆に古くなっているという不思議な世界です。今の私たちが話している言語感覚とは、また違う言語感覚であるということを音で表現したい、というような趣旨を打ち合わせでも皆様おっしゃっていました。あとは、電気を通した楽器や打ち込み、バンドサウンドも一切使わない方向にしたい、と音響監督のえびな(やすのり)さんがおっしゃっていましたので、そのようにしています。
ーー松本さんは、アルシアという世界に閉塞感があるともおっしゃっていました。それはどのように音で表現されたのでしょう?
松本:第1クールの音楽は生音を使って曲を作ったのですが、それを変調させたり歪ませたりする加工をしています。たとえば、壮大なオーケストラはプラハで録音しているのですが、そのオケ素材をそのままソフトにぶち込んで様々に加工し尽くし、楽譜には書き得ないような音や空気感に変調させています。弦を擦っている音が深海魚の声みたいになったり、はたまた雲の折り重なりのようになったり。
それらの加工した音に普通の楽器の音を重ねると、私たちが普段聴いているクラシカルな音楽のようでいて、ちょっと「?」という音響になります。奥のほうから聴いたことない音が聴こえてきたりします(笑)。あとは、雑多に録った音を詰め込みまくって、臆することなく一切削がずにそのまま出したり、ということもしています(笑)。これも、ものすごい音になります。全体の1/4ぐらいは、大小様々にこうして作られた音響が潜んでいるので、ぜひ探してみてください。
ーー『魔法使いの嫁』ではストリングラフィという90年代に考案された楽器が使われていましたが、今回は新しい楽器などを使用しているのでしょうか?
松本:今回はコミカルな曲でトイ楽器を大量に使っています。世界各国のジャンク?なトイ楽器を集めている良原リエさんという方がいるのですが、その方に大量の楽器を並べていただいて、それを同時に鳴らして編集で重ねたりしています。トイピアノは4、5台並べて一斉に鳴らすのが一番面白いんですよね。少しずつ高かったり低かったりする「ド」があって、それを同時に弾くのが好きなんです。トイ楽器には音が揃っていない良さがあると思います。
ーー現代音楽のミュージック・コンクレート(楽器音や電子音、自然の音などを録音、加工、再構成する音楽)の作り方のようですね。アニメで描かれる異世界は、まさに「この世にない世界」なので、揃っていない音が合うのでしょうね。
松本:そうかもしれないですね。たとえば、実写映画は要素の組み合わせ芸術で、音に関しても、出方、タイミング、音量、テンポ、セリフ、音効、ストーリー、全てのバランスの勝負で、ワンフレーム何かがズレるだけで全く違う見え方になったり本っ当にしますので、音の影響も甚大でして、映画でこうした音楽はあまり許されないかもしれません。でも、アニメではそれが作品に時にいい効果をもたらすこともあったりします。その辺りがアニメをやる時の喜びですかね。そういった意味で、アニメの懐は広いような気がしています。