星野源『Same Thing』について、いま語り得ること 高橋芳朗とDJ YANATAKEが考える作品の真価

星野源『Same Thing』について語りうること

 2019年10月14日に全世界同時リリースされた星野源のEP『Same Thing』は、日本のポップスの歴史を大きく変えた傑作である5thアルバム『POP VIRUS』の偉業を超えて、新たな「未知なる場所」へと向かっていく、星野源というアーティストのアティチュードを示した作品だった。

 Superorganism、トム・ミッシュ、PUNPEEらかねてより本人と親交のあった国内外のアーティストを迎え、星野のディスコグラフィーを振り返ってみても実に意欲的で「型破り」な作品だったと言っていいだろう。しかしながら、そんなラディカルな作品を、識者たちがどう聴いたのかというところは実は今までしっかりとは語られてこなかったように思う。

 そこで今回、音楽ジャーナリストの高橋芳朗と、インターネットラジオ番組『INSIDE OUT』のディレクターであり、DJとしても活躍するYANATAKEの二人を迎え、『Same Thing』と『POP VIRUS』が予見する、星野源の「今」と「これから」について自由に語り合ってもらった。(小田部仁)

※本稿は星野源の一年間の活動の様子をまとめたオフィシャルイヤーブック『YELLOW MAGAZINE 2019-2020』に掲載された原稿を再編集した上で掲載するものです。完全版は本誌を購入の上、お楽しみください。

『POP VIRUS』は世界の潮流とリンクしていた 

DJ YANATAKE(以下、YANATAKE):この取材を受けるにあたって、星野さんの過去作品を聴き返していて思ったんですけど、『POP VIRUS』ってやっぱり聴けば聴くほど恐ろしいアルバムだなって。尋常じゃないくらい凝ってるアルバムですよね。パッと聴きは普通にポップスとして成立しているのに。そのことに気がつくと、聴けば聴くほど恐ろしくなる。

高橋芳朗(以下、高橋):めちゃくちゃわかります(笑)。『POP VIRUS』に関しては、まだまだ語り足りていないようなモヤモヤ感がちょっとあって。「Pop Virus」のサビの一節〈刻む 一拍の永遠を〉にも示唆的ですけど、時間の経過とともに評価や聴こえ方が変わっていくアルバムになりそうな予感はすごくします。

YANATAKE:たしかにそう思いますね。

高橋:たとえば、『YELLOW DANCER』がJ-POP史におけるエポックな作品であることは間違いないですよね。すでに『POP VIRUS』が存在している現在地から振り返ってみると、さらにぐっと名盤の風格が増してきてる。それはやっぱり『YELLOW DANCER』当時の大きな命題だったブラックミュージックの血肉化が一定の達成をみたということ、そしてもはやそれが星野さんの中でスタンダード化しているということだと思うんですけど。

 本来この流れでいけば同じ路線を継承するアルバムがもう1枚きてもぜんぜんおかしくないんですよ。でも、『POP VIRUS』は『YELLOW DANCER』のパート2ではなかった。それどころか、予想もしていなかった次元の、予想もしていなかった地点にまで飛躍していったという。

YANATAKE:2019年8月に星野さんの音源が一気にサブスクリプションサービスで解禁になりましたけど、これがもう少し早かったら、たとえば『POP VIRUS』のリリースと同じタイミングだったとしたら、一体どうなってたんだろうっていう気もしますね。

 アメリカでは8割の人たちがサブスクで音楽を聴いてるっていう現状をふまえると、『POP VIRUS』がいち早くサブスク解禁されていたとしたら、もしかしたらもっと早く星野さんの音楽は世界中に広がっていたのかもな、とか思ったりもします。

高橋:世界が『POP VIRUS』をどう受け止めるのか、「Dead Leaf」を聴いたりするとすごく興味が湧いてくるんですよ。星野さんは「Dead Leaf」で打ち出した方向性について「ネオソウル+ビーチ・ボーイズ」と説明していましたけど、たとえばジャネール・モネイはアルバム『Dirty Computer』のタイトル曲でまさにThe Beach Boysのブライアン・ウィルソンをゲストに迎えていたし。ジェイムス・ブレイクの最新作『Assume Form』にもアンビエントソウル/ネオソウル的なサウンドにThe Manhattans「It Feels So Good to Be Loved So」のサンプリングをドゥーワップコーラス的に処理して乗せた「Can't Believe the Way We Flow」があって。あと、Vampire Weekendも新作『Father of the Bride』のスティーヴ・レイシーが参加した「Sunflower」でループ感の強いトラックの上にThe Beach Boys風のコーラスを重ねていたりするんですよね。そもそも「Sunflower」というタイトル自体がThe Beach Boysの名盤のオマージュじゃないですか。こういう「Dead Leaf」みたいな曲を聴くにつけ、『POP VIRUS』の秘めた可能性を世界に問いたくなるんですよ。この同時代性には本当にわくわくさせられます。

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