劇場版『若おかみは小学生!』を音楽から紐解く 藤原さくら&鈴木慶一が描く、おっこの日常と成長

 2018年に公開されて話題を呼んだアニメーション映画『若おかみは小学生!』が、本日5月16日15時25分よりNHK Eテレにて地上波初放送される。全20巻・累計300万部以上のセールスを誇る、令丈ヒロ子の児童文学シリーズを原作とする本作は、交通事故で両親を亡くした小学6年生の女の子・おっここと関織子(CV:小林星蘭)が、花の湯温泉の旅館「春の屋」を経営する祖母に引き取られ、そこに住みついているユーレイのウリ坊(CV:松田颯水)ら不思議な友人たちに助けられながら、若おかみとして頑張る姿が描かれる、コミカルかつハートウォーミングな成長物語だ。

『劇場版「若おかみは小学生!」』オリジナルサウンドトラック

 いきなり突き付けられた非情な現実にもめげることなく、健気に振る舞うおっこの主人公としての快活な魅力(彼女が気丈でいられた理由は、物語を通して、巧みな演出と共に少しずつ明かされていく)、下手なお涙頂戴ものとは一線を画する細やかで感動的なストーリー、映画としての完成度の高さといった部分が話題となり、メインのターゲット層である子どものみならず、大人をも魅了。劇場公開からほどなくしてSNSなどでの口コミで話題となり(新海誠監督がTwitterで本作を絶賛した影響も大きかった)、結果的に息の長いヒットを記録。「第42回日本アカデミー賞」の優秀アニメーション作品賞をはじめ数々の映画賞を受賞するなど、高評価を獲得した。

 監督を務めたのは、『耳をすませば』(1995年)や『風立ちぬ』(2013年)の作画監督を務めるなど、数多くのスタジオジブリ作品にアニメーターとして携わり、『茄子 アンダルシアの夏』(2003年)の監督としても知られる高坂希太郎。脚本は『けいおん!』(2009年)、『ガールズ&パンツァー』(2012年)、『映画 聲の形』(2016年)ほか多数のヒット作を手がけてきた吉田玲子と、一流どころのスタッフが集結。主演の小林星蘭は当時中学生で声優経験はほぼなかったにも関わらず、子役上がりならではの演技力でおっこをとても魅力的な女の子として演じ、おっこのクラスメイトでライバルとなる秋好旅館の若おかみ・秋野真月を演じた水樹奈々ほか、脇を固めるキャスト勢も、それぞれのキャラクターを活き活きと好演。美点を数え上げるとキリがないほどだが、ここではそんな本作を彩った音楽の魅力について、改めて紹介したい。

 まず、劇中で使用されるBGM=劇伴音楽を担当したのは、ムーンライダーズのリーダーとして日本のロックシーンで縦横無尽に活躍してきた鈴木慶一。音楽プロデューサーや作曲家としての顔も持つ彼は、その多彩な音楽的引き出しを活用して、さまざまなタイプの映画やドラマ、CM、さらにはゲーム音楽などを手がけてきたことで知られる。映画では『座頭市』(2003年)や『アウトレイジ』シリーズといった北野武監督作品での仕事、アニメだと鈴木慶一とムーンライダーズ名義で参加した『東京ゴッドファーザーズ』(2003年)などが有名だが、それらでの硬質なエレクトロニックサウンドを駆使した作風とは異なり、『若おかみは小学生!』の劇伴は木管楽器や打楽器・鳴り物系の温かみのある音色を中心に構成。

 素朴かつどこかユーモラスな雰囲気が、田舎の温泉街を舞台にした本作のシチュエーションにピタリとハマっているし、見せ場となるシーンの音楽では生のストリングスを取り入れることで、物語にふくよかな厚みをもたらしている。特にメインテーマ「若おかみは小学生!」は、エンニオ・モリコーネの名曲「Cinema Paradiso」(『ニュー・シネマ・パラダイス』)にも通じる美メロが優しくも胸に迫る一曲。そのモチーフをアレンジした楽曲(「夢の中の両親」「花の湯の鯉のぼり」「テトラポット」など)が劇中で繰り返し奏でられることによって、一層味わい深い効果を生んでいる。

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