『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を彩るオーケストラサウンドの魅力 アラン・シルヴェストリの音楽が生み出す“壮大さ”
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のサントラを聴いて思い浮かぶのは、ジョン・ウィリアムズが手掛けた『スター・ウォーズ』(1977年)や『スーパーマン』(1978年)だ。アランが『バック・トゥ・ザ・フューチャー』を壮大な物語として捉えてオーケストラサウンドを考えた時、ハリウッドの映画音楽の巨匠、ウィリアムズのことが頭に浮かんだとしても不思議ではない。デロリアンに乗って過去の世界に向かうマーティンは、宇宙に飛び出していくルーク・スカイウォーカーのようなもの。どちらも、果たすべき大きな使命を抱えている。SF仕立ての学園ドラマと華麗なオーケストラサウンドがユニークなコントラストを生み出して物語に広がりを与える、というゼメキスの演出は成功。小さな町を舞台にした『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は、「時空を超えたロマン」という大きな物語として観客に感動を与えた。そして本作以降、オーケストラサウンドはアランの音楽の特徴になっていく。
『ロジャー・ラビット』(1988年)ではロンドン交響楽団を起用し、トム・スコットやハーヴィー・メイソンなど一流のジャズマンを使ってジャジーなサウンドを展開。『花嫁のパパ』(1991年)では「結婚行進曲」を織り込みながら、ストリングスが美しいメロディを奏でる。その叙情性をさらに際立たせたのが、アカデミー賞作曲賞にノミネートされた『フォレスト・ガンプ/一期一会』(1994年)だ。そうした艶やかなオーケストラ・サウンドを聴かせる一方で、『プレデター』(1987年)では管楽器を強調した重厚で緊迫感に貫かれたサウンドで聴く者を圧倒。このアクション路線はアランの得意とするところになり、『ハムナプトラ2/黄金のピラミッド』(2001年)、『アベンジャーズ』(2012年)など様々な大作で壮大なオーケストラサウンドを鳴り響かせた。そんななか、『アビス』(1989年)では合唱を効果的に使って神秘的なサウンドを生み出したりと、引き出しの多さもアランの魅力だ。
アランのオーケストラサウンドの出発点となった『バック・トゥ・ザ・フューチャー』。本作以降、アランはゼメキスの全作品のサントラを手掛けてきた。これまでアランは『フォレスト・ガンプ/一期一会』と『ポーラー・エクスプレス』(2004年)でアカデミー賞にノミネートされたが、どちらもゼメキスの作品だ。『マーウェン』(2018年)では『バック・トゥ・ザ・フューチャー』にオマージュを捧げたエピソードも出てきて、30年以上続く友情を確かめ合った二人。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』の力強いメインテーマは、マーティンとドクのような最強のコンビが、世界へ飛び出していくファンファーレでもあったのだ。
■村尾泰郎
音楽/映画ライター。ロックと映画を中心に『ミュージック・マガジン』『レコード・コレクターズ』『CDジャーナル』『CINRA』などに執筆中。『ラ・ラ・ランド』『グリーン・ブック』『君の名前で僕を呼んで』など映画のパンフレットにも数多く寄稿する。監修/執筆を手掛けた書籍に『USオルタナティヴ・ロック 1978-1999』(シンコーミュージック)がある。