fripSide 八木沼悟志が語る、『とある科学の超電磁砲T』OP曲で挑戦した“原点回帰”

fripSide 八木沼悟志インタビュー

原点回帰というのもすごくチャレンジングなこと

fripSide"final phase” MV short ver.(TVアニメ『とある科学の超電磁砲T』OP)

ーーそういう技術を得た今、約7年ぶりに『超電磁砲』シリーズのテーマソングと向き合うことになったわけですが、今回はどういったことを意識しましたか?

八木沼:アニメとしては重要タイトルでもあるので、作品のファンをがっかりさせたくない、これが第一ですね。fripSideがずっとオープニングテーマをやらせていただいているという背景もありますから、アニメファンをがっかりさせるのは一番ダメだなと。でも、それをやりすぎると今度はfripSideのファンががっかりするんじゃないかなと。

ーー双方を納得させなければならない。

八木沼:じゃあ、ちょうどいいところは何かといったら、「only my railgun」という一番いい正解があるわけじゃないですか。「only my railgun」からちょうど10年経ちましたし、そこに原点回帰すると同時に今の僕の音、今の南條さんの声に完璧に合致したもの、かつ現代のテイストをプラスしてより洗練されたものがいいのかなと思いました。fripSideと『とある科学の超電磁砲』という作品のコラボレーションで安心感というものが担保された上に、プラスアルファのドキドキ感やワクワク感、そういうものが乗るとちょうどいい味付けになるのかなと。

 実は、原点回帰というのも僕の中ではすごくチャレンジングなことで。変えることはいくらでもできるし、簡単なんですよ。だけど、根本にあるものや方向性を変えずに完全新作を作ることは非常に難しいんです。

ーー原点回帰ってうがった見方をすると、マンネリや焼き直しと言われかねないですし。

八木沼:ですね。音楽への評価って相対的なものなので、これを良いという人もいれば「なんだよ」と不満を感じる人もいるでしょう。でも、僕らとしてはすごく納得できて満足いくものになったし。だって、『超電磁砲T』のオープニング映像と一緒に「final phase」を聴いてみてくださいよ。あんなに映像に合った曲はないなと思いますよ(笑)。

 だって、7年ぶりですから。この「7年ぶり」という事実も僕の中で大きなウエイトを占めていて、この曲でみんなに「おかえり!」と思わせたかった。オープニングで「『超電磁砲』が帰ってきた!  美琴(御坂美琴/『超電磁砲』シリーズ主人公)おかえり!」ってお客さんたちに言わせたくて、こういう原点回帰的である種古典的なfripSideに一度立ち返った、でも最新バージョンでお届けするという、そういう曲ですね。

ーー歌詞についてはどうでしょう。今回の『とある科学の超電磁砲T』は大覇星祭編が原作ですが、そのストーリーを踏まえた上で作詞したわけですよね。

八木沼:そうですね。「final phase」の歌詞は大覇星祭編の終盤、クライマックスに焦点を合わせているんです。かなりシリアスな展開が待っていますけども、それが終わったあとにもう一回この曲を聴いてもらったら皆さんに「なるほどな」と感じてもらえると思うんです。もちろん、その前に歌詞でアニメのネタバレをするわけにはいかないので、今はところどころ「これってどういうことなんだろうな?」ってわからない部分も、最後までアニメを見終えたあとにもう一回聴くと理解してもらえるのかなと。「final phase」というタイトルも含めてですけどね。

実は限定されるようなワードは入れていない

ーー続いてカップリング曲「promenade」についても。こちらも歌詞がめちゃめちゃ素晴らしくて、メロディ含めてグッときました。

八木沼:おお、ありがとうございます! この曲にはメロディメイカーと作詞家を同時にやっている良さが出たなと思っていたので、実はそう言っていただけることがすごくうれしいんですよ。最近ラブバラードをあんまり書いてないなとずっと思っていたので、ちょうどいい機会というか。この『final phase』というシングルは僕らの作品の中でも注目度が高いと思うので、自分が思いっきりやりたいことを2曲目に入れてやろうと思った作った曲なんです。実際、「final phase」みたいな曲も僕らしさではあると思うんですけど、もともと「promenade」みたいな曲のほうが得意というか、自分の素により近いんですよ。

ーーすごく詩的な歌詞だなと思いましたよ。

八木沼:この「promenade」は自分のリアルに置き換えていただいてもいいですし、「そんなリア充じゃないよ」って人は自分が好きなアニメ作品のキャラクターに寄せていただいてもいいです。まだ子どもだよっていう人には「大人の世界にはこういうこともあるのかな」とか、いろんな捉え方ができるんじゃないかな。特に恋愛を通じて別れを一度や二度経験したことがある人ならグッとくるポイントがいくつかあると思うので、そういうところも楽しんで聴いてもらえたらうれしいです。

ーーそれこそ思い浮かぶ絵も聴く人によって異なると。

八木沼:そうですね。実は限定されるようなワードは入れていないんですよ。僕は対人間で書いたものの、だからこそペットに置き換えても成立するし。対象や焦点を絞らず、かつボヤッとはしていないから心にダイレクトに響くという歌詞が書けたんじゃないかと思っています。

ーー確かに具体的なワードがひとつでも入ると、そこに意識が向くから、そのイメージで解釈してしまいがちですものね。素人感覚ですが、そういうワードが入らない作詞って難しいんじゃないですか?

八木沼:うん、難しいと思います。下手にそれをやると、今度は全体的になんのピントも合っていない作品になってしまうので。

ーーまた、この歌詞とメロディを歌う南條さんの歌もすごくグッと来るものがあって、特に2サビからの盛り上がりがめちゃめちゃ素晴らしいんですよ。

八木沼:そうなんですよ。当然、彼女の歌がこうなるであろうなと、そういう期待に寄り添って作っている曲でもあるので、良いケミストリーが生まれたと思ってます。

ーーデジタルサウンドなのに情感豊かな2曲が並ぶ、エモーショナルな1枚に仕上がりましたね。

八木沼:それこそが僕たちfripSideの良さでもあるのかな。ライブでは曲や演奏がすごくハードだったりシリアスだったりするんですけど、MCはユルいとか、そういう対比がないと。片一方をどれだけ突き詰めても、良さは出ないんですよね。なので、そういうコントラストは非常に重要だと思っています。今回、「final phase」と「promenade」という2曲が選ばれたのも、僕たちのそういう気持ちの表れなのかなという気がします。

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