『日向坂46ストーリー』、なぜ大ヒット? 2層のファンニーズを満たした仕掛けを考察

 その一方、日向坂46として初めて彼女たちを知ったファンにとっては、この作品は絶好の“教科書”となること間違いない。MCのオードリーと阿吽の呼吸を披露する冠番組『日向坂で会いましょう』(テレビ東京)をはじめ、テレビやラジオなどのメディアを通してメンバーの活動に触れ合う場面も、ここ最近はますます多くなっている。グループでの音楽活動以外から、彼女たちに興味を惹かれたファンも少なくないだろう。そんな彼らにとって、けやき坂46として築き上げた文脈を共有することはとても新鮮に映るはずだし、何よりもメンバー自身の努力がまた新たに報われる最高の機会になるのではないだろうか。

 ともあれ、人がアイドルを好きになる瞬間は様々。十人十色のきっかけから、緩やかな流れを伴って徐々に“好き”の感情を膨らませていくものだ。本稿では便宜上で用いたが、上記のような日向坂46以前/以後といったファンの明確なカテゴリ化は難しいものだ。

 しかしながら今回の書籍は、日向坂46の歴史を振り返りながら、彼女たちと築いた読み手自身に内在する象徴的なエピソードへと改めて目を向けさせるだけでなく、その想いを整理する良き材料となるだろう。『日向坂46ストーリー』は、読者が“自分だけの日向坂46”に出会う時間を提供しているからこそ、大ヒットを記録したのかもしれない。

 最後に筆者が本書を読んだ上で感じたのは、一話ごとにスポットを当てるメンバーを絞り、数ページの短編完結形式を採用するなど、彼女たちを知らない初心者でも内容を簡潔に理解し、存分に楽しめる構成であること。また、次のエピソードの中心となるメンバーについて、その人物の絡むフック的なエピソードをその前段階でピックアップするなど、続きの展開が気になる仕掛けも施されており、アイドルとしての彼女たちを知らずとも、その人となりや活動背景を一から丁寧に描くことで、シンプルに読みものとして成立している。

 ここまで記したような日向坂46の数奇な歩みが読み手を惹き寄せ、彼女たちの物語が今この瞬間にも更新されている事実に喜びを覚え、きっと誰かに“共有”したくなる。日向坂46の歩みを語る上で、これ以上ない作品といえる『日向坂46ストーリー』。その存在をまだ知らない人が周りにいるならば、“ひらがなからはじめよう”と優しく誘ってみてはいかがだろうか。

◼︎一条皓太
出版社に勤務する週末フリーライター。ポテンシャルと経歴だけは東京でも選ばれしシティボーイ。声優さんの楽曲とヒップホップが好きです。Twitter:@kota_ichijo

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