星野源『Same Thing』について、いま語り得ること 高橋芳朗とDJ YANATAKEが考える作品の真価

星野源『Same Thing』について語りうること

誰よりも新しいサウンドでヒットを飛ばすこと 

ーー今回のコラボレーターとは全員、ちゃんと関係性を築いてから楽曲制作に入っているというプロセスも面白い部分で。

高橋:これが初めてのコラボだからというのもあるのかもしれませんが、すごく誠実ですよね。海外アーティストとの共演に関しても、べつに箔をつけたいだとか世界を狙いにいくだとか、そういう意図のもとに行なったものではないことがそこからよくわかります。

YANATAKE:「友だちになったから声かけてみた」っていうカジュアルさがいいですよね。でも、世界的に有名なマーク・ロンソンとはすでにステージでのコラボレーションを果たしていて、横浜アリーナでは「Shallow(A Star Is Born)」(映画『アリー / スター誕生』主題歌)を一緒に演奏しているわけじゃないですか。グラミー賞を獲った楽曲を、つくった人と一緒に演ってるって、もう誰とでもできるんじゃないかとさえ思う。

 つくづく『Same Thing』ってすごく面白い作品だなあと思うのは、英詞に挑戦して、世界にも“普通に”届けていくっていうテーマがありながら、同時にEP4曲目の「私」では、これまでの星野さんのディスコグラフィーの中でも一番難解って言っていいほど、ディープな日本語詞の世界をつくり上げていますよね。

星野源 – 私 [Official Video]

高橋:「私」が入ったことによって、作品にトータル性と深みが加わりましたよね。ただ、最後にこの曲がきたことによって煙に巻かれてしまったというか、これから星野さんがどこに向かうのかまったくわからなくなってしまったような気もします(笑)。

 さっきの『YELLOW DANCER』のパート2の話もそうですけど、やっぱり星野さんは現状維持を良しとしないんですよね。それは星野さん流に言うと「命がけで遊ぶ」もしくは「自分がわくわくできるかどうか」ということだと思うんですけど、この辺の感覚はアメリカのポップミュージック最前線でしのぎをけずるアーティストの美意識に近い。彼らは単に「ヒットを飛ばすこと」にはそれほど価値を見出してないんですよね。「誰よりも新しいサウンドでヒットを飛ばすこと」が重要なんです。

YANATAKE:やっぱり自分が星野さんの音楽が好きなのも、結局はそういう挑戦し続けているところなんですよ。ヒップホップもそうですけど、時代は常に変わり続けていて、進化し続けている。そう考えると、今日リリースされるものが一番カッコいいわけで。

高橋:星野さんもヒップホップに惹かれる理由として同じようなことを話していました。今リアルタイムで聴いてこその音楽だろうと。そういうヒップホップのイズムみたいなものに影響を受けている部分もきっとあると思います。星野さんが大好きなカニエ・ウェストもデビュー以来同じようなアルバムをつくったことは一度もないですから。

YANATAKE:カニエ・ウェストが『808s & Heartbreak』をリリースしたとき、あまりに音楽的に攻めすぎていて、誰もよく理解できていなかった。それが今じゃ、世界中の音楽メディアで2010年代の一番重要なアルバムとしてリストアップされたりしているわけじゃないですか。「この人がやってるんだったら、よくわかんないけど絶対カッコいい!」って思わせられる存在になっていってほしいです。

高橋:『POP VIRUS』は『808s & Heartbreak』みたいな「十年殺し」的アルバムになるかもですね。

YANATAKE:そうですね。だから毎年、定点観測してみても面白いかもしれません。「今年『POP VIRUS』と『Same Thing』はどう聴こえたか?」ということを同じ時期に企画してみたり。

高橋:フフフフフ、それは面白いかも。とくに今回の『Same Thing』は、星野さんの「次の一手」によってだいぶ印象が変わってくると思います。

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■DJ YANATAKE
やなたけ/DJ、ラジオパーソナリティ、PRディレクター。レコードショップ『Cisco』のHip Hopチーフバイヤーを務め、Def Japanの立ち上げなどに携わる。ヒップホップ専門ラジオ局『WREP』に編成局長として、音楽ストリーミング・メディア『タワレコTV』にディレクターとして、携わるほか、block.fmの番組『INSIDE OUT』ではパーソナリティーを務めている。

■高橋芳朗
たかはし・よしあき/1969年生まれ。音楽ジャーナリスト、ラジオパーソナリティ。タワーレコードのフリーペーパー『bounce』および、雑誌『blast』の編集部に所属したのち、2002年よりフリーランスに。

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