カイゴのトロピカルハウスが日本人のツボを外さない理由 ダンスミュージックチャート席巻の『ゴールデンアワー』から考察

カイゴが日本人のツボを外さない理由

 トロピカルハウスの旗手として脚光を集め、いまや世界的な人気を誇るプロデューサー・カイゴ。彼の3枚目のフルアルバム『Golden Hour』がリリースされた。

 大規模なフェスティバルフランチャイズを媒介に隆盛を極めたEDMシーンから派生したトロピカルハウスは、やわらかい手触りのサウンド、少しゆるめのテンポを特徴とする。メインのリフを奏でるリードシンセも、プラック系と言われるやさしくぽんと弾くようなサウンドが主で、独特の質感をジャンルに与えている。メロディアスでチルなフィーリングを漂わせるトロピカルハウスの登場は、「盛り上がる音楽」としての機能性を先鋭化させていた2010年代のEDMの転換点のひとつであったように思う。

 カイゴはこのジャンルを代表するDJ/プロデューサーのひとりとして2010年代なかばから頭角を現し、DJとして世界中の数々のフェスに出演してきた。日本でも、2016年と2017年のULTRA JAPANでヘッドライナーを務め、2018年の単独来日公演では15,000人を動員するなど、強い人気を誇っている。

 ディスコグラフィも華々しい。2016年リリースのデビューアルバム『Cloud Nine』は世界的なヒットとなった。同作では全体を通じて、空間を感じさせる余白の多いサウンドが、シンプルで魅力的なリフや、ボーカルのメロディラインをひきたてている。シェイカーやフィンガースナップといった、主張の控えめなパーカッションのチョイスも印象的だ。

Kygo - Firestone ft. Conrad Sewell (Official Video)
Kygo - Stole The Show feat. Parson James [Official Music Video - YTMAs]

 翌年、2017年には2ndアルバム『Kids in Love』を発表。こちらはよりタイトでダンサブルな楽曲が増え、自身のルーツというロックサウンドへの目配せもある。冒頭を飾る「Never Let You Go」のスタジアム映えしそうな力強いボーカルとメロディラインや、表題曲「Kids in Love」に埋め込まれたギターやエイトビートなど、思わず拳をふりあげそうになる。こうして、わずか数年のあいだに、外からつけられたラベルには収まらないポテンシャルを発揮したのだった。

Kygo - Never Let You Go ft. John Newman (Official Audio)
Kygo - Kids in Love ft. The Night Game (Official Audio)

 以来、アルバムのリリースこそないまでも、Imagine Dragonsとのコラボレーション(「Born To Be Yours」)や、映画「名探偵ピカチュウ」にも起用されたリタ・オラとの「Carry On」などで存在感を示してきた。「Carry On」はシンプルながら重層的なビートにリタ・オラのボーカルが映える。トロピカルハウスのスタイルを確立し、ロック的な明快さ&ポップさを経由して、ボーカルやメロディの力強さとそれを支える繊細さのバランスを研ぎ澄ませていることが伺える。

Kygo, Imagine Dragons - Born To Be Yours (Official Video)
Carry On (from the Original Motion Picture "POKÉMON Detective Pikachu") (Official Video)

 そしてリリースされたのが、『Golden Hour』だ。これまで同様、楽曲ごとに多彩なボーカリストを起用した一種のボーカルアルバムだ。カイゴが1st、2ndでそれぞれ披露した音楽性がミックスされたかのような充実を聴かせてくれる。特に、冒頭の「The Truth」のフックとなる聴かせどころで挿入されるハーモニー上のちょっとしたツイストや、続く「Lose Somebody」の骨組みとなるピアノのフレーズが含むテンション感が耳をとらえる。アルバム全体がキャッチーでアンセミックな強いメロディに満ちるなか、絶妙に記憶に残る。ザック・エイベルのボーカルに寄り添ってじっくりとビルドアップしていく「フリーダム」や、ザラ・ラーソンとタイガがフィーチャーされた「Like It Is」といった先行シングル曲を聴くと、いかにカイゴの楽曲がボーカルに牽引されているか――と同時に、ボーカルがビートと調和しているかが改めて感じられる。

Kygo, Zara Larsson, Tyga - Like It Is
Kygo, OneRepublic - Lose Somebody

 シンプルで骨太なメロディセンスと、サウンドやハーモニーの面で感じられる繊細でときにトリッキーなセンス。カイゴが世界的なポピュラリティ――日本でも同様に――を獲得している秘訣が、本作では存分に堪能できる。とりわけサウンドのケアは細やかで、「To Die For」では、ハーモナイザーを用いたバックコーラスやビートがドロップされてからのボーカルのカットアップに、たっぷりとした残響によってオーガニックな手触りが加わっている。「How Would I Know」でも楽器のように配置されたボーカルによって、エレクトロニックなサウンドと生音の境界線が淡く消えていく。こうしたつくりこまれたサウンドは、高揚をもたらすのと同じくらい、包み込むようなやわらかさを持っている。

Kygo - To Die For w/ St. Lundi (Official Audio)
Kygo - How Would I Know w/ Oh Wonder (Official Audio)

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