タランティーノは1969年ハリウッドを“音楽”でどう描いた? 選曲に見るカルチャーの交わりと変遷
クエンティン・タランティーノの最新作『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』では、落ち目の俳優、リック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)と彼の専属スタントマン、クリフ・ブース(ブラッド・ピット)、そして悲劇の女優として記憶されるシャロン・テート(マーゴット・ロビー)が過ごした1969年8月のハリウッドの様子が徹底的なこだわりで再現されている。
「ぼくが子どもの頃、母さんが運転する自動車の窓から観たロサンゼルスの風景がこの映画の原点だ。ぼくはそれをCGなしで再現した」(パンフレットのインタビューより。ただし、タランティーノがロスに引っ越してきたのは1971年)。
まるでオープンワールドゲームをプレイしているかのように、観客を1969年8月のハリウッドに誘うのは、細部まで作り込まれた1969年のハリウッドの風景と、膨大な映画・ドラマの引用をはじめとする様々なカルチャーの断片、そして間断なく流れ続ける音楽だ。ロック、ポップス、映画・ドラマのサウンドトラック、そしてCMソングに至るまで、クレジットによるとその数は約60曲にものぼる。
タランティーノ映画は、音楽の使い方にこそ味がある。ここではその代表的な数曲について、シャロンを中心にストーリーとどのように絡み合っていたのか触れてみたい。
オープニングを飾るのは、Roy Head & The Traitsの「Treat Her Right」。黒人ばりのソウルフルなシャウトと派手なダンスパフォーマンスが人気を博したブルーアイドソウルシンガーのロイ・ヘッドによる1965年の大ヒットナンバーだ。The Beatlesの「Yesterday」と互角にチャート争いをした曲として知られている。「今から話をしようか」という歌い出しが、「ワンス・アポン・ア・タイム~(昔むかし)」というおとぎ話のような映画のオープニングにぴったり。