ゲスの極み乙女。『ストリーミング、CD、レコード』レビュー:混沌の先に広がる未来のJ-POP
さて、各曲について、手短に書く。本作の一貫性をあえて述べるなら、心の内にある「やりきれなさ」だろうか。1曲目「人生の針」は川谷の才能が見事に着地した傑作だと述べたい。歌詞はサビで明確にテーマを述べ、全体を通してわからないけどわかる、絶妙な塩梅を実現している。川谷の思想のコアな部分も、本曲で言い切ったのではないだろうか。「針」「縫う」「レコード」「毒」など、ゆるやかに関連しあう語が散りばめられている様も、文学的で美しい(MV内で発表された英訳詞も、直訳でなく、解釈を限定させることもなく、興味深い。来月発売のDeluxe Editionには全曲英訳詞収録予定だ)。
「蜜と遠吠え」はRPGシリーズ『テイルズ オブ』シリーズのテーマ曲への起用が決まっている。世界が明るく開けるような旋律でありながら、曇り空のような切ない歌詞が胸に響く。「私以外も私」「キラーボールをもう一度」「マルカ」は、過去作「私以外私じゃないの」「キラーボール」「女性名前シリーズ(momoe、ハツミ、ルミリー、セルマ、マレリ、アオミなど)」を想起させる題名でありながら、過去を顧みない、むしろ新しい彼らを示すために作られたかのような曲だ。〈キラーボールをもう一度 もう懐かしくならないように〉〈踊り方変える許しを〉ーーゲスの極み乙女。は『ストリーミング、CD、レコード』を完成させ、新たな方法で踊り出したのだと思う。本作はそれぞれの想像力で紐解くのが一番だと感じるので、各曲についてはこの辺りにしたい。
実は最初、私はこの原稿の筆が進まなかった。バンドの、J-POPの新たな可能性に満ちた音楽を一気に享受したことで、脳内が驚いてしまったのだと思う。(筆者含め)リスナーはついてこられるのか、と偉そうに不安になったりもした。しかし、本作を繰り返し聴くうち、ゲスの極み乙女。が私たちの想像に及ばないほど先を見ているのだということに気がついた。すると、長年彼らの音楽に触れてきた者としては、これまでの活動が一つの線で繫がり、必然性、納得感、達成感のようなものを感じるに至った。正直、最高傑作だと思っている。本作を通して、彼らはJ-POPの質を間違いなく上げた。そして「大衆音楽」の定義を変えてしまうのではないかとさえ思う。本作は未来のJ-POPに対する、挑戦状とも言えるかもしれない(挑戦といえば、CDのかわりにpatisserie KIHACHIのバームクーヘンをいれるという世界初の試みを行っているので、おうちスイーツにぜひ)。
■深海アオミ
現役医学生・ライター。文系学部卒。一般企業勤務後、医学部医学科に入学。勉強の傍ら、医学からエンタメまで、幅広く執筆中。音楽・ドラマ・お笑いが日々の癒し。医療で身体を、エンタメで心を癒すお手伝いがしたい。Twitter