特撮ソングはなぜ人の心を熱くさせる? 近年のスーパー戦隊シリーズ楽曲と渡辺宙明の功績から考察

『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー VSコンプリートソングコレクション』

 今、特撮が熱い。

 スーパー戦隊シリーズ第42作『快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー』(以下『ルパパト』)が大きな盛り上がりの中、2月10日に最終回を迎えた。お正月映画として公開された『仮面ライダー平成ジェネレーションズ FOREVER』も興行収入15億円を超えるヒットを記録。NHKでは特撮女子を題材にした『トクサツガガガ』がスタートして、こちらも話題を集めている。

 子どもだけでなく、大人にも夢と希望と熱い気持ちを伝えてきた特撮作品。そんな特撮には、見るものの気持ちを熱く盛り上げる特撮ソングが欠かせない。『トクサツガガガ』にもゴールデンボンバーが特撮ソング風の主題歌「ガガガガガガガ」を提供している。

 では、なぜ特撮ソングは人の気持ちをそんなにも熱くさせるのだろうか? 特撮ソングの種類は幅広いが、ここではスーパー戦隊ソングに絞って考えてみたい。

「ルパンレンジャーVSパトレンジャー」の対位法による反発とうねり

 まずは『ルパパト』の主題歌「ルパンレンジャーVSパトレンジャー」。これが非常に特殊な曲だった。男性ボーカルの吉田達彦と女性ボーカルの吉田仁美によるデュエットソングだが、激しく混沌としているのに、不思議と調和している。そして何よりプログレッシブだ。この曲の最大の特徴は「対位法」を使って作られていることである。

快盗戦隊ルパンレンジャーVS警察戦隊パトレンジャー ミニアルバム『イタダキアルバム』『イチゲキアルバム』ダイジェスト試聴

 対位法とは、複数のメロディをそれぞれの独立性を保ちつつ、お互いに調和して重ね合わせる手法のこと。ロックやポップスの中でもハーモニーやベースライン、ギターリフなどを考えるときに使われるが、「ルパンレンジャーVSパトレンジャー」の場合、完全に独立した両戦隊のテーマソング「ルパンレンジャー、ダイヤルを回せ」と「Chase You Up!パトレンジャー」を重ね合わせて1曲にするという離れ業をやってのけている。しかも、前者はジャジー、後者はテクノとまったく違ったアレンジの曲を融合させたものだ。

 独立するメロディを重ね合わせる対位法は、『ルパパト』の中で対立する二つの戦隊が、時に反発し合いながらも融合し、大きなうねりを作り出していく物語を表現している。歌詞だけでなく、曲の構造そのものが物語を反映しているのだ。もちろん、数多くの特撮ソングを手がけている作詞家・藤林聖子による歌詞の果たす役割も大きい。

 作曲は『プリキュア』シリーズの劇伴などを手がける高木洋。対位法を提案したのは日本コロムビアでスーパー戦隊の音楽プロデュースを手がけ、スーパー戦隊の主題歌を数多く手がけるユニット、Project.R(プロジェクト・ドット・アール)の生みの親でもある八木仁プロデューサー。主題歌を決めるとき、『ルパパト』の宇都宮孝明プロデューサーらがツインボーカルや歌詞の内容を1番と2番で分けることなどを提案したら「ありきたりですね」と一刀両断、対位法を提案したのだという。

 スーパー戦隊シリーズは次作の『騎士竜戦隊リュウソウジャー』で43作を数えるが、特に近年はチャレンジングな試みが繰り返されてきた。第41作の『宇宙戦隊キュウレンジャー』ではついに史上初の9人戦隊となった。スーパー戦隊シリーズの常にチャレンジングな姿勢は、物語づくりも主題歌制作も変わらない。激しいビート、曲の物語性だけでなく、同じ場所に安住しないプログレッシブな革新性が人々の心を熱く震わせるのだろう。

【騎士竜戦隊リュウソウジャー】スペシャル動画

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