冨田ラボ、4人のシンガー加入の意図とは? 新体制“デビュー曲”での未知なる挑戦、変化/進化の面白さを語る

冨田ラボ、“新体制"で挑む新たな挑戦

 作編曲家として数々のヒット曲を手掛けてきた冨田恵一によるソロプロジェクトとして、20年以上にわたって活動を続けてきた冨田ラボ。これまで作品ごとに多彩なゲストボーカルを招いて楽曲を発表してきた同プロジェクトに、新メンバーの加入が発表された。シンガーソングライターでマルチ奏者としても注目を集める北村蕗、ガールズユニット・Natsudaidaiのボーカルを務めるヨウ、R&BシンガーのArche、そしてオルタナティブクルー・S.A.R.に所属するsantaーー4人の個性あふれるシンガーが、冨田ラボのメンバーとして活動していくこととなった。

 そんな新体制となった冨田ラボをお披露目するシングルが、KIRINJIの堀込高樹を作詞に迎えた「the birds of four」。4人のシンガーが代わる代わるリードをとりつつ、厚いハーモニーを響かせる鮮烈な“デビュー曲”だ。今回、このリリースをきっかけに冨田ラボにインタビュー。新メンバー加入から「the birds of four」制作の舞台裏、そして今後の展望まで、まだ全貌の見えない新たな挑戦に踏み出した冨田ラボの“今”を語ってもらった。(imdkm)

新たな“冨田ラボ”、新メンバー加入という活動形態に至った経緯

――冨田ラボに新メンバーが加わるというニュースには大変驚きました。しかも、シンガーが4人。こうした活動形態に至った経緯を教えてください。

冨田恵一(以下、冨田):この体制は2022~23年くらいから構想していました。これまでゲストボーカルを1曲ごとに招く形でアルバムを7枚作ってきましたが、曲ごとにボーカルが変わるので、1曲1曲を独立した作品として聴いている方も結構多いな、と。冨田ラボの連続性は思っているほど伝わっていないと感じていました。それに、僕は並行してプロデュースの仕事もしているから、そうすると、特に曲も自分で書く場合、冨田ラボとプロデュースワークの差がほとんどなくなってしまう。その時に作りたいものを、ベストを尽くして作り上げるということを目標に続けてきたけれど、次第にそれらに連続性を持たせて、拡張、成長させていく方向に興味が出てきたんです。「この人ともう一度やったら、どう成長できるんだろう」ということを思いついても、これまで“冨田ラボ”の形では難しかった。

 それを実現するために、ボーカリストを据えて曲を作ってみることにしたんです。僕自身は楽器を弾いて曲を作って編曲する人間だけど、やっぱり作りたいのは“歌モノ”。もっと具体的なことを言うと、僕はだいたいの曲で四声でダブルのコーラスを入れるんですよ。それを実現できる編成にしたい。自分の作りたい曲調に合わせて、歌声のバリエーションも必要。そのすべてを満たすような形として、コーラスグループではなく、リードシンガーを複数据えて、それぞれがハーモニー部分も担うことができるようなチームができれば最高だなと。そう思って、メンバーを探し始めました。

――構想から2年くらいかけて、今の形に固まってきたわけですね。

冨田:厳密にいうと、固まったのは1年くらい前かな。今回リリースする「the birds of four」ともう1曲、2024年の夏前くらいに録音した曲もあるんです。それがシンガーの4人がみんな揃って録音した最初の曲。近々発表されると思いますが。

――4人の新メンバーの皆さんにも、お話を伺いたいと思います。皆さん、ソロであったりグループであったり、自分のホームとなる活動がありますよね。そんな中で、「リードシンガーが4人いる新しいユニットで歌う」というのは大きなチャレンジだったと思います。どういう経緯で加入することになったんでしょうか?

ヨウ:冨田さんには、このお話をいただく前にNatsudaidaiとしてプロデュースをしていただいたことがあって、そこからお世話になっています。さらに去年、ドラマ『地球の歩き方』(テレビ大阪/BSテレビ東京)の音楽を冨田さんが制作するにあたって、コーラスをさせていただいたんです。それがご縁になって。皆さん、個性が本当に豊かで、この4人の声が重なったらどうなるんだろう、どんな化学変化が起きるんだろうってワクワクしています。

ヨウ(Natsudaidai)
ヨウ(Natsudaidai)

――ドラマ『地球の歩き方』と言えば、北村さんもコーラスで参加されてますよね。

北村蕗(以下、北村):はい。私もそのサウンドトラックがきっかけで冨田さんとご縁をいただいて、それからこのプロジェクトに参加しました。お話をいただいた時はすごくびっくりしましたけど、どうなるのかすごく楽しみでした。

北村蕗
北村蕗

――Archeさん、santaさんはいかがですか。

Arche:自分の担当ディレクターさん経由でお話をいただいたんですが、びっくりしました。驚きというか、戸惑いというか。今まで“誰かと歌う”ということがあまりなかったので、正直に言うと少し不安というか、ちゃんとできるのかなという思いもありました。

santa:僕もArcheさんと同じディレクターの方からお話をいただきました。昔から冨田さんの曲は聴かせていただいていたので、お話をいただいた時は「マジですか!」みたいな。ぜひ参加したいです、と。普段自分が活動しているS.A.R.でも、自分がメロディや歌詞を考えているんですが、いつもとは違うアプローチを勉強したいというマインドもあって。そのタイミングでお話をいただいたので、自分にとってもいい経験になるなと思って参加しました。

北村蕗、ヨウ、Arche、santaを迎えた決め手とは?

