Code Orange、オジー・オズボーン、5FDP、In This Moment……良作続きのメタル/ラウドシーンで注目すべき7作

Dizzy Mizz Lizzy『Alter Echo』

Dizzy Mizz Lizzy『Alter Echo』

 1990年代半ばに「Glory」が日本でも高く評価されたデンマークのトリオバンドDizzy Mizz Lizzy。一度は解散するものの、2010年代に活動再開。2016年には実に20年ぶりとなる新作『Forward In Reverse』(2016年)を発表し、以前と変わらぬ“グランジ+プログレ”的スタイルでファンを喜ばせました。

 あれから4年を経て届けられた、通算4作目の新作『Alter Echo』は前作で見せた“らしさ”を残しつつも、バンドとしてさらなる進化を遂げたことを証明してくれます。ミディアムテンポの楽曲を中心に進行していく作風からはバンドとしての安定感が伝わってきますが、ダークなトーンで統一された質感や鳴らされている音、テクニカルなのにそれを意識させないくらいに自然な形のバンドアンサンブルは非常に“今”を意識したもの。テンポ感は似ているものの、リズムの組み方やアレンジで変化を付けることで聴き手をまったく飽きさせないのは、さすがの一言です。また、本作最大の魅力はアルバム後半5曲、トータル23分におよぶ組曲「Amelia」の存在でしょう。単体でも楽しめる完成度を誇る楽曲群ですが、サブスク全盛の今だからこそぜひ5曲続けて、いや、アルバム通して聴いてもらい、その作り込みの“異常さ”に気づいてもらいたいところです。

Dizzy Mizz Lizzy - California Rain

Five Finger Death Punch『F8』

Five Finger Death Punch『F8』

 2010年代のアメリカのHR/HMシーンを牽引し続けているバンドのひとつがFive Finger Death Punch(以下、5FDP)でしょう。ここ日本では知名度がそこまで高くない彼らですが、これまで発表した8枚のアルバム中7枚が全米トップ10入り。今回紹介する『F8』も全米8位と、ロック/メタル作品の売り上げが低迷しているアメリカにおいて健闘を続けています。

 前作『And Justic For None』(2018年)から1年9カ月という短いスパンで届けられた本作のテーマは“Rebirth”。メンバーのドラッグ問題、ドラマーの交代などバンドに訪れた数々の困難を乗り越え、再デビューのつもりで制作に臨んだ本作は、楽曲面でこれまで以上の幅広さを見せています。5FDPといえばPantera以降のグルーヴメタル、ロブ・ゾンビなどのデジタル要素を同期させたモダンメタルなどの正統的後継者という印象が強いですが、本作ではそういった要素を残しつつもアコースティックギターやストリングスをフィーチャーした楽曲や、グランジ/ラップメタル/メタルコアなど過去30年のUSエクストリームミュージックを総括するようなスタイルが随所に散りばめられており、バンドが新たなフェーズに突入したことを感じ取ることができます。過去の歴史を飲み込んで反芻し、新たな形に再構築した本作のサウンドは、2020年代のUSメタルシーンの新たな幕開けを宣言するような1枚です。

Five Finger Death Punch - Inside Out (Official Music Video)

In This Moment『Mother』

In This Moment『Mother』

 女性シンガーのマリア・ブリンク(Vo)をフロントに擁するIn This Momenthは、初期こそ激情型メタルコアサウンドで注目を集めましたが、そのスタイルをエレクトロ/インダストリアル色の強いゴシックメタルへと徐々に移行。前作『Ritual』(2017年)ではJudas Priestの“メタル・ゴッド”ロブ・ハルフォード(Vo)をフィーチャーした「Black Wedding」、フィル・コリンズの大ヒット曲「In The Air Tonight」のカバーなどがヒットしました(日本盤ではRadiohead「Creep」のカバーも)。

 通算7作目のオリジナルアルバムにあたる本作も、基本的には前作の延長線上にある作風ですが、ダークなゴシックメタルサウンドはより深化。時にパワフルに歌い上げ、時に気怠さや妖艶さを表現するマリアの歌唱スタイルと、デジタルエフェクトを施したミディアム/スローナンバーが軸となる楽曲群との相性は抜群で、ここ数作での経験がしっかりと反映された“2020年代の幕開けにふさわしい新たなスタンダード”と言える内容に仕上げられています。また、今作にもQueen「We Will Rock You」というカバー曲が用意されていますが、ここではHalestormのリジー・ヘイル、The Pretty Recklessのテイラー・モムセンとの“女性ロックボーカルバトル”も楽しめます。

In This Moment - "The In-Between" [OFFICIAL VIDEO]

Blood Incantation『Hidden History Of The Human Race』

Blood Incantation『Hidden History Of The Human Race』

 今回最後に紹介するのは、アメリカ・コロラド州デンバー出身のデスメタルバンド、Blood Incantationの2ndアルバム『Hidden History Of The Human Race』。海外では昨年11月末に発表済みですが、ここ日本では今年2月中旬にリリースされたこともあって、このタイミングに改めて紹介させてもらうことにしました。実は、昨年末の新譜キュレーション連載年間ベスト企画(※参照:西廣智一が選ぶ、2019年ラウドロック年間ベスト10 BMTH、Russian Circles、Slipknotなど意欲作が気になる1年に)執筆後にこのアルバムに触れたため、残念ながら10枚の中に選ぶことができなかったのですが、今なら間違いなく10枚の中に入れるマスト作です。

 フレットレスベースプレイヤーを擁する4人組の彼らは、80年代後半~90年代前半のオールドスクールデスメタルをベースに、テクニカルかつプログレッシヴな要素が強調された演奏スタイル/アレンジを武器に知名度を広めつつあります。また、GatecreeperやVenom Prison、Undergangなどオールドスクールデスメタルを新たな形でリバイバルさせたバンドに脚光が当たり始めており、Blood Incantationもそのひとつに挙げられています。

 文字通りホラーやオカルトをテーマとした歌詞や、現代社会の闇を取り扱うほかのデスメタルとは異なり、彼らはSFや神秘性の高い宇宙をテーマにした“コズミック・デスメタル”という枠に括られるところも強烈な構成のひとつ。日本盤のCD帯に「ブルータリティ(=残忍さ)と知性の対比」とのキャッチコピーが載っていますが、まさにこのバンドのためにある表現でしょう。18分におよぶ組曲「Awakening」でのまったく飽きさせない構成/表現力といい、日本盤のみ付属のアルバム本編のインストゥルメンタルディスクで楽しめる技術/演奏力といい、並のバンドではないことはこのアルバムから十分に伝わるはずです。今年11月には待望の初来日も予定されていますが、その頃には健康的な世の中になり、無事開催されていることを願ってやみません。

BLOOD INCANTATION - Slave Species of the Gods (OFFICIAL VIDEO)
RealSound_ReleaseCuration@Tomokazu Nishibiro_20200405

■西廣智一(にしびろともかず) Twitter
音楽系ライター。2006年よりライターとしての活動を開始し、「ナタリー」の立ち上げに参加する。2014年12月からフリーランスとなり、WEBや雑誌でインタビューやコラム、ディスクレビューを執筆。乃木坂46からオジー・オズボーンまで、インタビューしたアーティストは多岐にわたる。

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