劇場版『若おかみは小学生!』を音楽から紐解く 藤原さくら&鈴木慶一が描く、おっこの日常と成長
そして主題歌は、シンガーソングライターの藤原さくらが本作のために書き下ろしたフォーキーなナンバー「また明日」。歌詞は彼女がおっこの目線を意識して書いたとのことで、いくつもの大きな別れを経験しながらも、それを受け止めて前に進もうとするおっこのひたむきさ、それでも拭い去ることのできない寂しさ、溢れ出てくる懐かしい思い出ーー一言では言い表すことのできないいろんな気持ちが、優しくも切ない歌となって紡ぎ出される。ノラ・ジョーンズを想起させるスモーキーで落ち着きのある歌声は、映画を観終わった直後の感傷的な気持ちに心地よく沁み渡るし、mabanuaのプロデュースによるカントリー〜ブルーグラス調のオーガニックなサウンドは、ノスタルジックな響きと共に心を柔らかく包み込んでくれる(チャラン・ポ・ランタンの小春による哀感を帯びたアコーディオンも良いアクセントを加えている)。
藤原は、劇場版の公開に先駆けて放送されたTVアニメ版『若おかみは小学生!』(2018年)でも、第2クールの主題歌「NEW DAY」を担当。そちらでは、おっこのドタバタな日常に焦点を当てたTVアニメ版の作風に合わせてか、mabanua制作によるシャッフルリズムのポップなアレンジに乗せて、新しい一日を一歩ずつ更新していく希望の心情が軽やかに活写されていた。一方の「また明日」で描かれているのは、「さよなら」の先に続く明日をどう歩んでいくのかということ。それは、おっこの内面の変化と成長を丁寧な演出と描写で描き出した、劇場版『若おかみは小学生!』の作品テーマに寄り添ったものと言えるだろう。
なお、劇場版『若おかみは小学生!』では、花の湯温泉の恒例行事である梅の香神社の神楽(祭典の際に神様をまつるために奏される歌舞のこと)が物語の大切な要素として登場するのだが、そこで奏でられる音楽は、箏、三絃、胡弓、十七絃の演奏家である池上眞吾が提供。伝統的な楽器編成なれどモダンさも感じられるアレンジが施されており、雅楽の新鮮な魅力に気づかされるはずだ。
さらに劇中では小林星蘭によるエレクトロポップ調の挿入歌「ジンカンバンジー ジャンプ!」が、おっこのチャーミングな一面を描いたとあるシーンで印象的に使われ、劇場公開時から人気を集めた。それらの楽曲や藤原さくらによる主題歌、鈴木慶一による劇伴音楽は全て、本作のサウンドトラックにまとめられているので、今回のTV放送を機に『若おかみは小学生!』を知った人は、ぜひサントラも手に取ってほしい。
■流星さとる
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