――冨田さんから、皆さんをメンバーとして迎えようと思った決め手について、お一人ずつお話いただいていいですか?

冨田:まず大枠として、最初は男女2人ずつくらいがいいバランスだろうと思って探し始めました。いろいろ聴いていく中で、まずはNatsudaidaiのヨウさんがいいなと思って。その次が蕗さんでした。ベーシストの唐木元さんが蕗さんの動画を紹介していて、それを見て素晴らしいと思ったんです。2人ともいい歌を歌うのはわかったけど、実際どんな人で現場ではどう振る舞うのか、一度仕事してみないとわからないから、まずはドラマの楽曲にヨウさんと蕗さんをコーラスに呼びました。そうしたら、2人はお互いに個性も溶けるし、人間性としても僕はやりやすかった。なにより、音楽に前向きだった。

 女性2人が決まったから、次は男性を探そうと思ったんです。探していく中でS.A.R.に出会って、santaさんの歌声はハーモニーにしても溶けそうだし、何よりメインボーカリストとしてとても好きなアプローチをしていた。そこで声をかけました。で、最初の計画だと、もう1人は男性のはずじゃないですか。でも、Archeさんの声を初めて聴いた時に、男性/女性のジェンダーは関係なく、先に揃った3人とは違うひとつの個性として、この声にも歌ってほしいと思ったんです。おかげで、ハーモニーを作る時に少し低すぎるところをお願いすることも出てきて、それは申し訳なかったんだけれど。でも、この4人の組み合わせはすごくいいと思っています。

――もう少しだけ冨田さんに伺いたいのですが、「コーラスというよりはリードシンガー4人」と表現されていましたけど、リードシンガーとして歌声に求める基準はあったりするんでしょうか?

冨田:言葉を選ばずに言えば、「コーラス向き、不向きよりは、個性的であること」かな。コーラスを得意とする方でも個性のある方はいっぱいいるんですが、コーラスだけを基準にしてしまうと、一人ひとりの個性が薄くなってしまう。一方で、今回参加してくれた皆さんの中には、コーラスをやるのが不安だとおっしゃる方もいて。特に、僕の作る曲は和音の積みが難しかったりもするから。ただ、それは別に練習すれば全然大丈夫なんです。横柄な言い方になってしまうけど、ソロで歌ったときに「この歌が聴きたい、この声が歌うような曲を書きたい」と思えるかどうかのほうが重要でした。

――シンガーの皆さんは、冨田ラボで今回活動を開始して、グループの中で見えてきたことはあったりしますか?

santa:僕は唯一の男性ということもあって、このプロジェクトでは低いメロディを歌うことになるんですけど、普段は結構高めで歌っているんです。なので、ピッチが安定しなかったり、いろいろ苦労したし、面倒もかけたと思います。新しいアプローチを身につけて、より良い楽曲に自分が貢献できたらいいなと思ってはいるんですけど、まだちょっと掴みきれてはいないですね。でも、本当に楽しいです。

santa(S.A.R.)
santa(S.A.R.)

――確かに、今回のシングルを聴かせていただいて、santaさんがシンガーの皆さんの中で一番、普段披露されているスタイルと歌い方も声の出し方も違う印象を受けました。

santa:本当に難しかったです。でも、やっていくうちに「なるほど、すごい」とわかっていくことがあって。やっぱり曲がすごいので、これが歌いこなせるようになったら自分のクルーでも表現の幅が広がるんじゃないかなと思います。

――Archeさんはいかがですか。

Arche:先ほど冨田さんがおっしゃられた、「ジェンダー関係なく、この人に歌ってほしい」っていうのが個人的には嬉しかったです。なぜかというと、すごく昔の話にはなるんですが、コーラスを頼まれたことがあって。その時は自分の声がどうしても浮いてしまって、馴染まないからやめることになったんです。自分で自分の歌にコーラスを重ねるのはすごく好きなんですけど、馴染まないという経験もあってほかの人の歌のコーラスをするのが苦手なんじゃないかと気にしていた時期があって。でも、冨田さんにそういうふうに言っていただけたので自信になりました。むしろ浮いちゃうようなところを、自分にしかない良さとしてもっと出していきたいです。

Arche
Arche

北村:自分は結構コーラスも得意な方だと思っていて。声質も割と馴染みやすい声なんじゃないかと。自分の曲を家で録音する時も、コーラスワークを考えて重ねるのが好きなんです。もともと合唱がすごく好きだったこともあって、4人で一斉に声を出せるっていうのはものすごく楽しい。普段1人で活動している分、同時に一緒に音を出すこと自体がすごく特別に感じるんです。今は一番上のパートを歌わせてもらっているんですけど、内声の部分にも挑戦してみたいですね。

ヨウ:皆さん、いい意味で本当に個性がありすぎる方たちだと思うんです。その中で埋もれないようにしたい、これが私の目標ですね。私自身は特徴的な声や歌い方を持っているわけではないと思っているので、ほかの皆さんに負けない個性を見つけていきたいです。

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